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女子柔道・15人の告発の勇気を正面から受け止めて。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

先日来、報道されている女子柔道の暴力・ハラスメント問題。

紆余曲折を経ているが、先週に入り体質の改革に向けた動きが出始めている。

JOCが告発をした15人の選手たちからヒアリングをするとともに、全柔連も、外部有識者を中心とする第三者機関を発足するという。

ホットラインの設置や、女性理事の登用も検討すると報道されている。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130205-00000109-mai-spo

国会でも第三者機関設置に関する超党派の法律を制定する動きが出ている。

まだまだどうなるかわからないものの、こうした変化が生まれてきたのは、

選手たちが勇気をもって連名でJOCに対して園田前監督の暴力行為やハラスメントの被害実態を告発をしたこと、

山口香さんのような先輩が選手たちの動きをサポートしたことが大きいだろう。

当初は、園田監督の辞任という「トカゲの尻尾切り」で終わるかと思われていたが、15人の選手たちが代理人を立てて、「園田監督辞任だけで終わらせないで」という必死のメッセージを公表し、それが大きく報道された。

選手たちのメッセージ全文が公開されている。

http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/0205.html

「指導の名の下に、又は指導とは程遠い形で、園田前監督によって行われた暴力行為やハラスメントにより、私たちは心身ともに深く傷つきました。人としての誇りを汚されたことに対し、ある者は涙し、ある者は疲れ果て、又チームメイトが苦しむ姿を見せつけられることで、監督の存在に怯えながら試合や練習をする自分の存在に気づきました。」

「ロンドン五輪の代表選手発表に象徴されるように、互いにライバルとして切磋琢磨し励まし合ってきた選手相互間の敬意と尊厳をあえて踏みにじるような連盟役員や強化体制陣の方針にも、失望し強く憤りを感じました。」

「私たちは、柔道をはじめとする全てのスポーツにおいて、暴力やハラスメントが入り込むことに、断固として反対します。」

これを読んで、本当につらかっただろうに、この競技の将来のために勇気をもって立ち上げった女性たちの志の高さやひたむきな心が伝わり、感銘を受けた。

自分が生きる道と定めた職業やスポーツ、その環境が暴力やハラスメントに満ちているというのは、本当に耐えがたいことである。

夢をあきらめたくないが、暴力やハラスメントを甘受することはできない。

告発をすれば、自分の生きる道を失うかもしれない。

多くの人が挫折をし、絶望してやめてしまう。もしくは、生き残るため、そうした環境を受け入れてやり過ごしていく。

それでも、妥協したりあきらめてやめたり、という個人的な解決をせずに、問題を共有する仲間たちと一緒になって告発することを選んだ。それはどの業界でもなかなかできないことであり、本当に画期的な素晴らしいことである。

内部告発者に対する実名公表と言う、およそ配慮に欠ける話まで持ち上がったが、今のところ、彼女たちのプライバシーは守られているようである。 あらゆるハラスメント事案において、告発者・被害者をさらし者にしないというのは鉄則である。

これからのヒアリングでも、傷ついた心情に最大限配慮し、プライバシーに配慮する扱いがなされるべきだ。

貴重な問題提起をした、選手たちをみんなで守り、支え、その声を反映させるバックアップ体制をつくってほしい。

第三者機関には、「一連の前監督の行為を含め、なぜ指導を受ける私たち選手が傷付き、苦悩する状況が続いたのか、なぜ指導者側に選手の声が届かなかったのか、選手、監督・コーチ、役員間でのコミュニケーションや信頼関係が決定的に崩壊していた原因と責任が問われなければならないと考えています。」という15人の問題提起を正面から受け止めて徹底した検証をしてほしい。

機構改革としては様々なことが必要であろうが、女子柔道が男子柔道同等にオリンピックその他、正式種目であるにもかかわらず、26人の理事に女性がひとりもいないのは問題である。

民間署名サイト、Change.orgには、早くも「全日本柔道連盟: 抜本的な組織改革のため、全員男性の理事会に、女性理事の選出を!」というサイトが立ち上げられ、私も署名した。

https://www.change.org/petitions/%E5%85%A8%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%9F%94%E9%81%93%E9%80%A3%E7%9B%9F-%E6%8A%9C%E6%9C%AC%E7%9A%84%E3%81%AA%E7%B5%84%E7%B9%94%E6%94%B9%E9%9D%A9%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81-%E5%85%A8%E5%93%A1%E7%94%B7%E6%80%A7%E3%81%AE%E7%90%86%E4%BA%8B%E4%BC%9A%E3%81%AB-%E5%A5%B3%E6%80%A7%E7%90%86%E4%BA%8B%E3%81%AE%E9%81%B8%E5%87%BA%E3%82%92?utm_campaign=share_button_action_box&utm_medium=facebook&utm_source=share_petition

IOC(国際オリンピック委員会)は、世界共通の目標として「2005年末までに女性役員の比率を20%以上にする」ことを掲げているが、全く達成されていない。国際水準からみて大変問題な状況である。

日本でも、政府が2003年6月に「社会のあらゆる分野において、2020 年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」と数値目標を設定して10年近く経過している。

30%という数値は、少数意見が黙殺・封殺されることなく尊重され、意思決定の中で適正に反映されるためには3割程度必要、という経験則から合理的な数値である。 26人中1人や2人を登用、などというかたちでお茶を濁すことのないよう、女性理事の拡大等の改革を進め、選手たちに近い立場の理事が意思決定過程に参加できる体制としてほしい。

ここでさらに気になるのは、他の競技種目である。JOCは2月8日に、31団体の強化責任者らに2日間の聞き取りを行った結果、全ての団体がパワハラ・体罰などの問題は「なかった」と回答したと発表したという。

http://www.sanspo.com/sports/news/20130208/oly13020820530002-n1.html

強化責任者に対する聞き取りだけで、選手から聞きもせずに、本当に体罰・パワハラがないと言えるはずはないであろう。

調査は明らかに甘すぎる。

国際社会に一歩出れば、人権意識が高く、暴力・ハラスメント等の体質に敏感な諸国やアクターが日本の動向を注視している。

日本でオリンピックを実現したいのであれば、この機会に国際スタンダードからみて恥ずかしくないよう、すべての競技で調査・検証が行われるよう期待したい。

ところで、先日私が「人権侵害ではないか」と問題にしたAKB48問題。

女子柔道の暴力問題とほぼ同じ時期に社会にクローズアップされ、程度の差こそあれ、同じハラスメント問題でありながら、問題の映像が削除されただけで、社会的議論が十分深まらず、上層部からの改革提案もないのは残念である。

いつか内部からも声が上がることを期待して、引き続き注目していきたい。

「人権侵害」という私の問題提起には、賛否両論があったようだが、苦しんでいる若い人たちが、将来的に新しい行動を起こしたり、なんらかのかたちで救われることになる契機のひとつになればと願っている。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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