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大麻も関係?電子たばこによる呼吸器疾患 CDC、FDAが全米に注意喚起

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
電子たばこのように、大麻を吸う製品もある(写真:ロイター/アフロ)

ニコチンだけじゃなく、大麻も

 米国ウィスコンシン州ミルウォーキー市の公衆衛生当局は8月28日、すべての電子たばこの使用を中止するよう、住民に呼びかけた。同州では、電子たばこによる化学性肺炎(化学物質による肺の炎症)で16人が入院した。

 同市の発表によれば、これらの患者は、入院以前にニコチンや大麻オイル等を含む、さまざまな電子たばこ製品を使用していた。(注1)

FDA、CDCが全米に注意喚起

 中・高校生など若年層を中心に、電子たばこの使用で重篤な呼吸器疾患を起こし、病院に運び込まれる例が全米で急増している。電子たばこ関連の有害事象報告は、8月末までに25州から合計215件にのぼった。これを受け、米国の食品医薬品局長(FDA)および米疾病対策予防センター長(CDC)は8月30日、電子たばこ使用について注意を喚起する緊急共同声明を出した。(注2)

 電子たばこは、内蔵タンクまたはカートリッジに入った液体(リキッド)を電気で加熱し、発生する蒸気を吸う仕組み。米国ではベイパー(Vapor)とも呼ばれている。リキッドの主成分はプロピレン・グリコールやグリセロールといった化学物質で、ニコチン入り、なしにかかわらず、メンソールからバブルガム、ミルクシェークなどさまざまな味があり、10代の若者にも利用者が多い。

 また米国では医療目的、嗜好目的での大麻使用を合法化する州も増えてきており、リキッドに大麻成分を加えた製品もある。

原因は一つではない

 FDAが、これまでに持ち込まれた80の製品を分析したところ、異なるタイプの多様な配合物質が含まれており、問題となっている呼吸器疾患の原因が一つの製品、一つの物質に特定されることはなさそうだという。

 ただし呼吸器疾患を起こした多くの事例で、テトラヒドロカンナビノール(THC、精神活性作用のある大麻の有効成分)やカンナビジオール(CBD、精神活性作用のないカンナビノイド成分)を含む電子たばこ製品を使用していた。

 現段階では、呼吸器疾患を引き起こす電子たばこ製品は特定できず、複数の配合成分が関係している可能性もあるため、FDAは引き続き電子たばこ製品についての情報収集と分析を行っていくという。(注3)

若者の電子たばこ使用が蔓延

 米国では電子たばこを購入できるのは、18歳以上(州によっては19歳、あるいは21歳)。規制は強化されつつあるが、年齢確認がゆるいオンライン購入や、街中で違法売買が行われることも少なくない。昨年11月に医学学術誌のJAMA Pediatricsに発表された調査によれば、3人に1人の高校生が電子たばこを吸ったことがあると答えた。また11人に1人に近い割合の中・高校生が、大麻を含んだ電子たばこを吸ったことがあると答えている。(注4)

 FDAや全米の公衆衛生当局と連携をとりながら調査を進める一方で、CDCも8月30日に、電子たばこに関する情報と助言を含む「ヘルス・アドバイザリー(健康に関する勧告)」を、全米の公衆衛生関連機関に通知した。(注5)

 CDC勧告によれば、電子たばこ製品にはニコチンや鉛などの重金属、発がん性のある化学物質などが含まれている可能性がある。またリキッド用のカートリッジに規制薬物を詰め替えたものが街中で違法販売されていたり、リキッドを高温加熱してTHCやCBD濃縮物にするために電子たばこ装置が使われていたりすることもある。

禁煙は電子たばこ以外の方法で

 電子たばこが原因と思われる呼吸器疾患を起こした人からは、咳、息切れ、胸の痛み、吐き気、嘔吐、下痢、発熱、頻脈、体重減少、白血球の増加などの症状が報告されている。こうした症状は数日かかって悪化していくが、時には数週間にわたることもある。

 CDCは消費者に対し、以下の助言を行っている。

  1. 上記の症状に思い当たる場合は、電子たばこの使用を控える。
  2. 街中で違法販売されている電子たばこ製品を買ったり、電子たばこ製品を改造したり詰め替えたりしない。
  3. 若年者、妊娠中の女性、また現在、たばこ製品を利用していない人は、電子たばこを使用すべきではない。電子たばこを使っている人は、咳や息切れなどの症状に注意し、異変に気づいたら医師に相談する。
  4. 禁煙を試みる成人スモーカーは、FDA承認を受けている薬剤など、科学的証拠のある禁煙法を実施する。有効性が証明されていないため、FDAは現在のところ、禁煙目的での電子たばこは承認していない。

8月30日付、CDCヘルス・アドバイザリーより

関連リンク

注1.ミルウォーキー市公衆衛生局のプレスリリース (英文リンク)

注2.CDCセンター長、FDA長官の共同声明 (英文リンク)

注3.FDA発表 E-Cigarette Products: Safety Communication - Due to the Incidents of Severe Respiratory Disease Associated with Use of an E-Cigarette Product(英文リンク)

注4. JAMA Pediatrics Prevalence of Cannabis Use in Electronic Cigarettes Among US Youth Nov 2018(英文リンク)

   USA Today紙 More teens are vaping marijuana than we thought, researchers say 2018年9月18日付 (英文リンク)

注5.CDCヘルス・アドバイザリー Severe Pulmonary Disease Associated with Using E-Cigarette Products (英文リンク)

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

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