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中国の良心・人権派弁護士の浦志強氏らが拘束された。天安門事件の真相究明を求めて。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

■ 天安門から25年  その勉強会後に拘束された知識人たち

5月3日、1989年6月4日の天安門事件から25年となる6月4日を前に、中国の学者、弁護士、作家などの改革派知識人が北京市内で勉強会を開催、天安門事件の真相究明を求めた。

天安門事件からもう25年にもなるのだ。改革を求める学生たちを軍が戦車でひき殺し、実弾発砲で殺して、群衆を一掃する様子をTVでみて、強い衝撃を受けたことを覚えている。

あれから25年が経過し、中国も変化した。事件の真相究明に取り組むという姿勢を政府としてもそろそろ示してはどうなのか、と、日頃我慢強い中国の知識人が声を挙げたのもうなづける。そんな思いで報道に接していた。

ところが、この会合に参加した知識人たちが直後から拘束されていった。

この集会に参加していた中国の著名な人権派弁護士である浦志強氏は、4日夜、自宅から北京市公安局に連行され、6日には刑事拘禁処分とされ、北京市第一看守所に拘束された。

研究会参加者の改革派知識人のうち、多くが当局の事情聴取を受け、少なくとも徐友漁氏、胡石根氏、劉荻氏らも同じ容疑で拘禁されていると伝えられている。

■ 拘束された浦弁護士とはどんな人か

浦志強氏は、中国で最も影響力を持つ人権派弁護士の一人であり、多くの人権問題に関わる訴訟を担当し、法の支配と言論の自由を一貫して唱え、「中国の良心」とも言われている。

大きな成果として、中国の教育システム~ 労働教養制度の違法性を訴え続け、たくさんの訴訟を提起して訴え続けた結果、昨年末には中国指導部も同制度を廃止するに至った。

この制度、思想的に問題があり、再教育が必要だと当局に判断された人は、裁判もないまま労働教養所に拘束されて再教育される=過酷な労働に従事させられる、という行政罰で、文化大革命の頃に始まったとされる。書籍や報道でその実態を知った時は、私も本当に愕然としたものだ。この制度を廃止させるまでは本当に大変であっただろうが、浦氏は粘り強く努力を積み重ねて、この問題に取り組み続けたのである。

私は2013年4月に中国を訪れた際、浦氏と懇談する機会があり、今年2月には、ヒューマンライツ・ナウと早稲田大学の共催で、東京に浦氏を招き、講演会を開催した。

当日は、大雪という悪天候にも関わらず、多くの聴衆が集まり、そのたゆまぬ信念と行動力に大きな共感が広がった。いくつかのメディアでもこの浦氏の講演内容は紹介された。

その日の様子は、こちらから見ていただくことが出来る。

https://www.youtube.com/watch?v=CaqhvAH3Mhs&feature=youtu.be

中国の人権状況を変えるのは、どれだけ大きな壁だろうか、絶望的な状況が続く中でも、諦めることなく着実に進み、変化をつくりだしてきた浦志強氏は、本当に強い心を持った人だ。

著名な中国女優、チャンツィーさんも浦氏を応援し、釈放を求めているようだ、との記事が出たが、そのような支持を受けるのもうなづける存在だ。

法に基づく国家と社会をつくるために、実に多大な努力を続けてきたのだ。中国は彼をもまた獄につなぎ、社会的生命を抹殺しようとするのだろうか。

■ 強まる弾圧、窒息させられる自由な言論

浦氏らに対する今回の拘束は、集会・言論の自由の保障など、国際的に確立された人権基準から到底容認できない。

中国憲法の現行憲法第二章35条には「中国の公民は言論、出版、集会、結社、デモ行進、抗議の自由を有する」との規定が置かれている。自ら保障した憲法から見ても、このような拘束は正当化できない。

また、今回のように過去の人権侵害行為に関する歴史的検証を提起した知識人を拘束する行為は、事件の検証そのものを政府が行わないどころか、市民の間での議論する封殺する動きであり、極めて遺憾だ。

4月11日には、やはり著名な人権弁護士・許志永氏に対する懲役4年の判決が確定した。

同弁護士も法の支配を求めて活動してきたが、官僚の資産公開や子どもの教育を受ける権利の保障など、極めてあたりまえの穏当な要求であり、インターネットの活用で市民の広い支持を得る活動をしていた。

ところがそれが、多くの人々の注目を集め、政府に圧力をかけるよう煽動したとして、公共秩序を乱した罪で逮捕されたのだ。

浦氏や許氏を中心に、最近の中国の人権活動家は、中国政府が嫌う、いわば欧米の人権運動のコピーのようなやり方ではなく、草の根で人々の気持ちをよく汲み取った要求を掲げ、広い市民の支持を受ける、粘り強い建設的な活動を展開し、なかなか当局も弾圧できないような影響力をつけてきた。

こういった人たちまでもが弾圧の対象となる、というのでは、中国社会はいよいよと息苦しいものになりかねない。

■ 一刻も早く釈放を

ヒューマンライツ・ナウは、中国政府に対し、

● 国際的な人権基準に基づき、浦志強氏ら、5月3日の集会参加者を早期に釈放すること

● 糖尿病の持病を抱える浦志強氏の健康の保障を含め、今回拘束された全員に対する人道的取扱い、弁護士による接見など、国際人権法上確立された権利を保障すること

を求める声明を公表した。

【声明】浦志強氏ら、刑事立件  中国政府に対し、国際的な人権基準に基づき、速やかな釈放を求める

中国語版声明

(英語版ももうすぐこちらのページにアップする。⇒http://hrn.or.jp/eng/)

ところで、私たちは、「人権」を口実にして、中国と敵対・牽制したり、封じ込めたりする最近の日本の外交姿勢は正しくないと考えている。人権の政治利用で、対立をあおりたてるのはやめてほしいと思う。

ヒューマンライツ・ナウでは、日中の市民社会が民間草の根レベルの交流や対話を通じて、日本でも、中国でも、人権を尊重した社会が発展し、両国関係が市民レベルで良好になっていくことを希望し、交流プロジェクトを開始している。人権を理由に対立するのでなく、人権を重要なキーワードとして学びあい、理解しあうことが大切だと考えている。

ところが、そうしたなかで、中国当局の過度な弾圧の動きが相次ぎ、草の根の交流に支障が生じ、私たちが交流している素晴らしい人たちが息苦しく、物が言えなくなっていくことは残念でならない。

中国当局に、拘束された人々の速やかな釈放を求める。そして、真の意味での言論、集会等の自由の尊重、自由な議論の尊重を求めたい。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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