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安倍首相の『シンクライアント』方式だから『データ復元不可能』は問題発言だ!

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
(写真:つのだよしお/アフロ)

KNNポール神田です。

□安倍晋三首相は(2019年11月)2日の参院本会議で、(2019年)4月の「桜を見る会」の招待者名簿について電子データの復元はできないと語った。「端末にデータは保存されておらず、サーバのデータを破棄後、バックアップデータの保管期間を終えた後は復元は不可能だとの報告を受けている」と述べた。

□内閣府が採用しているシステムに関して「個々の端末でなくサーバでデータを保存するシンクライアント方式だ」と指摘し、端末にデータが残らないと説明した。桜を見る会の運用を見直す際に「文書の保存期間も今後検討していく」と強調した。

出典:桜を見る会名簿 首相「データ復元は不可能」

□読み方はどちらが正解?『サーバ』なのか『サーバー』なのか?

日本の日本産業規格の『JIS』では、『サーバ』の読み方を推奨しているというより、「外来語の表記に語尾の長音符号を省く場合の原則」を定めていたからだ。

a) その言葉が3音以上の場合には、語尾に長音符号を付けない。(例:エレベータ/elevator)

b) その言葉が2音以下の場合には、語尾に長音符号を付ける。(例:カー/car、カバー/cover)

https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISNumberNameSearchList?toGnrJISStandardDetailList

しかし、その流れは時代とともに変化していきている…。

□Microsoft社は2008年、「コンピュータが日常必需品となり一般化してくるにつれて、長音なしの表記に対し違和感を覚えるユーザーが増えてきたことから、一般的な表記に合わせる時期」と判断。国語審議会の答申を受けて出された、1991年の内閣告示第二号(下記参照)をベースにした表記に順次移行していくことを発表しました。

□「長音は、原則として長音符号『ー』を用いて書く」、また「英語の語末の-er、-or、-ar などに当たるものは、原則としてア列の長音とし、長音符号『ー』を用いて書き表す。ただし、慣用に応じて『ー』を省くことができる」

出典:「サーバー」と「サーバ」、どっちが正解? - 【ビジネス用語】

マイクロソフトの日本語表記ルールの変更

https://tech.nikkeibp.co.jp/it/article/Watcher/20080728/311592/

日本製のベンダーのNECや富士通などは『サーバ』と『ー』の長音を使わない方が多い。一方、IBMやソニーなどのグローバル組のベンダーは『サーバー』と長音を使う。安倍首相のペーパー担当者は、国内での慣用で『サーバ』と書いたようだ。しかし、安倍首相の発音は『サーバ』と頭高で発音したことにより、『鯖(さば)?』に聞こえ、ネット上で揶揄された。

■内閣府内での表記ゆれ菅官房長官は『サーバー』と発音

安倍首相と同じ内閣府の作成したペーパーを読んでいる菅官房長官ではあるが、『サーバ』ではなく『サーバー』と発音している。

□ 「私は承知していない。ただ、運用事業者によれば、サーバーのデータを破壊後、バックアップデータの保存期間を終えた後は、復元は不可能であるという報告を内閣府から受けている。詳細は事務方にお尋ねいただきたい」

出典:「データ復元不可」のシンクライアント方式 桜を見る会

JISでも表記が慣用例によって変化してきているが、同じ統一の部署や、報道では『サーバ』なのか『サーバー』なのかはどちらかに統一しておいてほしいものだ。

■トレンド急上昇する『シンクライアント』とは…?

□安倍晋三首相が3日の参院本会議で、共産党の田村智子議員から質問を受けて答弁した際に用いた「シンクライアント」という言葉がトレンドワードの3位に入った(午後9時現在)

□シンクライアントとは、クライアント端末の機能を最小限にし、サーバー側でデータの処理や保存をする仕組みを指す。

出典:首相の国会答弁「シンクライアント」がトレンドワード入り

『シンクライアント(Thin client)』とは、Thin(薄い)+client(クライアント=ユーザー)であり、ユーザー側の端末でデータを保存するのではなく、サーバ(サーバー)側でデータを扱う方式のことである。ネットワーク上にあるひとつのデータをユーザーが共有しているイメージだ。なので、サーバ側のデータをルールで削除してしまうとユーザー側は利用することができない。

しかしだ…。データ復元は本当に不可能なのか?

■シンクライアント方式では本当に『データ復元』が不可能なのか?

『シンクライアント方式』なので、『データ復元』は不可能には少し、違和感がある。データを削除することは簡単にできてしまうが、データ復元やデータ復旧の道が閉ざされたわけではない。

一つの方法が、『データサルベージ』で検索してみるとわかりやすい。サルベージとは、沈没船などの引上げ作業のことであり、失ったデータの復元復旧方法なのだ。

データの保存方式は、物理的な外側のインデックスレコードが書き換えられてデータが消去されているようには見えるが、磁気媒体の中身そのものは全体を消去する『イニシャライズ』を行わない限り存在しているはずだからだ。シンクライアント方式であっても、磁気媒体での保存はそのようなものだ。またエンジニアとしては、絶対にどこかで万一のためのバックアップは必ずとってあるのが一般企業での考え方だ。いくら上層部から削除しろと言われてもだ。国家機密であれば、その限りでないのかもしれないが…。しかし、データを意図的に上書きするようなことをしていればそれはそれでまた野党に追求されるだけだ。

わかりやすいハードディスクのしくみ

https://www.data-sos.com/self/index.html

本気で『桜を見る会』のリストが必要であれば、『データ復元』は物理的に可能である。しかし、この論議を国会でやることに意味があるのだろうか?筆者は、『桜を見る会』の追求には全く興味がない。

こちらは、国会の答弁ではなく公職選挙法(公職選挙法221条では、買収および利害誘導罪について規定)なので立法機関の国会ではなく、司法機関の側でやりとりしてほしいとさえ願っている。国会ではもっと大事な大事な案件を扱ってほしいと願うばかりだ…。

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この件については、筆者の音声メディア『VOICY』でも配信している。

https://voicy.jp/channel/885/63110

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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