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大雨・洪水警報の名称変更も? 防災気象情報、抜本的見直しの検討へ

片平敦気象解説者/気象予報士/防災士/ウェザーマップ所属
左:気象庁(筆者撮影)。右:気象庁・国土交通省報道発表資料より。

■ 防災気象情報の「再構築」へ

 気象庁と国土交通省水管理・国土保全局は、2022年1月17日、「防災気象情報に関する検討会」の開始について発表した。

防災気象情報を、住民の主体的な避難等に役立つ、わかりやすく受け手側の立場に立ったものに再構築するため、防災気象情報全体の体系整理や個々の防災気象情報の名称・基準等の抜本的な見直しを検討します。

「防災気象情報に関する検討会」(第1回)の開催について(気象庁報道発表資料・2022年1月17日)

 学識者や報道関係者などの有識者による検討会で、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、第1回の会合はウェブ会議形式で1月24日に開催するとのことだ。

 防災気象情報に関しては、気象庁ではこれまでも「防災気象情報の改善に関する検討会(2012~2013年)」、「防災気象情報の伝え方に関する検討会(2018~2021年)」で有識者による議論が重ねられてきた。

 「種類が多くて分かりにくい」「同じような名称でも、警戒レベルが異なったり、警戒レベルとまだ紐づけられていなかったり、位置づけが違うものがある」など、利用者、特に一般住民には主体的な防災行動に活用しづらい面があることが指摘されており、その都度改善が図られてきた。

 今回はさらに一歩踏み込んで、そもそもの防災気象情報の体系や名称の変更を含む、防災気象情報改善の「集大成」となるような議論が行われることになると筆者は考えており、大変注目している。場合によっては、本稿のタイトルに示したように、聞き慣れた「大雨・洪水警報」の名称も無くなり、別の情報体系に変わることもあり得る検討なのである。

■ 防災気象情報とは

 防災気象情報とは、簡単に言えば「気象庁が発表する防災情報」のことだ(一部、国土交通省や都道府県などと共同で発表する情報もある)。馴染みのあるものとしては、前述した大雨・洪水などの7種類の気象警報や、乾燥・雷・なだれなど16種類の気象注意報などが挙げられるだろう。ほかにも、竜巻注意情報記録的短時間大雨情報土砂災害警戒情報などを思い浮かべる人もいらっしゃるかもしれない。

 かつては、警報と注意報があるくらいだったので、発表された情報が示す災害の危険性はとてもシンプルで分かりやすかった。交通信号のように赤(≒警報)、黄(≒注意報)、緑(≒発表無し)という具合で、今どの程度の危険性になっているかは容易に想像がついただろう。(なお、警報については「気象業務法」という法律で定められていることにも注目しておきたい。すなわち、これを変更するには場合によっては法改正が必要だということである。)

気象庁が発表する防災気象情報の流れ。(気象庁発行・気象ガイドブック2021より)
気象庁が発表する防災気象情報の流れ。(気象庁発行・気象ガイドブック2021より)

 その一方で、社会のニーズの多様化・高度化や防災意識の向上に伴い、警報・注意報の枠組みだけでは足りず、もっと詳しく予測情報を出してほしいという要望が高まってきた経緯がある。大きな災害が発生するたびにそれを教訓として、より精度良く・詳細に・迅速に情報を発表すべく改善が行われ、新たな情報が開発・運用されるようになった。これまでの筆者の記事も参考にしていただきたいが、1980年代から2000年代にかけての30年間ほどは、いわば情報の「建て増し」が続いた時代と言えるだろう。

 もちろん、高度化・詳細化された情報により、以前よりも大勢の命が災害から救われたことは事実だと思う。しかし、「建て増し」が続いた結果、先に示したように「多すぎて、一般住民には分かりにくい」形になってしまった面も否めない。一般住民どころか、市町村で対応に当たる防災担当職員や、避難指示などの決断をする首長にとっても容易に理解はしにくい(正しく理解できているか分からない)場合もあり得る状況になってしまっているようだ。こうした状況を打開できる改革につながってほしいと、筆者は今回の検討会にはとても期待している。

■ 情報体系の再構築に向けて

 2019年からは大雨・洪水・高潮の災害に関しては、住民の避難など「とるべき行動」に応じた5段階の「警戒レベル」の運用が始まっている。市町村が発表する避難指示などの「避難情報」は住民への「行動指南型」情報として、具体的にこんなふうに行動してほしい、と促す内容となっている。

防災気象情報と警戒レベル。(気象庁HPより)
防災気象情報と警戒レベル。(気象庁HPより)

 この避難情報発表に際しての市町村の判断材料として、そして住民の危機意識の醸成や主体的な防災行動を促す目的として、気象庁から各種の「防災気象情報」が発表されている。避難情報が「行動指南」であるの対して、防災気象情報はどのくらいの危険性になっているかを示す「状況情報」だ。指南されなくても自らの判断で主体的に安全確保を行う場合、科学的・客観的に発表される防災気象情報を活用するのは、命を守るうえでは非常に効果的と言えるだろう。大雨・洪水・高潮に関しては、どの警戒レベルに相当するかを防災気象情報に付記しており、避難情報(警戒レベル)と合わせて活用することが望まれている。

 一方で、大雨・洪水・高潮以外の防災気象情報については、警戒レベルとの紐づけがまだなされていない。また、大雨などの情報でも、警戒レベルとの関連が示されていない情報もある。警戒レベルが「住民のとるべき行動(≒避難行動)」の観点で作られている一方で、防災気象情報はそれぞれの現象によって生じる災害や影響を受ける対象が異なり、同じ「警報」「注意報」のランクでも「住民の行動」という点では差が生じることになる。

 例えば、大雨・洪水・高潮については、「地盤の緩み具合」「河川の水位」「潮位」などの予測を行い、「時間のかかる人は危険な場所から避難(警戒レベル3=高齢者等避難)」や「危険な場所からは全員が避難(警戒レベル4=避難指示)」という段階に対応させた警報・注意報などの防災気象情報が発表されている。

 では、暴風や大雪といった気象災害ではどうだろう。警戒レベル3や4に合わせようとしても、そもそも「危険な場所」というのはどこなのか。屋外のことか。とるべき行動は「避難」なのか。

 注意報であれば、乾燥注意報などはどの警戒レベルと対応させるのが良いのか。そもそも「避難」や「安全確保」といった考え方に適した現象なのだろうか。

 また、「記録的短時間大雨情報」は、その地域で数年に一度しか発生しないような短い時間の大雨を観測・解析した時に発表される。この情報は危険性の予測というよりも、実際に起こったことを報じる情報で、危機感を一層高めてもらうための「解説情報」「補完情報」の意味合いが強い。こういったタイプの情報はどう扱うのか。

 以上のように、現行の情報をどう置き換えていくか・置き換えるべきなのか、そもそも警戒レベルの枠組みにどの程度厳密に沿っていくべきなのか、という作業や検討がまず必要だと筆者は考える。また、「住民のとるべき行動」を軸に据えてそれにそった段階的な情報を発表していくとなれば、情報を発表する際の基準についても変更すべきか、議論していく必要が出てくるはずだ。非常に俯瞰的な視点で、丁寧で詳細な検討を重ねることが必要になるだろう。

■ 情報名称は「理解しやすく」すべき

 情報体系の再構築に際して最も重要なことは、「住民に分かりやすく伝わること」だと筆者は考える。今回の検討会では、名称の抜本的な見直しも検討されるとのことである。これまでにも執筆記事の中で筆者も主張してきたが、分かりやすさの観点からはこの点は極めて重要だと考えている。

 2021年の災害対策基本法の改正により、避難情報のシンプル化が行われ、避難勧告が廃止され、避難指示だけに一本化されたことをご存知の方も多いだろう。「避難勧告」と「避難指示」を並べた場合、どちらがより危険性が高いかは容易には判断しにくいという声があり(避難指示のほうが危険性が高かった)、さらにはどちらも「警戒レベル4」に含まれる危険度ということで、シンプルにするために一本化した、という経緯である。

 警戒レベルにしても、避難情報にしても、利用者がその意味(危険度やとるべき行動)を予め理解しておく必要は少なからずあるわけだが、情報の名称はできるだけ理解しやすく統一された方針・方向性で定めておくべきだ。筆者は、以前に執筆した記事の中で、

災害の現象名 + 危険度を示す言葉 + 情報

 という情報名称で統一することを提案した。

 危険度を示す言葉の例として、「注意」「警戒」「危険」などの名称をキーワードとして予め定めておき、現象名と続けることで、容易に情報の危険性が分かる、という案だ。それぞれに応じた色も決めておき、さらに分かりやすく危険性を把握できるようにする。すると、情報名の例として、「河川氾濫注意情報」「土砂災害危険情報」などとなり、非常にシンプル化されると考えられるのだが、いかがだろうか。パッと見た時に、「何が、どのくらい危ないのか」を理解しやすくは感じないだろうか。

 住民のとるべき行動(警戒レベル)とできるだけ連動させたこの枠組みの中に、現行の情報を置き換えられるものは置き換え、そうでないものは「解説情報」「補完情報」として、主に高度利用者・防災担当者向けの情報として別途位置づけたら良いのではないだろうか。

 ただ、もしもこうした名称変更がなされた場合には、「警報・注意報」の呼び名が無くなることもあり得る。これまでに広く利用されてきて馴染みの深い名称だけに、それが無くなった場合のデメリットは決して小さくはないだろう。各自治体の地域防災計画などの書き換えも必要になるかもしれない。また、場合によっては法改正の必要性も生じるだろう。しかしながら、そうした面も含めて考えたとしても、長期的には、情報名称の変更・再編は防災上のメリットが非常に大きいと筆者は考えている。

 念のため重ねて申し上げるが、以上はあくまで筆者の「私案」である。今後、このような視点も含めて、検討会では様々な観点から有識者による議論がなされるのだろう。より良い情報体系・名称はどういったものなのか、期待して今後の議論の経過を見守りたいと思っている。

 近い将来、私たち一人ひとりの命を守る防災気象情報に「大変革」が訪れることになるかもしれない。仮に新しい情報体系・名称に変わるとなった場合、どのようにお感じになるだろうか。どうか読者の皆様も、議論に注目しておいていただきたいと思う。

<参考文献・引用資料など>

○ 気象庁・報道発表資料(2022年1月17日)

「防災気象情報に関する検討会」(第1回)の開催について

気象庁ガイドブック2021

防災気象情報と警戒レベル

気象庁の審議会・検討会等の一覧

○ 筆者の以前執筆した記事(2019年12月12日配信)

危機感が「分かりやすく伝わる」防災気象情報とは? 警戒レベル導入から半年

気象解説者/気象予報士/防災士/ウェザーマップ所属

幼少時からの夢は「天気予報のおじさん」。19歳で気象予報士を取得し、2001年に大学生お天気キャスターデビュー。卒業後は日本気象協会に入社し営業・予測・解説など幅広く従事した。2008年ウェザーマップ移籍。平時は楽しく災害時は命を守る解説を心がけ、関西を拠点に地元密着の「天気の町医者」を目指す。いざという時に心に響く解説を模索し被災地にも足を運ぶ。関西テレビ「newsランナー」など出演。(一社)ADI災害研究所理事。趣味は飛行機、日本酒、アメダス巡り、囲碁、マラソンなど。航空通信士、航空無線通信士の資格も持つ。大阪府赤十字血液センター「献血推進大使」(2022年6月~)。1981年埼玉県出身。

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