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拙速な導入は命や安全を脅かす。共同親権に関する家族法改正への重大な疑問

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
DVや虐待の被害者保護が軽視されていいのでしょうか?

1 共同親権の議論への重大な疑問

 今通常国会で、家族法改正に関する民法改正法案が上程されようとしています。その目玉ともいえるのが、特に離婚後共同親権制度の導入も含む親権制度に関する規定の見直しです。

 離婚後共同親権という発想自体、全否定されるべきものではありません。離婚をしても、子育てに関して、父母が協力し合ってやっていけることに越したことはありません。

 しかし、「恋愛関係はなくなったから離婚するけど、子育てでは仲良くいこうね」というような会話が成立するさわやかな離婚事案と言うのは日本では珍しく、特に私たち弁護士のところに来る案件というのは、両親の間の関係が極めて険悪である「高葛藤事案」、なかでもDV、モラハラ、経済的虐待、子どもへの虐待等、「もう二度と会いたくない」「関係を絶たないと精神的にも崩壊してしまうし、身の危険すらある」というような事案が多いのが実情です。

 そもそも両親が仲が悪いから離婚し、口もきけない関係になっているのに、子どもにとって重要な親権の行使を共同でできるでしょうか?子どもにとって急いで決めたい、将来にとって重要な決定を早めに決めたい、ということであっても、親が拒否権を発動して子の利益を害することにならないか、懸念されます。

 あわせて、この法改正が、ここ20年以上にわたって築いてきたDV被害者保護、児童虐待被害者保護の制度や施策を大幅に後退させる結果となることは必至です。以下に、一見よさそうな制度であっても、家庭内の弱者の人権の保護を後退させることが明らかな制度を導入することは許されないはずです。

 そこで、現在与党などで議論されている法案の原案をもとに問題点を考えてみたいと思います。

2 親権の行使に関する法案(原案)の問題

 法案の原案には以下のような規定があります。

親権の行使方法等
・親権は、父母が共同して行うものとすること。ただし、次の⑴から⑶までに掲げるときは、その一方が行うものとすること。(第八百二十四条の二第一項関係)
⑴その一方のみが親権者であるとき。
⑵他の一方が親権を行うことができないとき。
⑶子の利益のため急迫の事情があるとき。
・父母は、その双方が親権者であるときであっても、本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができるものとすること。(第八百二十四条の二第二項関係)
・特定の事項に係る親権の行使(ただし書(1)(2)(3)の規定により父母の一方が単独で行うことができるものを除く。)について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができるものとすること。(第八百二十四条の二第三項関係)

(1) 疑問① 共同親権ありき?

 この規定は、離婚前でも離婚後でも適用される規定と読めます。これまで、日本では離婚後は単独親権制度を採用しており、実際に子どもを引き取って監護する親が親権を持つのが通常でした。上記規定をみると、離婚後も共同親権がデフォルトであり、例外的な場合だけ単独親権、という規定ぶりになっています。

 これまでの議論では、離婚後共同親権制度への強い懸念も当事者からあるため、共同親権を導入してもそれが原則とはならない、という議論がされてきましたが、この規定ぶりからみると、原則は共同親権、と読めます。

 これでは、家庭裁判所などの運用において、一方当事者が強く反対していてもほとんどの事案で共同親権ありきで話が進んでしまうのではないか、と強く懸念されます。

(2)疑問② そもそも「親権」とは何?

 そもそも共同で行使すべき「親権」とは何でしょうか?

 「監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができる」とも規定されていますが、あまりに抽象的でわかりません。

 例えば、一番切実なのは「居所指定権」です。離婚をすると当然多くの場合夫婦は別居することになり、一人の親が主たる監護を担い(これまではその親が単独親権者)、子どもはいずれかの親と生活することになります。

 しかし、親権に居所指定権も含まれるとなると、離婚した親子は相手方の親の同意がない限り別居もできませんし、離婚後の転居もできないことになります。

 子が成人するまでの長い間、離婚した相手方の許可がないと転居できないとすれば、離婚後の生活や再出発は大きく制約されます。再婚して別の県に引っ越したい、転勤を命じられて別の地域に引っ越したい、海外赴任や留学をしたい、というような人生の選択も元配偶者に妨害されてしまう可能性があります。

 さらに、DV被害者の多くは、物理的な攻撃や徘徊、子への危害を恐れて転居先を秘匿している場合がほとんどですが、居所指定権も共同とすると、被害者は逃げ場を失います。

 次に「教育」です。何が日常で何が日常でないか、わかりませんが、例えば進学先や受験先も両親の許可がないと実現しないとなれば、元配偶者の同意が得られないために子どもの受験すらままならなくなります。

 受験は、状況に応じて、又は子どもの希望や最新の成績などに応じて臨機応変に変える必要があることは誰もが知っています。ところがいったん両親が離婚し、高葛藤と言う事案では元配偶者の意見を取り付けるのに時間がかかり、その結果、受験や進学の機会を逃してしまうかもしれません。意見が合わない場合に最終的に決定するのは裁判所ですが、今でもこうした決定に数か月かかります。このような事案が離婚後共同親権導入後は殺到するでしょうから、さらに時間がかかるでしょう。数か月を待っている間に子どもは機会を失い、どこにも進学できないかもしれません。また、発達障害等のお子さんの教育方針を巡っては両親の間で対立が起きやすい傾向があります。

 こうした問題にどう対処するのか、原案からは明らかではありません。

 また、子どもの海外留学、ホームステイ、部活動、塾、習い事なども元配偶者の許可がないとできないのか?疑問と懸念は尽きません。

 さらに「医療」も問題です。「急迫」の場合は単独で親権が行使できると書かれていますが、「急迫」の範囲も明確ではなく、判例の蓄積もありません。

 おそらく救急車の呼ばれるような緊急医療については「急迫」に該当すると信じたいですが、子どもの難病や小児がんの治療方針を巡って親の間で見解の対立がある場合、どうすべきでしょうか?

 およそ何らかの後遺症のリスクがゼロとは言えない予防接種やワクチンについてはどうでしょうか?新型コロナワクチンや、子宮頸がんワクチンについては、意見が分かれるところがあります。

 医療従事者にとって明確な基準が示されているとは到底言えないため、医療従事者も困惑するでしょうし、リスクを回避するとなると、医療措置を行わない、という方向に流れてしまうのではないでしょうか?

(3)疑問③「急迫の事情」とはなにか?

 さらにわからないのは「急迫の事情」という要件です。

 「急迫」と言って思い出すのは、刑法にでてくる「正当防衛」における「急迫不正の侵害」という言葉です。これは、AさんがBさんを殺害した、しかしそもそもBさんがAさんをピストルで狙って殺そうとしている瞬間だったので、自分を守るためにやむを得なかった、というような事案で、行為の違法性が阻却されて無罪になりうる、というものですが、求められる「急迫」のレベルは高く、正当防衛の立証のハードルが高いことで知られています。

 ここでわざわざそのような文脈で使われてきた「急迫」という言葉を要件を持ち出すのは、非常に限定された状況でしか、この要件は認めないぞ、いうメッセージに受け取れますし、裁判所で判断されるときも極めて局限的な場合に限定して認定される危険性があります。

 例えば、この規定は離婚後だけでなく離婚前にも適用されることになるわけですが、DVやモラハラ等に耐えられず、あるいは子どもの虐待が発覚するなどして、さらには出勤前に「今夜までに出ていけ、そうでないと何があるかわかってるだろうな」等と言われて、あわてて子どもを連れて友人宅やシェルターに身を寄せたり、避難をする、という場合はどうでしょうか?あらかじめDV夫から逃れるために転居先をさがしてXデーを決めて子どもと一緒に避難する、という場合はどうでしょうか?

 もちろん、話し合ってから別居するに越したことはないでしょうが、全く話が通じない相手で、別居と言いだそうものなら何をされるかわからないような場合、どうしたらいいのでしょうか?

 その場合、特に主たる監護を担っている母親が、小さい子どもを置き去りにして避難するわけには到底行きませんので(育児放棄に該当したり、場合によっては保護責任者遺棄罪に問われるでしょう)、子どもと一緒にいわゆる「子連れ別居」をすることは当然想定できます。

 このような「子連れ別居」のうち、「急迫」に該当する場合はどんな場合で、別居する側がどのような立証を尽くせば「急迫」と認められ、単独で転居ができるでしょう。

 そして、自治体やシェルター等の支援機関は、どのような場合であれば「急迫」があると考えて住民票の移転や子どもの転校、各種手続、生活保護申請、関連する支援措置を決定することができるでしょうか?こうしたことも全く決まっていません。

 この点ははっきりしなければ、子どもを連れてDV等から避難したい人が避難できず、さらなる暴力や虐待の犠牲になる危険性があります。今でさえ子連れ別居を「実子誘拐」等と言って糾弾し、避難した配偶者を攻撃する風潮がありますが、こうした風潮が加速することで、保護されるべき被害者が追い詰められることが強く懸念されます。

 法律ができてから細目は後で決めればよい、というのでは極めて無責任な結果となる可能性が極めて高いといえるでしょう。

3 離婚又は認知の場合の共同親権

 次に、法案の原案には以下のような規定があります。

父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定めるものとすること(第八百十九条第一項関係)
・裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定めるものとすること。(第八百十九条第二項関係)
・子の出生前に父母が離婚した場合には、子の出生後に、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができるものとすること。(第八百十九条第三項ただし書関係)
・父が認知した子に対する親権は、母が行うものとすること。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができるものとすること。

(1)疑問① 離婚の場合

 まず、離婚については、協議離婚で、夫婦間の力関係で弱い立場に置かれた当事者、どうしても離婚したい当事者が不本意に共同親権を選択せざるを得ない可能性があり、懸念されます。親権者の変更が認められるという条文もありますが、現状では親権者の変更というのはよほどの深刻な事態がない限りほとんど認められないのが実務となっています。

 次に離婚訴訟になった際はどうなるか、どのような場合に共同とし、どのような場合を単独とするか基準は明らかにされていません。「その双方又は一方」という書き方では、共同親権ありきに流れやすいのではないか?と危惧されます。

(2)疑問② 認知の場合

 婚姻関係にない男性との間の子どもについては、母が親権を行使するのは前提とされていますが、突然父が名乗り出て子を認知する可能性があります。

 民法は、母は認知を求めることも拒絶することもできず、父は一方的に認知できる、という極めて差別的な規定を残しています。

 つまり、意に反して性交をさせられた事例、交際していたけれど到底耐えられずに別れた事例などでも一方的に認知をすれば父になります。その場合でも、原則として母が親権を行使しますが、認知した「父」は共同親権を協議で求めることができるというのがこの条文です。

 そして、協議が整わない場合は、最終的に裁判所が親権者を決定することになっています。そのような裁判に付き合わなければならないだけでも大変な心的負担でしょう。

 米国では、レイプ犯が共同親権を求めたのに対し、母が拒絶したにもかかわらず、「レイプ犯も今では反省しており、更生の可能性があるから」という理由で共同親権が命じられたケースがあるそうで、そのような悲劇が日本で起きないようにしなければなりません。

4 単独親権を維持すべき場合とは?

・ 裁判所は、(略)父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならないものとすること。
・この場合において、次の⑴又は⑵のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならないものとすること。(第八百十九条第七項関係)
⑴父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
⑵父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無、又はの協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。

(1) 疑問① DV・虐待は本当に排除されるのか

 この条文は、これまでの多くの懸念や非難を受けて、DVや虐待の場合は単独親権にしなければならない、としています。

 しかし、その立証責任は果たしてだれが負うのでしょうか?

 多くの場合、DV被害者は証拠を残すこともできず(とっさに証拠を残すことは至難の業ですし、あざの傷の写真等についても夫に証拠が見つかったら怖いという話はよく聞きます。夫の保険に入っている場合、病院にいって手当を受けたことも後で発覚すれば何をされるかわかりません)、命の危険を感じて逃げることが多くあります。

 また、虐待は母親も知らない間に密室で行われることも少なくありません。特に子どもに対する性的な虐待は証拠が残りにくく、子どもからもし打ち明けられたなら証拠を残せ、などと子どもに言うより、親に求められる行動は即避難です。

 現在、自治体等に寄せられるDV相談の件数は約12万件とされていますが、一方で家庭裁判所の保護命令が発令される案件は 1500件程度です。その数字には大きなギャップがあります。エビデンスがない、あるいは保護命令は得ていないが、深刻なDVを訴えていた人をDVケースとして扱うか、が大きな問題となります。

 この数字の差を捉えて、国会では2月7日に日本維新の会の市村議員がDV相談の99%はでっち上げのために使われているのではないか、と指摘する専門家もいる、などと質問しています。

 このような一方的で、誤った理解で国会審議が進み、法律が採択されることになれば、影響は甚大です。証拠を保全できなかった被害者の訴えの多くが「デマ」だとみなされ、あるいはDV等の立証不十分として、共同親権を裁判所から命じられるかもしれません。

 共同親権導入による被害者保護への極めて深刻な後退と害悪の危険に鑑みれば、共同親権の判断は極めて慎重に行われるべきであり、立証責任を転換し共同親権を主張する側に立証の負担を負わせる必要があるのではないでしょうか?

(2)疑問点② 子どものためといいながら、子どもの意見を聞かないのはなぜか。

 この制度の導入趣旨は、子どものため、子どもの権利のためとされていますので、「父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき」について、共同親権を除外することは当然でしょう。しかし、そのためには子どもが意見を述べる機会が保障される必要があります。子どもの権利条約12条は子どもに関する決定について子どもの意見表明権を保障しています。

 ところが、子どもの意見を聴取する手続は設けられていません。本当に子どもの利益のために推進しているのか、そうであれば、何故子どもの意見を聞かないのか、が問われなければなりません。

(3)疑問点③ モラハラや経済的虐待はどうなる?

 DVや虐待はなくても、モラハラや言葉による暴力、経済的虐待が酷く、対等な人間関係ではなく、完全に一方が他方(多くは妻が夫)に恐怖し、服従してきたケースもあります。こうしたケースは共同親権となってしまうのか、大いに懸念されます。

4 その他の疑問

 このほか、共同親権になったら、各種手当は誰が受給するのか、保険証や社会保険はどうなるのか、はっきりしません。

 また、親が再婚した場合、再婚後の父親になる人と、元夫の親権の関係はどうなるのかも不明です。

 共同親権のメリットとして、育児や学費等の負担の分担があるかもしれません。

 母親がワンオペ育児から解放され、夫にも均等な育児を求められるのか、また、今後は子どもの学費について双方の親の収入按分で学費負担を裁判所が命じてくれるのか?そういったことは特段何ら決まっていません。

 弁護士ドットコムの実施したアンケート調査によれば、実務に携わる多くの弁護士から「実態を知らない、理念先行の議論しかなされていない」等の理由で、約8割の弁護士がこれに反対しているとの結果が出ています。

5 共同親権制度は過去に離婚した人にも及ぶとの報道

 今回の民法改正は、過去に離婚した人にも適用されるとの報道があります。

 これから離婚する人に適用されるだけでなく、過去にDV等で避難し、離婚し、今では落ち着いて生活している親権者(被害者)や親にまで共同親権が適用されるとなれば、多くの被害者が不安と恐怖に陥れられるでしょう。

 やっと別れることができ、避難した際には証拠を持っていたけれど今では過去のことだと考えて捨ててしまった人もいるでしょう。このような人たちが突然、加害者から共同親権に関する訴えを受ける恐怖をどう考えるのか、共同親権になった場合に起きる被害からどう被害者を保護するのか、本当に疑問です。

 制度の遡及適用の結果、守られるべき被害者に万一のことがあったら誰がどう責任を取るのでしょうか。

6 DV・虐待被害者保護の重大な後退

 以上の疑問を前提に、私は、何よりも暴力からの被害者保護のためにこの国で整えられてきた制度の重大な後退である、ということを強く懸念します。

 2001年にDV防止法ができる前は「夫婦喧嘩は犬も食わない」と言われ、被害者保護の制度はほとんどありませんでした。DV被害が極めて深刻で、特に家庭内で弱い立場にある女性たちが深刻な暴力の被害を受け、時には殺害され、これを目撃した子どもたちにも深刻なトラウマが残りました。それが1990年代に社会問題化してDV防止法が制定されました。その結果、DV被害者保護が国や自治体の責務とされ、加害者が避難した被害者や子どものの居所を突き止めてさらなる暴力をふるうこと等を防止する保護命令制度ができ、被害者の住所はその安全を図るための秘匿事項として守られる実務が徹底しました。

被害者は「逃げていい」「保護されるべき」との社会の理解が進み、避難した被害者のサポートが次第に拡充しました。ところが、今回の法改正で「急迫」の事情がない限り子どもを連れて逃げられない、証拠がなければDVとして認定を受けらえず、共同親権制度となる、その結果、加害者が居所指定権を行使して、被害者や子どもの居所を常時知りうるし、子どもの学校も親権者として知り得る、子どもに関係するすべてのことは加害者を通さないと進められない、となれば、これまで確立した被害者保護は180度後退するでしょう。

 DV被害者は、長年のDV被害で鬱傾向の方が少なくありませんが、それでも厳しい経済環境のなか、ワンオペで子育てをし、仕事もしなければなりません。精神的にも経済的にもいっぱいいっぱいのところで生活しています。相手方に住所が突き止められ、これまでやっと築いてきた安定した暮らしが瓦解するかもしれないと想像しただけで希死念慮をさらに深める方々を何人も見てきました。これ以上、こうした被害者を追い詰めることは人道的な問題があると感じます。

 そして、実際に元配偶者を追跡し、殺害する事件は後を絶ちません。

 児童虐待に関しても同様に、被害者保護が大きく後退する危険性が高いと言えます。特に2017年の刑法性犯罪規定の改正で、監護者性交等罪が導入され、親が子どもを性的に虐待することを厳しく処罰し、2023年の改正とあわせて子どもの被害者を保護することになりましたが、性虐待の訴えのあるケースでも証拠がなければ共同親権となり、単独親権の場合をはるかに超えて宿泊を伴う面会交流も多く認められる可能性があります。

 共同親権制度の運用が、これまで築いてきたDV・虐待の被害者保護を後退させるようなことになってはならないと思います。

 既存の制度の後退が生む帰結の深刻さに鑑みれば、こうした懸念を明確に払しょくできない限り、この制度の導入は行うべきではない、という主張には合理性があると思われます。

両方の親が完全に自由意思で共同親権を自ら選択した場合を超えて、共同親権制度を導入することは幾多の有害な結果をもたらすでしょう。実務や被害者の声を無視した机上の空論でこのまま突き進めば命や安全が奪われます。

 立法府・国会議員・政府関係者は、被害者や支援者から提起されている疑問にひとつひとつ真摯に対応すべきです。

 今回の法案はあまりに拙速で、法案としての上程が許されるレベルに達していないと考えます。(了)

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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