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猛暑のオリンピック建設現場 灼熱の過酷な労働環境 これで持続可能なオリンピックといえるのか。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
オリンピック選手村・建設現場(8月2日)

■ 五輪を一年後に控えた猛暑の東京

 東京オリンピックパラリンピック開催まで1年を切りました。

来年の今頃はオリンピック真っ最中でしょう。

 さて、そんな東京。ようやく梅雨明け、すぐに容赦なく猛暑が始まりました。

今日も厳しい暑さだと言われていますね。

 2019年8月2日東京の最高気温は35度と予想され、朝のテレビ番組では

 熱中症に注意して下さい!不要不急の外出は避けてください!

とアナウンサーが繰り返し、視聴者に警告を発していました。

 実際、報道によるとこの日の天候はこのような状況です。

 8月2日(金)の天気 危険な暑さ注意 熱中症に警戒

出典:Weathernews

 こうした状況のもとで来年のオリンピックが開催されるとすれば、競技中に最悪の場合、死者が出てしまうのではないか?

 アスリートや観客、関係者が無事に大会を乗り切ることができるのか?

とても心配されるところです。

環境省の熱中症予防情報サイトによれば、31度以上は日常生活レベルで危険、運動は原則中止とされています。

■ 有明の施設  炎天下で働く人たち

しかし、その心配よりも先に今起きていることを心配すべきではないでしょうか。

 オリンピック・パラリンピック開催に関連する施設が現在建設中で都内あちこちの掲示工事現場では工事が進められています。

 そこで働く労働者の方々の労働環境はどうでしょうか?

 現在こちらのとおりたくさんの施設の建設が佳境を向かえています。

 オリンピック会場一覧

国際人権NGOヒューマンライツナウのモニタリング・チームでは、オリンピック関係労働者の方々の労働環境のモニタリングを開始しました。

8月2日、チームは、これら施設のうち、いくつかのオリンピックサイト訪問し、状況を確認しました。

まず、有明テニスの森駅からよく見えるこちら、「有明アーバンスポーツパーク」として設営準備されている自転車競技場のようです。

バイク競技場
バイク競技場

午前10時17分の温度、湿度、体感温度を測ったところ、

この時点で32度、湿度は75%、体感温度は43度とされていました。

体感温度とは、人が感じる暑さ涼しさのことで、スマートフォンで表示される体感温度を簡単に解説したのは、こちらです。

バイク競技場を見下ろす駅でさえこのような気温でしたので、近づくとさらに過酷でしょう。

温度を図ったもの。
温度を図ったもの。

 たくさんの方が炎天下働かれています。

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次に、有明体操競技場の建設現場に行ってみました。

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 清水建設が受注しています。子どもたちに誇れる2020、スローガンは素晴らしいですが、、

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 現場の表示では、温度が35度、湿度は45度とされていました。危険な温度ですね。

 しかし、先ほどのバイク競技場を見下ろす位置で湿度が75度だったのに、本当にここでは湿度が45度なのか、疑問です。

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 当然ながらたくさんの方々が炎天下で働かれており、本当にお疲れ様です。しかし、工事に必要な安全対策として、全身長袖、ヘルメット着用です。

 この猛暑のなか、さらに熱く過酷な環境です。

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 中には、服の中にファンが装着されて涼しくなるような作業着を着ている方もいましたが、全員ではありません。

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 労働者の方から聞いた証言によれば、

 「下請け会社ごとに違い、支給されているところもあれば、支給されていないところもある。個人で買う人もいる」とのことでした。

 こちらが競技場です。

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 当然、建物の中での作業もあり、中は熱がこもってさらに熱いはずです。しかし、少なくとも今回に先立ち、7月に労働者の方からうかがった限りでは、

 内部にエアコンディショナーは設置されていない

とのことでした。

 エアコンディショナーを設置するのがまさに彼らの仕事であり、「これから設置する」ということでした。

 熱中症対策としてなのか、ポカリスエットが大量に現場においてあるのは確認しましたが、それで十分でしょうか。

 続いて、有明アリーナ にも行ってみました。

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 複数の建設会社が共同で工事を進めています。

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 ここでも炎天下、たくさんの方々が働かれていて、本当にお疲れ様です。

 労働者の方々からの聞き取りでは、ここには外国人労働者もたくさん働かれているとのこと。

 技能実習生に対する酷使など、深刻な問題が起きていないことを祈るばかりですし、いきなり日本に来てこの暑さで慣れない炎天下の業務に従事して大丈夫なのか、懸念されます。

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 携帯アプリで離れた場所から温度湿度を測定してみた結果、温度は31度強、湿度は88パーセント、体感温度は45度以上でした。しかし、内部ではさらに熱いことでしょう。室内作業がどれほど過酷か、想像もつきません。

■ 晴海 灼熱の選手村 

 晴海の選手村建設現場にも足をのばしてみました。

 とにかく、炎天下、本当に暑いです。

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 非常に広大な地域が選手村となるようで、大規模再開発が進んでいます。

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 建設中の選手村はまるで高級マンションのようで、実際にオリンピックの後は実際にマンションとして使用が予定されているようです。

 和風の風情で建設されているシックな外観ですが、気温は高く、離れたところからでも、

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 温度33度、湿度73パーセント、体感温度45度と計測されました。

 現場には休憩所が設置され、適宜休憩をとれるようですが、健康対策は万全なのか、気がかりです。

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 その現場で目につきましたのは、男女共同参画社会という時代の流れを取り入れた、働く女性を応援しますというスローガン。

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 素晴らしいスローガンです。でも女性にとって、そしてもちろん男性にも、このような環境での仕事というのは働きやすいといえるでしょうか。

 熱中症予防を中心に労働環境への配慮が抜本的に必要ではないでしょうか。

 今回のモニタリングチームの一員である女性は、1時間半程度の視察で、頭が痛くなってしまったとのことでした。

 今回の私たちのモニタリングは正式な調査ではなく、温度湿度等も簡易測定にすぎませんでした。

 しかし、それでも労働者の安全と健康に対して、重大な懸念を感じざるを得ませんでした。

 そして調査は午前中に終了しましたが、午後に入り、どんどん最高気温に近づいて一層過酷な環境となったことでしょう。

■ 命がいくつあっても・・国際団体の調査でも

 オリンピック・パラリンピックの建設現場をめぐっては国際団体も調査を行い、問題点が指摘されています。

東京五輪・パラリンピック関連の建設現場で働く人たちの労働環境について、国際機関の聞き取り調査が3日、東京都内で行われた。すでに2件の労災死亡事故が発生したことを受けたもの。結果は組織委員会などに提出される。

 調査したのは、国際建設林業労働組合連盟(BWI、本部・ジュネーブ)。BWIに加盟する労組「全国建設労働組合総連合」(全建総連)が依頼を受け、新国立競技場や選手村などの建設現場で働く労働者40人を集め、意見交換とアンケートをした。

 選手村で働いていた男性は、「誤った作業手順が進められ極めて危険で、命がいくつあっても足りない」と話した。1カ月で仲間たちと仕事を辞めたという。工期も当初言われた時よりも短い時間で仕上げるように指示され、「現場は、せかされ、追い詰められている」などと語った。

「情報統制がすごい」「外国人の技能実習生には、資材を引き上げるなど単純作業を行わせていて、見ていてかわいそう」などの意見もあった。

出典:朝日新聞

 BWIは、調査結果について、今年5月に「The Dark Side of the Tokyo 2020 Summer Olympics(2020年東京オリンピック“闇の側面”)」とする報告書をまとめて公表しています。

 ここでは、週28日勤務、危険な環境などの労働者からの訴えが記載されています。さらに、

 

報告書では、「聞き取りした作業員の半数は雇用契約がない」「2人の作業員が安全器具を自費で購入させられた」といった実態を指摘。「労働組合がJSCに作業員の苦情を代表して申し立てても、当事者でないため却下された」「海外からの労働者は失職や懲戒を恐れて、労働環境に苦情を言えない“恐れの文化”がある」などの声もあったという。

出典:日経×TECH

 この件の解説記事はこちらなどがあります。

■ 「持続可能なオリンピック」は本当か。

 これを受けたオリンピック組織委員会の動きは遅く、7月19日にリリースを出していますが、独自に調査をしたり是正に動くという形跡は伺われません。

 これまで指摘されてきたことへの改善も進まないまま、この酷暑を迎え、通常人なら、すぐに熱中症にやられてしまうような環境で働き続けるという負荷が加われば、いったいどうなるのでしょうか。

 これ以上、犠牲が出ることは絶対にあってはならないはずです。

 オリンピック組織委員会は、持続可能な開催を目指し、持続可能性に配慮した調達コードを定めていますが、本当に実施されているのでしょうか。

 調達コードに反する場合は、通報窓口が設けられていますが、労組が労働者からの匿名の通報を根拠に申し立てた案件では当事者でないとして訴えを認めなかったといいます。

 しかし、建設労働は、ゼネコンから下請けの連鎖が何段階にもわたり、労働環境に苦情を言うような小規模事業者はすぐに契約を切られてしまい、声をあげにくいと言われています。事実関係を確認するためには、こうした声をあげにくい状況に配慮し、匿名の通報に広く対応する必要があります。

 オリンピックに向け、世界は今、日本の対応、特に持続可能なオリンピックを掲げているのが本気なのか、人権や社会課題への本気度に注目しています。

 本当にこのようなことで、持続可能なオリンピックといえるのでしょうか。

 この酷暑の中、関連施設の建設に携わっている労働者の労働環境を最優先にし、抜本的な改善に乗り出すべきです。

 組織委員会は、BWIや傘下の日本の労働組合、市民社会との話し合いのテーブルに着いて、改善に向けて率直に話し合うべきではないでしょうか。(了)

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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