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これ以上放置できない~反韓デモなど、野蛮な民族排撃デモ・ヘイトスピーチ

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

新宿・新大久保で「韓国人を叩き出せ」「殺せ」などと連呼するデモが続いている。

3月17日は、「春のザイトク祭り 不逞鮮人追放キャンペーン デモ行進 in 新大久保」なるものが開催され、「除鮮」「祖国を蝕む害虫を撃つ」「出て行け朝鮮人」「殺せ朝鮮人」など、とんでもない差別表現のプラカードが掲げられて、排撃デモが行われたという。

http://tanakaryusaku.jp/2013/03/0006827

2月に開催されたデモもひどいものであった。「韓国人を殺せ」「ガス室に遅れ」「首吊れ」「ゴキブリ」

などと言うプラカードが掲げられた。http://getnews.jp/archives/289322

このような差別表現をネットで引用すること自体、抵抗があるが、多くの人に日本で今何が起きているか、を共有してほしいと思ってあえて紹介する(とても紹介できないひどい表現ももっともっとある)。

こうした事態を受けて、有志の弁護士が29日に、「これ以上放置できない」として東京弁護士会に人権救済を申立て、警視庁にも周辺住民の安全確保を申し入れた。会見した弁護士は「在日外国人の恐怖感は高まっており、身体に危険が及ぶ可能性もある」と述べたとされる。

http://www.asahi.com/national/update/0329/TKY201303290464.html?tr=pc

「殺せ」などの殺人や身体的攻撃を示唆・教唆する表現は、重大な犯罪を誘発しかねず、

正当な表現行為の範疇を著しく逸脱している。 このような状況では、民族排撃の対象となった定住外国人は、いつ危害を受けるか、不安で仕方がないであろう。

そしてそもそも、このようなあからさまな差別表現を行うこと自体、放置しえない人権問題である。

日本でも、これまでも外国人差別的意識は厳然としてあったと思うし、石原慎太郎前東京都知事が先頭に立って「三国人」などと発言をして責任を問われない、などという問題もあったが、ここまであからさまな差別表現が「デモ」というかたちで公然と行われることはなかったと思う。そのようなことを公然と発言するのは、最低限のモラルに反する恥ずかしいことである、人種差別主義者である、としてこれを容認しない社会的な風潮があったと私は考えていた。ところが目を覆うような差別表現や民族排斥が公然と行われるようになったのである。

こうした動きは新大久保だけではなく、全国に蔓延しているし、このまま放置すれば、さらにひろがる懸念もある。

凄惨な大虐殺や人権侵害は、いつも差別表現・民族排外の意識から生まれる。ナチスのホロコーストも、ユダヤ人排外の徹底したキャンペーンからスタートし、社会がこれを容認し、知らず知らずのうちに人々の意識に浸透する中で、ファシズムが完成し、ジェノサイドが起きていった。

ルワンダの大虐殺も、虐殺の前に、虐殺の対象となった民族を「ゴキブリ」「殲滅せよ」などと繰り返すラジオを中心としたメディア・キャンペーンが、ジェノサイドの土壌を整えていった。

日本においても、同じことが起こらないとは限らない。

民族差別に基づく虐殺・人権侵害を起こした国の残した教訓は、「早いうちからジェノサイドの芽を摘む」こと、人種差別の蔓延を放置しない、ということである。ヨーロッパでは、人種差別発言・反ユダヤ的表現は、表現の自由の範疇を逸脱するものとして厳しく規制・処罰されている。

国際的な人権基準のコンセンサスである国際人権規約(自由権規約)は、表現の自由を保障しつつも、20条で「1 戦争のためのいかなる宣伝も、法律で禁止する。 2 差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する」という規定を置いて、差別表現は禁止・規制してきた。

日本はこの条約を批准しているが、むしろ戦前に表現の自由が厳しく弾圧され、「暗黒時代」と呼ばれるなか戦争に突入した反省から、表現の自由の内容規制はできる限りしない、という考えを採用してきた。ヘイトスピーチについても、表現規制の口実にされて濫用される懸念から、慎重な姿勢を示す意見がどちらかといえば多く、そのため規制法は制定されていない。

しかし、だからと言って、ヘイトスピーチに寛容な社会であってよいはずはない。

政府もメディアも教育現場も、差別表現の蔓延が重大な人権侵害である、という認識に立って、このようなことを許さない明確な姿勢を示していくべきだ。部落差別問題に関しては、長年の運動もあり、政府・自治体・企業も対策を取り、未だ不十分ながら部落差別はあってはならないというコンセンサスがある程度社会に根付いているが、これと比較しても人種差別、在日外国人差別問題は政府・教育・メディアの取り組みもなく、ほぼ野放し状態に見える。外国人差別を禁止する法律を制定することも含め、差別を許さないという国の明確な姿勢が求められていると思う。

また、私たちひとりひとりが、レイシズムを許さない社会をつくっていく必要があると思う。レイシズムを許さず、屈せず、おかしいと言い続ける社会の環境をつくる必要がある。

そして、願わくば、デモに参加している人たちにも考え直してほしい。

デモ参加者は、北朝鮮のミサイル・核実験、拉致問題、竹島問題等を理由に日本に住む外国人を排斥したいという。

しかし、在日韓国・朝鮮人の人たちには、北朝鮮のミサイル核実験、拉致問題、竹島等の為政者の行為に対して、直接影響を与える立場にないし、何の責任もない。政府・独裁者・為政者の行為を理由に、その国の出身だという理由だけで攻撃されるのは明らかに理不尽である。彼らには政府の決定に対して何の責任も罪もない。

紛争下で、国と国がたとえ軍事衝突しても、罪のない民間人は保護されるべきであり、軍事行動の標的になってはならないというのが人権の基本ルールである。民間レベルであっても同じだ。日本と外交上の緊張関係にある国々だからと言って、民間人が標的になる差別行動・民族排撃は、私にとってどうしても見逃せない。

日本の尖閣諸島国有化の際に、中国に進出した日本企業が襲撃され、略奪されたが、国の政策決定と関係ない日本企業への攻撃に憤った人も多いであろう。何の罪もない日本人留学生が攻撃の対象となり、襲撃されたらどう思うであろうか。今新大久保で起きていることは、こうした反日デモでの日本企業襲撃と同じように(もしくは「殺せ」「ガス室」などという表現からみてさらに悪質な)、野蛮で恥ずかしい行為だと思う。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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