気象予報士制度は必要か?「予報士1万人」時代の気象業界を考える(1)

気象予報士制度は23年に。技術が進歩しても、予報はまだまだ難しい。(著者撮影)

 気象予報士制度が始まって23年、まもなく四半世紀になる。気象予報士の人数は毎年着実に増え続け、現在は1万人に達する勢いだと聞くと、驚く人も少なくないだろう。ところが、一時は人気の国家資格として取得を目指す人が少なくなかった気象予報士だが、現在は試験の受験者数が少しずつ減ってきているのだ。

 また、気象予報士資格の制度が始まった頃に比べて、社会は大きく変わり、よく言われることだが、インターネット社会、スマホ社会となった。どこにいても手軽に「情報」を入手でき、自らも発信できる時代だ。気象の情報についても例外ではない。

 一方、近年の災害発生状況を考えると、気象予測技術は日々進歩しているのにも関わらず、大雨・台風などによる犠牲は毎年後を絶たない。そうした中、各地で地元に密着した気象技術者を活用する方策が検討もされている。

 今後、こうした社会環境において、気象予報士制度はどう対応していくべきなのだろうか。そもそも、気象予報士制度は必要なのか。これから6回にわたって、具体的に丁寧に考察してみたいと思う。

■ なぜ「気象予報士」という資格制度があるのか?

 「気象予報士」制度は、気象業務法の改正に伴って1994年から始まった。それまでは不特定多数に向けて(一般向けに)天気予報を発表するのは気象庁以外認められていなかったが、規制緩和の流れで、条件付きの解禁となったのだ。「気象予報士」という技術者がさまざまな天気現象の予想を行うこととし、気象庁に届出・許可を得れば、民間の会社・団体・個人でも広く「独自予報」を発表できるようになったのである。こうした予報業務の許可を得た者を「予報業務許可事業者」と呼んでいる。

 科学的根拠に基づかない不適切な気象情報(いわばデタラメな予報)が流され、社会に混乱をきたすことのないようにするため、気象庁が指定する気象業務支援センターが実施する国家資格「気象予報士」試験によって、適切に気象予報ができる者を認定し、その者にさまざまな気象の現象の予想を行わせるならOKという仕組み。許可業である「独自予報」発表の技術的な担保として、「気象予報士」制度があるわけだ。

 ちなみに、テレビの気象解説など、気象庁や予報業務許可事業者が発表した天気予報を「解説」するだけならば、気象予報士の資格は必要ない。タレントやアイドル、アナウンサーなどが天気予報を伝え、解説しても構わないのはそのためである。気象予報士資格を持たないお天気キャスターもいる。 

■ 気象予報士の人数は?

気象予報士試験の受験者数は漸減中。(支援センター資料より作成)
気象予報士試験の受験者数は漸減中。(支援センター資料より作成)

 気象予報士試験は年2回のペースで実施され(初年度だけは年3回)、2017年8月までに通算48回実施された。試験には実務経験などによる受験資格の制限はなく、受験料さえ支払えば概ね誰でも受験することができる、門戸の広い資格だ。試験に合格した後に気象庁に申請することで「気象予報士」として国に登録される。毎回150人程度の合格者が出ていて、2017年9月1日現在、9800人あまりが気象予報士として登録されている。しかし、試験受験者数は10年ほど前をピークとして少しずつ減っており、現在は毎回3000人程度が受験している状況だ。引き続き、合格率は約5%と狭き門になっている。

■ 気象予報士はそんなに大勢必要か?

 気象予報士の資格創設当初、予報業務そのものを担うためには1000人程度の気象予報士がいれば足りる、と言われていた。ところが、現在はその約10倍の気象予報士がいる。

 規制緩和により気象庁以外の者が独自に予報を発表できるようになり、さまざまな業種での気象情報の利用、気象業界の市場拡大が起こると想定されたが、実際には気象情報提供業務の業界全体の売り上げは1990年代半ばから300億円程度で横ばいの状態が続いているという調査結果もあり、「独自予報」を利用する業種はそれほど大きく広がってはいない。一方で予報業務許可事業者数は増加を続けており、限られたパイを奪い合う状況が続いているのが実情だ。「独自予報」単品をただ売るだけでは、なかなか市場が拡大しないのがはっきりしていると言える。

■ 気象予報士は「プロ」なのか?

合格後に登録しない者がいるなどで累計1万人超に。(支援センター資料より作成)
合格後に登録しない者がいるなどで累計1万人超に。(支援センター資料より作成)

 技術系の資格ではどんなものもそうだと思うが、資格を取得しただけでは即戦力にはならない。私の経験上、気象予報士もそうで、資格取得後にしっかりと予報や解説業務の経験を積んで、日々技術を磨いて、数年経ってようやく一人立ちできると思う。私も新人の頃、先輩気象予報士・気象解説者に「季節を3巡り(=3年)くらいしたらようやく一人前になれるかな」と言われたことを記憶している。いま後輩を指導する立場になって、このことに強く同感する。たとえば夏ひとつとっても、猛暑、冷夏、雨の多い夏、日照りの夏…いろいろなパターンがあり、1年経験したぐらいでは本当の意味では分からないと思う。私は気象予報士になった直後、縁あって予報・解説の現場にすぐに携わることができたが、新人の頃には先輩から何度も指導され(怒られ?)、また、何よりも自分の無力さ・非力さを痛感した。資格を取っただけの段階では、正直、何もできない。

 そもそも気象予報士試験は、学科試験2科目、実技試験2科目で構成される。実技試験というと、試験官の前で予報したり解説したりするような姿をイメージされがちなのだが、実際はそうではない。多肢選択式(マークシート)ではなく、記述式であるだけだ。天気図など実際の予測資料を見て解答する形式なのだが、その問題の進め方も、いうなれば「誘導尋問」形式と言えなくもない。最初の問題から順を追って答えていけば、最終的には「予報」や「防災事項」にたどり着ける形式であることが多いのだ。

 もちろん、専門的な天気図などを見て判断するだけに、読み解いていくのには十分な訓練が必要だが、実際の予報作業とは難しさが断然異なると言える。というのも、試験時には「〇〇の図を見て答えよ」「〇〇の図に記入せよ」など詳しく見ていくべき資料の指定がされるなどいわば「ヒント」が示されているのだが、当然ながら実際の予報の現場ではそんな道筋はどこにも示されていないのだ。膨大な各種資料がただ並んでいるだけで、そのどれを詳しく見て、評価して、予報していくかは示されているわけがない。自分で資料の中から詳しく考えるべきものを選んで判断し、何の助けもないまま最終的なプロダクトである「予報」を組み立てていくことになる。予報現場で、いきなり目の前に大量の天気図を置かれて「予報して、解説してみて」とだけ言われたら、何から手を付けたら良いのか分からず、しばらくただ呆然と見つめるだけ、という新人気象予報士も少なくないことだろう。

予報資料の例。膨大な情報を用い日々の作業を行う。(ウェザーマップの予報作業資料より)
予報資料の例。膨大な情報を用い日々の作業を行う。(ウェザーマップの予報作業資料より)

 また、実際の日々の天気予報では、はっきりと「雨」「晴れ」と悩まず予報できる事例は多くはなく、微妙な判断を迫られることが大半だと思う。さらにいうと、出力されている予測資料そのものを科学的知見に基づいて疑って修正し、例えば、予想雨量をコンピュータの計算結果よりも割り引いたり増やしたり、予想気温を高め・低めに手を加えて予報したりすることも少なくない。コンピュータが言うことをそのまま右から左へ流すだけなら、気象予報士は要らない。そこに知見に基づいて手を加えられるかどうかが予報者の力量そのものである。

 しかし、もちろん、気象予報士試験ではそこまで問われることはほぼ無い。なぜなら、採点する際に答えが割れるような問題はペーパー試験には向かないし、予測資料を疑うような事例も採点しにくいのが理由だと思う。(だからこそ、そこまで問うような面接、実際のブリーフィングをさせる、より上級の試験が必要だとも思う。これについては改めて考察する。)

 つまり、現行の気象予報士試験は単純に「各種気象資料が読めるかどうか」という基礎的な技術を問うだけの試験であり、現実的に予報現場で即戦力となる気象予報技術者かどうかを判断する試験ではない、ということだ。ある意味、それは当然のことである。ペーパー試験で審査できるのは、それが限界だろうからだ。そして、このことは気象予報士自身が一番わかっていると思う。繰り返すが、資格を取っただけの「ペーパー気象予報士」の段階では、いきなり予報現場に投げ込まれたら、手も足も出ないのが実情だと思う。

■ 「経験」が重要な天気の職人

 もちろん、気象学会や気象予報士会などの勉強会・講演会などで日々研鑽し、スキルを磨いている気象予報士もいる。中には、予報業務を日々担当しているいわば「プロ」の気象予報士となんら変わらないほどの技術を持つほど、普段から腕を磨いている気象予報士もいるだろう。またその一方で、予報現場に入っていても、しっかりと予報ができない気象予報士だっているかもしれない。しかし、私の経験上、「戦力」になる気象予報士は、試験に受かっただけのレベルよりも数段上のスキルが必要だと強く感じられ、それには研修や書籍などからだけでは容易には得られない、日々のOJTなどで初めて得られる「経験」がとても重要だと感じる。気象予報の技術者は、いわば「職人」であるのだ。もちろん、予報を利用してもらうためのコンサルタントとしての心構えや倫理観、ユーザーとのコミュニケーションなどの面でも、ただ「天気図が読めれば良い」というだけでは絶対にない。「プロ」の気象予報士としての一人前の力量を身につけるには、気象予報の現場で経験を積んでいくことが非常に重要だと思う。資格取得は、スタートラインでしかないのだ。

現象の予想に従事したことのある気象予報士は少ない。(気象庁調査より作成)
現象の予想に従事したことのある気象予報士は少ない。(気象庁調査より作成)

 しかし、いま、気象業務に直接かかわっている気象予報士は非常に少ない。2013年度の気象庁の調査では、気象業務(実際の予報以外の関連業務も含む)に携わっているのは気象予報士全体の約3割だそうだ。その中でも、実際に予報を考える「現象の予想」にかかわったことがあるのは全体の約2割しかいないとのことである。数年にわたって予報を日々担当し、鍛えられ、一人前の力をつけた現役の気象予報士は、きっとさらに少ないだろう。気象予報士の社会的地位向上や雇用拡大の声も業界内からは上がっているが、気象予報士の資格を取っても、本当に予報ができるような「戦力」になるためには育成・養成に比較的長い期間が必要だと思う。資格を取っただけでは、本当の意味での「プロ」では決してないと思う。こうした現状をしっかりと受け止めて見つめることから始め、気象予報士制度の将来を考えていきたい。

 次回(第2回)は、頻発する気象災害に対応するため、地方自治体で求められている防災・気象分野でのニーズから、気象予報士制度について考察する。