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【KHL&NHL】ロシアは格差是正へ! アメリカは再び格差拡大へ突き進む!!

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
ロシアンロケットと呼ばれ日本でもプレーしたパベル・ブレ(左)とプーチン大統領(写真:ロイター/アフロ)

ロシアをはじめ8か国のチームが参加するヨーロッパ屈指のビッグリーグ「KHL」(コンチネンタルホッケーリーグ)は、来季のレギュラーシーズン開幕まで、あと2か月(現地時間)となりました。

旧ソビエトリーグ(スーパーリーグ)を発展解消する形でスタートしたKHLは、来季が創設10年目。

節目のシーズンとあって、ヘルシンキ中央駅(フィンランド)に隣接するカイサニエミ公園の中にリンクを作り、初めてのアウトドアゲームを開催するなど、見どころが多そうです。

▼創設以来初のリーグ縮小

しかし、華やかなニュースばかりではありません。

ロシアをはじめ、ヨーロッパ各国の経済は、必ずしも活況を呈していると言えず、当サイトで紹介したとおり、来季から創設以来初めてリーグ縮小に転じ、「2チーム」の脱退を発表済み。

さらに再来季(2018-19シーズン)は「3チーム」を脱退させ、下部リーグ(VHL)へ移行。今季の「29チーム」体制から、「24チーム」体制へのスリム化を図る方針を打ち出すとともに、財政面で不安を抱える既存のチームを、3年程度の間にヨーロッパやアジアのチームと入れ替えるプランも掲げました。

併せて KHLのドミトリー・チェルニシェンコ会長は、拙速に拡大路線へ戻すことはせず、「2022-23シーズンまでは、24チーム体制を維持する」との方針を打ち出しています。

【筆者追記】KHLは当初の指針と異なり、「25チーム体制」へ改めました。

▼KHLが縮小する理由は?

このように、KHLが縮小に転じたのは、チームの財政事情によるところが大きいようです。

18000人から2万人程度のキャパシティのアリーナで、ホームゲームが(レギュラーシーズンだけでも)41試合あるNHLと違い、KHLでは5、6千人規模のホームアリーナで戦っているチームも珍しくなく、テレビの放映権料やスポンサー収入は、NHLに遠く及ばないのが現状。

また、例年5月初旬から始まる「世界選手権」の開幕10日前までに全日程を終えなくてはならず、レギュラーシーズンのホームゲームは(一昨季から増やしたものの)30試合。

しかも、来季のようにオリンピック開催年度は、レギュラーシーズンの中断期間が生じてしまいます。

▼チーム間の格差が年々広がる

5季前から近年のKHLを振り返ると、

という3チームが、いずれも2度ずつチャンピオンに輝き ”勝ち組” が美酒に酔い続けています。

それに加え、西側に大都市が集中しているロシアの現状から、収益の格差が年々広がり、美酒に酔う勝ち組がある一方で、地方政府の財政補助がなければ、運営に差支えが生じてしまうチームも少なくない模様。

<筆者注>:メタルーグ マグニトゴルスクは、ロシアの西側にホームタウンがありますが、加盟チームのバランスからイースタンカンファレンスに所属しています。

KHL独自の調べによればNHLでは人気チームと不人気チームの収益やメディア露出などの格差は「2倍」程度なのに対し、KHLでは「8倍」もの格差が生じているそうです。

▼サラリーキャップもダウン

何より看過できないのは、選手への給与支払いが滞っているチームが少なくないことで、総額10億ルーブル(およそ18億7000万円=記事公開時のレート/1ルーブル=18.7円で換算)を超える給与未払いが生じていると、カナダのメディアが報じました。

このような背景から、サラリーキャップ(チーム年俸総額の上限)も見直され、2年前の11億ルーブル(およそ20億6000万円)から、今季は9億ルーブル(およそ16億8000万円)へ。

さらに、来季、再来季と、50万ルーブル(およそ9350万円)ずつ段階的に減額していくと発表。

財政状況によってチーム間の戦力差が生じるのを減らす目的に、サラリーキャップを下げる方針を打ち出し、KHLは格差の是正を試みます。

▼NHLは12年で2倍に!

一方、KHLとは対照的に、来季からベガスゴールデンナイツが加盟して31チーム体制となるNHLでは、今季の7300万USドルから200万ドル上がって、来季のサラリーキャップは「7500万USドル」(およそ83億3000万円=記事公開時のレート/1ドル=111円で換算)になることが、NHLとNHL選手会から発表されました。

振り返れば、12季前には労使交渉が決裂し、北米4大スポーツの長い歩みの中で、初めてシーズンフルキャンセル(=1試合も開催されず)になりました。

幸いにして翌年(2005-2006シーズン)に労使交渉がまとまり、当時のサラリーキャップは「3900万USドル」(およそ43億4000万円)。

ところが、干支が一回りする間に、NHLのサラリーキャップは(ほぼ)2倍にアップしています!

▼格差拡大が進むNHL

テレビの放映権料や広告収入が堅調とはいえ、NHLも5季前からのチャンピオンは、

の3チームが2回ずつ優勝と、KHLと同様にNHLでも ”勝ち組” が美酒に酔い続けている一方で、アリゾナ コヨーテスのように、ホームゲームの平均観客動員数が10年連続ウエスタン カンファレンスで最低というチームも。

ロシアを中心に発展し続けて来たKHLが、足元を見直したのに対し、24チームがホームタウンを置くアメリカ経済の好調さも手伝って、サラリーキャップが上昇し続けているNHLでは、年を追うごとにチーム間の格差拡大が進んでいるのは明らかです。

▼悲劇が繰り返される !?

NHLでは、前述した12季前(2004-05)に全ての試合がキャンセルされただけでなく、22季前(1994-95)と4季前(2012-13)にも、労使交渉の解決に時間を要して、オーナー側がロックアウト(施設封鎖)を行ったことから開幕が遅れ、レギュラーシーズンが短縮されました。

現在の労使協定の有効期限は、5季後(2021-22)まで。

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という言葉があるように、このままサラリーキャップが上昇し続け、チーム間の格差拡大が進んでいくと、ロックアウトによってファンが試合を見られない ”悲劇 ”が繰り返されるのは確実 !? かもしれません。

尚、前回のNHLロックアウトの経過などについては、筆者オフィシャルサイトに掲載した「NHL LOCKOUT 2012-2013」のカテゴリーで紹介していますので、ご参照ください。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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