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NHK個人情報紛失の原因は、帳票のプリントアウト

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
(ペイレスイメージズ/アフロ)

KNNポール神田です。

NHKは(2017年10月)24日、視聴者の名前や住所などの個人情報が記載された2992人分の受信料の帳票を紛失したと発表した。NHKが紛失した個人情報としては過去最大の件数という。NHKによると、今月16日に静岡県沼津市内の住民から、書類が路上に落ちていると連絡があった。発見されたのは、保存期限が過ぎたため業者に溶解廃棄処理を委託した段ボール箱約4800個分の帳票の一部。

紛失した帳票に記載されていたのは、平成23年(2011年)4月22~28日にインターネットで受信料のクレジットカード払いを申し込んだ契約者の住所、氏名、電話番号、カード番号などの情報。20日までに275枚を回収したが、3031枚、2992人分の帳票が見つかっていない。

出典:NHKが約3000人分の個人情報を紛失 クレジットカード番号など記載

このニュースで、とても気になった事が2点ある。

1点目は、インターネット経由での受信料のクレジットカード情報をわざわざ帳票としてプリントアウトし、管理・運用されているという事実だ。それが6年経過し、保存期間が過ぎたので、紙片を溶解廃棄処理を委託している。ネットで申し込まれた個人情報を、わざわざ、フィジカルな紙の帳票で管理する必要性はどこまであるのだろうか?帳票にプリントアウトするという「しくみ」を業務改善すべきである。

2点目は、そのフィジカルな紙の帳票が、シュレッダーされることなく「個人生情報」のまま、業者に廃棄委託されていたことだ。今回の発覚は、その帳票が路上に落ちていることから発覚している。これは、廃棄業者のヒューマンエラーであることは、間違いないが、単なる書類ではなく、そこには、住所、氏名、電話番号、クレジットカード番号という、悪用しようと思えばいくらでもできてしまう個人における最重要情報が掲載されている。その書類が、まったくシュレッダーもされずに、ダンボールに入れて業者に廃棄委託されていることにも驚きを覚えた。悪意ある人に渡れば、高値で売れる情報で、ふりこみ詐欺に簡単に利用できてしまうおいしい情報だ。

NHKの再発防止は徹底できない

NHKは「ご迷惑をおかけしたことをおわびします。再発防止を徹底します」と謝罪したが、この帳票紛失における再発防止は徹底できていない。過去から何度も帳票を1枚紛失したことでも、再発防止を発表し続けているが、まったく防止できていない。

2017年4月28日山口放送局帳票1枚

2011年9月22日さいたま放送局帳票1枚

問題は、「注意する」などの再発防止ではなく、帳票に対する「しくみ」そのもの問題である。業務改善や業務プロセスを見直し、各放送局ごとの帳票を書類で管理する必然性を疑うべきである。

NHKの帳票は何の為に存在しうるのか?

毎年、NHKの支出の1割は、受信料の取り立てコスト 出典:平成29年NHK事業計画より
毎年、NHKの支出の1割は、受信料の取り立てコスト 出典:平成29年NHK事業計画より

NHKの帳票管理の存在理由は「受信料」管理の為がメインだろう。そもそもその

この事件で、ふと気になったのが、NHKの受信料の取り立てコストである。受信契約および受信料の収納で毎年10%近い予算がかけられている。それが毎年減らないのである。NHKの受信料を支払っていない人は世帯の約2割。8割の人が受信料を支払っている。NHKの予算の9割の源泉が受信料である。その予算の中から毎年1割も、受信料収納の取り立てに使われていることが納得できない。

しかも、その受信料そのものが憲法違反であるという「契約の自由」で、最高裁の大法廷にまで至って討議されいるさなかでの帳票紛失だ。

(2017年10月)25日、最高裁判所大法廷で開かれた弁論で、男性側は「受信契約の締結の強制は契約の自由に対する重大な侵害で、放送を視聴する人たちが任意に契約すべきだ」と述べました。

これに対し、NHKは「不偏不党を貫き多角的な視点を踏まえた豊かな番組を放送するには受信料制度が不可欠で、契約の義務づけには必要性や合理性がある」と述べました。

判決は年内にも言い渡されると見られ、最高裁はNHKの受信契約をめぐって初めての判断を示す見通しです。

出典:NHK受信契約訴訟 最高裁大法廷で弁論

現在、NHKは受信料を払わない人に対し、300件もの訴訟をおこなっており、それらの源泉は受信料予算1割の中から使われている。今後は、ネットでの視聴も視野にいれ、受信料の収納を目指しているが、受信料を徴収することがゴールになっていないか?。そもそも、1950年の放送法ができてから67年も経過している。

受信料の金額から運用まで、「公共放送」という公共的なサービスとしてのあり方をもっと深く議論する必要があるのではないだろうか?公共放送に求められるサービスのあり方。ここを議論せずにして、受信料が違憲か合憲かの議論は無意味である。

そのためには、NHKの経営委員会に民意を届ける必要があると筆者は考えている。今後、ネット視聴も考えるとNHKのインターネットに及ぼすトラフィックのコストは誰が負担するのかも含めてだ。

総選挙で、裁判官を投票するように、NHKの会長はせめて国民に投票させてほしい。そうすると、NHK会長の立候補者たちは公共放送としてのNHKのあり方を考え、それを経営に反映させてくれる。

NHKの運営体制こそ、公共放送としての使命をより具現化してほしいものだ。そのためには、あいまいな公共放送のありかたを明確に言語化し、番組プログラムに反映すべきではないだろうか?何の為にNHKが存在しているのかをきちんと示すべきである。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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