水野参事官のTwitter暴言について。福島事故の救済・支援策を遅らせている政治の責任こそ問題。

最近、私のこちらのブログでは、橋下大阪市長、上田人権人道大使、と暴言を批判することが続いてしまい、そんなことを書かなければならないということ自体が実に残念である。

そこにきて、復興庁の水野参事官の暴言問題である。。。。。

極めてひどい暴言であり、私自身愕然とした。

しかし、この人は私的なTwitterで公的な公然たる暴言ではないこと、「大使」や「市長」という立場でないことから、水野氏個人の発言への批判・攻撃をここで展開することはしない。この人だけ責めて終わりにすべき問題ではないと思う。

まず、「左翼の・・」発言は、復興庁全体、原発事故対応に取り組む公務員全体の空気を代表しているように思えて気になる。

原発被災者対策は著しく遅れており、そのことに被災者の方々や市民団体が批判的であったり、時には感情を抑えきれないことは無理からぬこともあろうし、それでも努めて建設的に進めていこうとする人たちも多い。

役所に批判的な人たち、要望に来る人たちすべてを「左翼の・・」と思っていたとすれば、とても悲しいことである。

特に、原発事故という筆舌に尽くしがたい被害を受けた方々、不安を抱え、切実な要望を国に求める方に対する基本的リスペクトがない、とすればそれはあまりに深刻なことである。

私達の団体ヒューマンライツ・ナウも、低線量被曝の影響をきちんと考慮し、追加線量1ミリシーベルトを基準とする住民保護を求めてきたが、中央省庁や福島県庁の担当者はこうした考え方を鼻から受け付けない、というような露骨な態度をとることがある。

低線量被曝の影響について正面から懸念を持つ人たち全体を「左翼の・・・」的な考え方で受け止め、建設的な対話の窓口を閉ざされているのではないか、という気もする。また、どうしてそういうメンタリティが形成されてしまったのか、というのも気になるところである。

しかし、何より気になるのは、福島原発事故の被害を受けている被災者の方々への救済策の絶望的な遅延と、そこにおける政治の不在である。

水野参事官が対応していたのは、略称「原発事故子ども被災者支援法」。

(法律全文はこちら)http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H24/H24HO048.html

この法律は、原発被災者支援立法として2012年6月に議員立法で成立した。この法律は「支援対象地域」に居住する者に対する医療、食の安全確保、保養、放射線量の低減などの措置、「支援対象地域」から避難する者に対する避難、住居、就職などの支援、避難先から帰還する者への支援等を行う包括的な基本法である。法律の基本理念(2条)には、

「被災者生活支援等施策は、被災者一人一人が第八条第一項の支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない。」 「被災者生活支援等施策を講ずるに当たっては、子ども(胎児を含む。)が放射線による健康への影響を受けやすいことを踏まえ、その健康被害を未然に防止する観点から放射線量の低減及び健康管理に万全を期することを含め、子ども及び妊婦に対して特別の配慮がなされなければならない。」 「 被災者生活支援等施策は、東京電力原子力事故に係る放射線による影響が長期間にわたるおそれがあることに鑑み、被災者の支援の必要性が継続する間確実に実施されなければならない。 」

などと書かれており、原発事故の影響を被った被災者を等しく救済する政府の施策の第一歩となる法律として、評価に値すると思ってきた。

ところが、この法律、制定からまもなく1年が経過するというのに、ほとんど何も進んでいない。

まず、法律には、政府が「基本方針を定めなければならない」(5条)と書かれているが、この基本方針が未だに策定されていない。

また、法律は「支援対象地域」(避難地域よりも線量が下回るが一定線量の地域)に居住、避難、帰還する住民を支援するとされているが、この「支援対象地域」の範囲が決まっていないから支援が出来ないのだという。多くの市民、住民から、支援対象地域は追加線量1ミリシーベルトを上回る地域にしてほしい、という意見が寄せられているが、明確な方針は決められないままだ。

3月には、基本方針も支援対象地域も決めないまま、「支援パッケージ」が公表されたが、全く包括的なものではなく、住民の要望に応えていないと批判されていた。

確かに、法律の実施にあたり基本計画の策定に時間をかける法律もあるであろうが、1年とはさすがに長すぎる。

特に未曾有の原発事故で、生身の人間が先の見えない避難生活を余儀なくされている、子どもや妊婦を含む人々が低線量被曝に時々刻々とさらされている、という、一刻も早い政府の措置が求められる状況下で、一年間もたな晒しというのは酷すぎる。

ちなみに、法律制定から基本計画策定までに1年以上かかった法律として、男女共同参画基本法がある。

これは1999年6月に法律が成立、同年のうちに、2000年12月に基本計画が策定されているが、法律成立直後に、有識者等からなる審議会に答申が出され、審議会が議論し、論点ごとに議論が行われ、時間をかけて基本計画が形成されていった。

http://www.gender.go.jp/about_danjo/law/kihon/situmu3.html

ところが、「原発事故子ども被災者支援法」については、基本方針策定のための第三者機関も設置されていない。パブコメもない。

原発事故対応のように緊急性を要する問題、人々、特に子どもの健康被害にも関連する問題で、一刻も早く基本方針を決めるべきなのに、このような遅延はとても許されない。サボタージュと言われても仕方ない状況だ。

その責任はどこにあるか、といえば、水野氏一人の責任に帰すことはできず、事態を放置していた復興大臣、副大臣、さらには首相の責任、つまり政治の責任である。

大臣が、水野氏ら官僚に丸投げして、全く進まないのを放置して、政治決断をしなかったのだとすれば、その責任が問われなければならない。仮に水野氏ら官僚側が、支援対象地域を曖昧にし、基本方針の策定を意図的に遅らせていたのだとしても、それと戦って正すのが政治の責任であろう。

そもそも、法律に「支援対象地域」を明記すべきだったと私は思っているが、「支援対象地域」がネックで実施が出来ないとすれば、法改正等も含め与野党の政治家が真剣に議論して決めるべきだ。そうなっていないのは、重要な政治課題だという位置づけがないからではないか。

この件を受けて、根本復興大臣は

私を先頭に、復興庁が一丸となって、「真心」を原点に、被災地に寄り添いながら、復興の加速化に全力を尽くしてまいります。

出典:http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat5/20130614125457.html

というお詫びの言葉を公表したようであるが、根本大臣に聞きたいのは、主観的な『被災地に寄り添い』『真心』などということよりも(もちろん、それは最低限のモラルとして必要であるが)、具体的な施策であり、政治の決断であり、結果である。

つまり、

●基本方針はいつまでにつくるのか、どのようなものをつくるのか、

●これまで1年も実施が遅れた原因をどう分析し、どう改善していくのか、今後どのような体制で現状を立て直していくのか、

●支援対象地域は追加線量1ミリシーベルトとするのか、そうでないとすればどの地域と決定するのか、その正当理由は何か、

について、具体的に問いたい。

今後のこの件の国会論戦やメディア等の議論も、情緒的な非難や主観的な決意を問う不毛な議論に流れることなく、または個人の問題に終わらせることなく、本質的な議論を深めてほしい。メディアの方も各種記者会見ではこうしたことをこそ、是非質問してほしいと思う。

個人を叩いて終わり、では、原発事故の影響を受けている方々の深刻な状況は再び放置されることになりかねない。