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【アイスホッケー】アジアにNHLプレーヤーがやってきた! アジアリーグプレビュー《前編》

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
アレクサンダー・フロロフ(Courtesy:@RealtyBit)

 2003年11月15日に、苫小牧と横浜で初めての試合が行われたアジアリーグ アイスホッケーは、今季で創設15周年。

 節目のシーズンが明後日から始まるのに先立って、これまでの歩みと、今季の見どころを紹介しましょう。

▼マイナス同士の掛け算からリーグが誕生

 アジアリーグが誕生するに至った最大の要因は、一昨年に当サイトで紹介したとおり、日本と韓国のアイスホッケー界で、トップレベルのチームの活動停止(廃部)が相次いだからに他なりません。

 トップレベルの国内チームが少なくなった両国がタッグを組んで、「アジアリーグ」を創設。

 いわばマイナスとマイナスの二つの国の掛け算で、プラスをもたらせようと誕生したリーグなのです。

▼アジアがメインステージ

 しかも特筆すべきは、サッカーやバスケットボールなどのように、国内リーグを戦いながら合間に国際リーグへ参戦するのではなく、王子製紙、日本製紙クレインズ、日光アイスバックス、コクド、ハルラウィニア(いずれも当時のチーム名)の日韓5チームが、「北米、ヨーロッパに次ぐ第三の国際リーグを目指す」との旗印を掲げた「アジアリーグ」を主戦場として、戦い続けています。

▼中国を”つまみ食い”して撤退

 創設2季目には、中国やロシアからもチームが加入し、日韓リーグから真の国際リーグへ拡大。

 なかでも中国へは、アジア以外からのアプローチが目立ち、北欧の投資家グループが北京にチーム(ノルディック バイキングス)を新設したり、NHLのサンノゼ シャークスを運営するSVSE社が、アフィリエイトチーム(チャイナシャークス)を立ち上げて、中国の強化に注力すると高らかに謳った時期も。

 しかし、バイキングスは未だに破られていない最多観客動員記録を打ち立てたものの、財政難により1年限りで消滅。

 一方、SVSE社も中国協会との方針の相違から、チャイナシャークスの存続が不透明になり方向転換。

 廃部となった西武プリンスラビッツの選手などを中心に「台湾シャークス」を創設すると公言しながら、正式な加盟申請をすることなくドロップアウト。

 事情は異なるものの、中国を”つまみ食い”しただけで、いずれも撤退に至りました。

▼3か国8チームがアジアの頂点を目指す!

 その後もチームの新規加盟と脱退がありましたが、昨季に続いて今季も3か国から下記の8チームが参戦し、アジアの頂点を目指します!

アニャンハルラ(ホームタウン:韓国・アニャン市/昨季優勝)

王子イーグルス(北海道苫小牧市/昨季2位)

サハリン(ロシア・ユジノサハリンスク市/昨季3位)

東北フリーブレイズ(青森県八戸市/昨季4位)

栃木日光アイスバックス(栃木県日光市/昨季5位)

デミョン キラーホエールズ(韓国・インチョン広域市/昨季6位)

日本製紙クレインズ(北海道釧路市/昨季7位)

High1(ハイワン:韓国・コヤン市/昨季8位)

▼ロシア籍選手は”助っ人”ではない!

 創設15周年の開幕を前に、アジアリーグは大きな改革を断行しました。それは「ロシア籍選手の扱い」です。

 アジアリーグでは、加盟チームの活動拠点がある日本と韓国の国籍を有する選手が、自らの持つ国籍以外のチームに登録されても、外国籍選手扱いにはしていません。

 しかし、唯一の例外はロシア籍選手。

 世界ランキング3位の強豪国で腕を磨いてきたとあって、韓国(世界ランキング16位)、日本(同23位=いずれも昨季終了時点)のレベル差を考慮し、ロシア以外のチームに在籍した場合は、全て外国籍選手扱い。いわば”助っ人”の扱いとなっていました。

 ところが、「チームが加盟している各国選手の活躍の場を広げ、リーグとチームの活性化を図る」との方針により、今季からロシア籍選手も外国籍選手枠を用いることなく、各チームが登録可能になったのです。

▼NHLのポイントゲッターがやってきた!

 この規約変更を利用して、日本のチームでは、フリーブレイズとクレインズがロシア籍選手と契約しましたが、両チームにも増して見逃せないのは、キラーホエールズ!

 モスクワで生まれた元NHLプレーヤーの アレクサンダー・フロロフ(FW・36歳)と契約を結びました。

KHLのアバンガルド オムスクでキャプテンも務めたフロロフ=タイトル写真のおよそ10年後(Courtesy:@HockeyHead1ines)
KHLのアバンガルド オムスクでキャプテンも務めたフロロフ=タイトル写真のおよそ10年後(Courtesy:@HockeyHead1ines)

 2000年のドラフトで、ロサンゼルス キングスから1巡目(全体20位)指名を受けたフロロフは、高い評価に応えてポイントゲッターとして活躍。

 オリンピックやワールドカップのロシア代表でプレーした実績の持ち主で、日本人初のNHLプレーヤー福藤豊(現アイスバックス)が、ロサンゼルス在籍時に初先発を果たした試合で、開始早々に先制点をプレゼントした選手です。

 ところが、ニューヨーク レンジャーズへ移籍したあと、試合中に負傷してからは、一転して全盛期のプレーが見られなくなってしまいました。

▼キラーホエールズに注目!

 キラーホエールズには、鈴木雄大(ゆうた/FW・28歳)をはじめ、マイク・テストウィード(FW・31歳/韓国籍取得済)、マイケル・スウィフト(FW・31歳/韓国籍取得済)と、リーグ得点王に輝いた実績のあるFWがズラリ。

 さらに指揮官も、創設したばかりのサンノゼ シャークスをはじめ、ピッツバーグ ペンギンズやニュージャージー デビルスなど、NHLのチームでヘッドコーチを歴任した ケビン・コンスタンチン(59歳)と、役者が揃っているだけに、フロロフの活躍次第では、チーム創設3季目で初めてのプレーオフ進出! そして初優勝へ!! という期待が日増しに高まっていきそうです。

アジアリーグプレビュー≪後編≫に続きます。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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