気象予報士制度は必要か?「予報士1万人」時代の気象業界を考える(4)

2017年台風第18号。台風情報は極めて重要だ。(ウェザーマップ予報資料より)

■ 台風情報は気象庁の「シングルボイス」が定められている

 台風は言うまでもなく、日本を含め東アジア各国にとって大きな災害をもたらす現象だ。その予報は防災上非常に重要で、通常の天気予報とは異なり、扱いがさらに厳格に定められている。

台風予報の例。気象庁発表の予想進路はよく目にする。(ウェザーマップ予報資料より)
台風予報の例。気象庁発表の予想進路はよく目にする。(ウェザーマップ予報資料より)

 台風情報(現在の位置や勢力など現況についての解析結果や、進路・強さなどの予報)は気象庁の専管事項とされていて、予報業務許可事業者であっても不特定多数の一般向けには独自予報をしてはならないとされている(気象庁「気象等の予報業務の許可等に関する審査基準」に記載)。あくまで、気象庁の台風情報の「解説」しかできないという決まりなのだ。

 防災上影響が非常に大きいものは複数の情報が乱立すると混乱のもとになるとの判断で、気象庁のように責任ある機関からの単一的な情報であるべきというのが気象庁のスタンスなのである。このように情報の発信源がひとつに絞られることを「シングルボイス」と呼び、台風情報は通常の天気予報よりもなおさら配慮が必要であるため当然な面もあると思う。気象警報の発表についても同様の理由から、気象庁以外には認められていない。

■ 広く知られつつある「外国発の台風予報」

 しかしながら、現状で、台風情報についての「シングルボイス」は完全に成立しているのだろうか。

 先に述べたように、台風は主に東アジア各国に重大な影響を及ぼす現象であり、実は、周辺各国のほか欧米の気象機関・研究機関や軍事当局も、進路などの予報を適宜発表しているのだ。それぞれの国が自国民や自国の艦船・航空機などを災害から守るために力を入れて台風予報に臨むのは当然だろう。そして、その予報は広く周知されるべきであり、現代においては重要な伝達手段のひとつとして、インターネットで各機関のホームページに掲載されて発信されているのだ。もちろん、その台風予報は日本においても閲覧することができる。

欧米の気象機関と日本の気象庁との台風進路予報の精度比較。(気象庁資料より引用)
欧米の気象機関と日本の気象庁との台風進路予報の精度比較。(気象庁資料より引用)

 しかも、気象庁の数値予報技術はここ数年、欧米に水をあけられつつある状況であり、「外国の気象機関のほうが、日本の気象庁より当たる」と信じている人もいるようだ。この検証結果のみを見て「日本の気象庁の台風予報のほうが、外国の機関のものよりも当たらない」とは一概には言えないのだが、筆者もオフィシャルな台風の解説会の場で「米軍の発表している台風予報をいつも参考にしていて、今回は米軍はこう言っているのだが…」などと気象台に対して質問するライフライン担当者の発言を聞いたことがある。

 近年では日本のメディアでの気象解説においても、米軍やヨーロッパの気象機関など外国発の台風予報を「紹介」する場面を見かける。今季は、海外の気象機関が計算した10以上の数値予報結果を比較・解説したテレビ番組やインターネット記事も目にした。次第に外国の気象機関などが発表する台風予報も一般に知られるようになり、ライフラインなどの直接的な防災担当者ではない一般の人でも、テレビやインターネットなどで外国の予報を見たことや参考にしたことのある人は少なくないと思う。

■ 外国の予報を伝えるのは予報?解説?紹介?

 さて、このように「他国の気象当局はこういっています」と伝えるのはただの「紹介」なのか。それとも、それに言及すること自体が、社会に混乱をもたらすとされる違法な行為なのか。しかし、仮に違法だとしても、日本国内にあるテレビ局や民間気象事業者、気象解説者をとがめることはできても、諸外国の気象機関に「日本ではホームページで見られないようにしてください」と要請することはできないだろう。そうした諸外国発の情報が、SNSなどで広く拡散する時代でもある。

外国発の台風予報の例。(米軍合同台風警報センターのウェブサイトより引用)
外国発の台風予報の例。(米軍合同台風警報センターのウェブサイトより引用)

 しかもこの情報はいわゆる「フェイクニュース」の類ではないため、内容が間違っているとして全否定することもできない。ましてや、さまざまな外国の機関が予想した結果を見比べてもらうことにより、「今回の台風の進路予想は、外国の機関の予報でも同じように予想されていますので、信頼度が高いです」や「まだまだ各国によってバラつきがあるため、進路ははっきり予想できないですね」など、上手に読み解くことができれば、そこから得られる情報の防災的価値が高いことも否めないのである。

■ どこからが「台風予報」なのか

 また、別の観点として、気象庁の台風情報について、その予報の理由などをメディアで伝えるのは「解説」なのだろうか。

気象庁発表の台風情報の例。文章で警戒事項についても記載。(気象庁発表情報より)
気象庁発表の台風情報の例。文章で警戒事項についても記載。(気象庁発表情報より)

 「この予報円の通りには進みません。私はこう思います」と伝えるのは現状では明らかに違反だと思うが、気象学的な検討をもとに、「いま予報円が大きいのは、速度についての予報の誤差が大きいから。前後方向の差が大きいため、予報円が大きく表示されています。左右方向の進路のブレはほとんど予想されていないので、コースとしては予報円の中心付近を通る可能性が高いのです」という発言をした場合、これは独自予報なのか、解説なのか。気象庁が発表する予報円が真円でしか表示されない現行の台風の進路予報の弱点を理解したうえで話しており、この解釈が正しいのであれば、とても有益な防災情報ともいえるが、気象庁が言及していないことまで踏み込んで伝えているため厳密には違反だとされる可能性が高いだろう。

 極端な話、台風情報については「気象庁発表のご覧の通りです」としか言えないのか。また、逆を言えば、気象庁に取材をして、こうした解釈の説明をされれば、それをテレビやインターネットなどで伝えることは問題ないのだろうか。どこまでがOKでどこからがNGなのか、気象技術者にとって少しでも有益な情報を伝えたい場面のひとつが台風接近・通過時であり、線引きが難しい問題でもある。

■ すでに現状は制度開始当初の想定外ではないか

 ただし、現実に目の前に起こっていることとして、冒頭に述べたとおり、諸外国の気象機関が発表した台風予報が比較的広く知られてきており、それを全て縛るということは困難だと思う。

 「知る権利」・「社会の混乱を引き起こさないようにする責任」・「規制緩和」・「自己責任」といったキーワードで示されることのうち、どれを重視するのかというジレンマに加え、すでに外国発の予報が広まって伝えられている以上、「現状に即した最善策を考える」のが大切なのではなかろうか。

 現行の台風情報に関する規制だけでなく、前回示した台風以外の天気予報の独自予報許可制度についても、インターネットがこれほどまでに大きな発信力・影響力を持つようになった現代においては、必ずしもそぐわなくなってきたと思えてならない。この約四半世紀のうちに、時代は大きく変わったのだ。

 次回(第5回)は、これまで4回にわたって見てきた内容を受けて、気象業務・気象業界の将来について考える。次々回(最終回・第6回)にかけて、どうすれば気象予報士制度がより良いものとなっていくのか考えていく予定だ。

◆ これまでに配信済みの記事 ◆

 気象予報士制度は必要か?「予報士1万人」時代の気象業界を考える(1) (2017年9月15日)

 気象予報士制度は必要か?「予報士1万人」時代の気象業界を考える(2) (2017年9月19日)

 気象予報士制度は必要か?「予報士1万人」時代の気象業界を考える(3) (2017年9月22日)