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【平昌パラリンピック】日本代表出場権獲得の原動力になった60歳の守護神「フクちゃん」は、どんな人?

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
パラアイスホッケー日本代表のGK福島忍(Photo:Jiro Kato)

 今月9日(現地時間)からスウェーデンで行われたピョンチャン(平昌)パラリンピック最終予選を戦い終えたパラアイスホッケー日本代表が、昨日帰国。

 首都圏在住者以外も含めて、ほとんどの選手たちは自宅へ戻り、家族や会社の同僚たちに勝利の報告を済ませたようです。

 日本はチームの総力を結集し、銀メダルを勝ち取ったバンクーバー大会以来となる2大会ぶりの出場権を勝ち取りましたが、なかでも際立っていたのは、日本のゴールを守った 福島忍(ふくしましのぶ)。

 年下のチームメイトからも「フクちゃん」と呼ばれる60歳の守護神の大活躍でした!

パラアイスホッケー日本代表GK福島忍(Photo:Jiro Kato)
パラアイスホッケー日本代表GK福島忍(Photo:Jiro Kato)

・1956年12月14日静岡県生まれ。

・24歳の時にオートバイ事故に遭い脊髄を損傷。

・1998年の長野パラリンピック開催決定を機に行われた代表候補選手の公募に志願するも叶わず。

・しかし、その後も競技を続け、日本代表入りを果たしトリノ大会に出場。バンクーバー大会では銀メダルを獲得した。

▼60歳の守護神

 プレーヤー(FW&DF)に比べ運動量は少ないとは言え、防具をつけてゴールを死守する大事な役割を担い続けるGKは、心・技・体の全てが揃わなければ、務まるポジションではありません。

 「若い奴が出てこないとダメでしょう」

 かねてから福島はこう言い続け、自らの後継者として誘った同じ静岡出身の望月和哉(36歳・GK)が、昨年の世界選手権をはじめ、日本のゴールを守る機会が近年は増えました。しかし、中北浩仁(こうじん)監督は、大一番で福島をメインGKに起用。

 指揮官からの抜擢を受けた福島は、好セーブを連発して勝利に貢献。

 唯一の黒星となったチェコ戦でも1失点に抑えるなど、スウェーデンのアイスリンクで見事な働きを披露しました。

 負けられない試合で勝利を呼び込むプレーをしてみせたのは、パラアイスホッケーと向き合い続けてきた福島の姿勢が、成せた業だと言えるでしょう。

元アイスホッケー日本代表GKの信田憲司コーチに指導を受ける福島(Photo:Jiro Kato)
元アイスホッケー日本代表GKの信田憲司コーチに指導を受ける福島(Photo:Jiro Kato)

▼銀メダルチームの守護神が「フクちゃん」を語る!

 そんな福島とともに、長年にわたり日本のゴールを守り続けて来た男がいます。永瀬充 氏です。

永瀬充氏(Photo:旧日本アイススレッジホッケー協会 )
永瀬充氏(Photo:旧日本アイススレッジホッケー協会 )

・1976年1月23日北海道生まれ。

・カナダへ渡り腕を磨くなどして、長野から4大会続けて日本代表の守護神を担い続けた。

・ソルトレイクとバンクーバーの両大会で、ホッケー大国・カナダに勝利した立役者の一人。

・現在は北海道新聞パラスポーツアドバイザーとして活躍中。

 ともに日本代表のGKとしてパラリンピックに出場し、バンクーバー大会で銀メダルを手にした永瀬氏は、「フクちゃん」をどのように見ていたのか振り返ってもらいました。

:ずっと一緒にプレーをしてきた福島選手は、どんな存在でしたか?

「レジェンドですね(笑)。(スキージャンプの)葛西(紀明・45歳)選手や、(サッカーの)カズ(三浦知良・50歳)選手より、ずっと上ですし、何より今でも現役で活躍していますから、本当にスゴイなと思います」

:同じGKですが、永瀬さんと福島選手のプレースタイルに違いはありましたか?

「障害の箇所が違うこともありますけれど、自分は攻めてくる相手に対して、積極的に前に出て体全体でシュートを防ぐタイプでした。対してフクちゃんは、キャッチング(GK用のミット)を使ってシュートをキャッチするのが上手でしたね。

:ほとんどの試合で先発GKに永瀬さんが起用されて、福島選手はバックアップ(控えGK)の役割が続きましたよね?

「直接聞いたことはありませんけれど、ずっと悔しかったはずだと思います。長野大会のトライアウトは合格できなくて、そのあとソルトレイクからバンクーバーまで、3大会連続出場しましたけれど、試合に出たのは2回だけでしたから」

:それでも福島選手は、守護神の座を狙い続けていたと思いますが?

「フクちゃんだけに限らないでしょうけれど、いつも自分が一番だって信じ続けていたはずだと思います。バンクーバー大会を最後に引退する考えもあったようですけれど、今でも現役選手でプレーをし続けているのは、不完全燃焼だという悔しさがあったのだろうなと思います」

パラアイスホッケー日本代表GK福島忍(Photo:Jiro Kato)
パラアイスホッケー日本代表GK福島忍(Photo:Jiro Kato)

▼銀メダルでは終わらない!

:福島選手の存在を、どのように感じていましたか?

「ずっと一緒にやってきましたけれど、フクちゃんは先発ではないと告げられて悔しい想いがあっても、大事な試合の前には(遠征先のホテルなどで)朝食のあとにガンバレと必ず声を掛けてくれました。その一言で自分も試合へ向けてのスイッチが入りましたし、フクちゃんと一緒に戦っている気持ちにもなりました。それと、万一自分にアクシデントが起こっても、フクちゃんがいるから安心だと、思いきってプレーすることもできました」

:来年3月のピョンチャン大会でも期待されますね?

「自分の力で最終予選を突破したことで、きっとフクちゃんには、いい意味での欲が出てくると思います。後継者候補として自分がパラアイスホッケーに誘った望月が、昨年の世界選手権で、全試合ゴールを守り続けましたから、引退を考えた時も少なからずあったでしょうけれど、きっと今は(ピョンチャン)パラリンピックも、オレが行くぞ!という気持ちになっているんじゃないかな(笑)」

:最終予選のように流れを引き寄せるプレーを見せて欲しいですね?

「野球の先発投手や、サッカーのGKも、試合の流れを左右するポジションだと思いますけれど、パラアイスホッケーのGKの影響力は、さらに大きくて、試合を支配することができるポジションだと思います。だからフクちゃんには、61歳で ”ミラクル・オン・アイス” を演じて欲しいです」

:「フクちゃん」へエールを送っていただけますか?

「これまで日の目を見ることがなくても、くさったりせずに頑張り続けてきた超オールドルーキーですから(笑)、野球で言えば規定打席未満の打者です。だから今がピークではなくて、もっと上を目指していけるはずです!」

:最後になりますが、なぜ年下の選手も含めて、皆さんから「フクちゃん」と呼ばれているのですか?

「フクちゃんは、20歳くらいの頃から障がい者スポーツに取り組んでいて、当時のチームメイトと一緒に、長野大会へ向けた代表選手候補の公募に申し込んだのですけれど、もうその時には、フクちゃんって呼ばれていましたよ。なのでパラアイスホッケーのメンバーになった時も、みんなが最初から ”フクちゃん”って呼んでいます(笑)」

 長野大会へ向けたトライアウトに合格できなかったのも、今にして思えば、フクちゃんがパラアイスホッケーへの想いと理解を、深めるための貴重な時間となったのかもしれない。

 次はソチ大会に出られなかった悔しさを、フクちゃんが、そして日本代表が「ピョンチャン パラリンピック」でのメダル獲得へ向けた大きなエネルギーに変えてくれるに違いありません !!

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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