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BMWとダイムラーがAppleを恐れる理由

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

KNNポール神田です!

BMWとDaimlerは、Appleとの自動車協業に関する交渉を中止した。Handelsblattが報じた。

リーダーシップとオーナーシップの行方を巡って、交渉は決裂した(BMWとは昨年、最近Daimlerと)と、ドイツ紙の情報源は伝えた ― そしてわれわれがAppleについて知っていることを踏まえれば、それはいかにもありそうな行き詰まりの原因である。車をメーカーのサービスではなく、Appleのサービスと密に統合するというアイデアは自動車メーカーをいら立たせた。

出典:BMWとダイムラー、Apple Car交渉を中止

自動車メーカーにとって、今までのAppleは楽しい音楽を『iPod』というデバイスで堪能させてくれる音楽ハードウェアの会社であった。カーオーディオの延長としてつきあってきた。いつしか、それは『電話』と一体化し、『アプリ』というダウンローダブルなガジェットでGPSを搭載した『カーナビ』となったり、音声で認識する、『コントローラー』にもなった。それが、『Apple CarPlay』だ。

AppleCarPlay
AppleCarPlay

http://www.apple.com/jp/ios/carplay/

運転手は、ハンドル以外には『CarPray』しか操作しなくなるだろう。そして、自動運転が可能になったら、『CarPlay』だけしか必要なくなることも考えられる。

また、Appleにとって、自動車をコントロールするのは、もっと深い部分でカーメーカーと協業する必要がでてきた。むしろ自分たちの技術でクルマを『スマートカー』に昇華させるところまでヴィジョンを描いていることは安易に想像がつく。人間の運転癖をAIがディープラーニングしたり、運転中にいろんな話し相手になったり情報の検索で暇つぶしにつきあうなど、仕事の相談から、人生の悩みについてまで、ドライバーとクルマの間には必ず「Apple」が介在する世界になりそうだったのだろう。

遠い昔、昔のお話だ。IBMはコンピュータの王様だった時代があった。Microsoftは、オペレーションシステムを提供し、買い取りではなく、歩合の契約でIBMとサインをした。いつしか、コンピュータビジネスはオペレーションシステムの上でしか展開せず、IBMは単に機械を作り続ける会社として、Microsoftの奴隷へと身を滅ぼした。BMWもダイムラーもIBMになりつつある悪夢の影におびえはじめているのではないだろうか?

Appleは、AppleWATCHで、時計の世界にも、スマートウォッチ業界でのラグジュアリーブランドを目指している。Appleと組めたのは革バンドの得意なHELMESだけだった。CAR OSで協業したとしても、ノウハウを共有され、いつしか自分たちが化石燃料と共に、化石になることを危惧しはじめた。独自にEV車をコントロールし、自分たちのブランドを築く道を歩んだほうが、リスクが少ないのではないか?もしかすると、Googleと組んで広告ビジネスだけをやるという側と同盟を組んだほうが良いのでは?いろんな憶測と経営判断が動いている。

『エンジン』という膨大なサプライチェーンのネットワークの上に成立していた自動車業界が『EV』となった瞬間に『アッセンブル』というパソコンとなんら変わらない産業になろうとしている。Appleに脅威を感じても何らおかしい判断ではない。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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