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「近大ばかりえこひいきして」に反論したい~教育広報担当者が知ると得する話・3

石渡嶺司大学ジャーナリスト
近畿大がなぜメディア露出が多いのか、専門家が解説(写真:イメージマート)

◆「近大ばかりえこひいきして」

大学取材を続けていると、窓口となる広報担当者との付き合いがそれなりに生じる。その際、かなりの確率で言われるのが、「近畿大ばかりえこひいきして」だ。

中には、「近大からいくらもらった?」と言われたことすらあり、こちらとしては不愉快なこと、この上ない。

近大えこひいき論は、私だけでなく、メディア全般にも言及する広報担当者もいる。

「やっぱり、有名人を卒業式に呼ぶとか、マグロとか、スポーツとか、色々ある大学はいいですよね」

と、最初から白旗を揚げる広報担当者もいる。

確かに近畿大はアピール材料が多いし、宣伝もうまい。

ただし、前者についてはともかく、後者についてはせいぜい10年くらいの話だ。少なくとも私は2010年代半ばくらいまでは、他大学と同様に広報が上手くない典型例、と見ていた。

世耕石弘氏が入試広報課長、広報部長になっていき(2020年からは広報室を配下に置く経営戦略本部長)、相当変わった印象がある。

2010年代後半以降、「宣伝会議」など大学広報関連の特集だと、世耕氏ないし近畿大が頻出するようになった(他は追手門学院大など)。

実際、広報担当者からは、世耕氏の手腕を認めつつ、「でも、うちは世耕さんみたいな人、いないですからねえ」と愚痴られる。

いやいや、世耕氏という素晴らしい先達がいるなら、それを真似るだけでも十分だろう、とツッコみたくもなる。

あ、そうか、真似る気もないし、宣伝する気もないから自分も含めて人材なし、と愚痴っているのか、と納得して、その場では黙っている。

◆ジャーナリストである以上は

先にお断りすると、近畿大からは金銭を受け取ったことがあるか、と問われれば、ある。

2021年に情報学部新設について高校教員向け説明会があり、その席で講演を、との依頼を受けた。そこで講演をした対価として、講演料と交通費を後日、振り込んでもらった。

講演料としては相場というところだろう。

この説明会では参加者にお土産として「近大マスク」を渡しており、私ももらった。

これは、簡単に洗えて、息も苦しくない、ということで、その後、対面の講演で重宝した。ネットやヨドバシカメラ梅田店でも販売しており、確か、3つほど購入した。

なお、大学内での講演は別に近畿大学だけではない。他の大学・短大でもキャリア講義やオープンキャンパスでの基調講演・就職講座、教職員の研修会でも講演をしたことがある。いずれも、相場程度の講演料・交通費を頂戴した。

それをもって、記事で好意的になる、ということはない。

講演料は講演に対する代価であり、記事に対する代価ではない。

大学ジャーナリストという看板を掲げている以上、引くべき一線がある、と私は考えている。それが嫌なら、記事ではなく広告業者なりコンサルタントなりに転職すればよい。

別に、大学の広報担当者と常にケンカしているのが正常、とまでは言わない。お互いに人間である以上、仲良くなることもあるだろう。実際に、何人かとは親しくさせていただいている。

ただし、仲良くなる、親しくすることと、記事・著作の内容については別である。さらに、その記事・著作のために、あらぬ疑念がもたれることがあってはならない。

たとえば、だが、自動車ジャーナリストが自動車メーカーから多額の現金なり付け届けなりをもらっていて、それで「××社の新車は最高」との記事が信頼されるだろうか。それと同じである。

水面下で貰う、という手法があるのかもしれない。が、そういう器用さを私は持ち合わせていない。たぶん、どこかで判明して信頼を大きく損なうだけだ。

そう考えて、この21年、この記者稼業を続けてきた。

あるときは、就職実績がよろしからぬ大学についての記述について出版関係者と対立、ただでさえ少ない人間関係をさらに少なくすることとなった。言い方はともかく、就職実績のよろしからぬ大学の記載を削った点については何ら反省するところはない。むしろ、人間関係を失ってまで、中立的な記載を守ったからこそ、今の自分がある、と信じている。

閑話休題、近畿大学からは実はほぼ毎日、貰っているものがある。

それはどの大学でもやろうと思えば、やれる話だ。

近大えこひいき論をする大学関係者にこの話をすると、一度は興味を持って、「それはなんですか?」と聞かれる。

◆言った途端にスルーされる

「それはプレスリリースです。近畿大は日本一、プレスリリースをメディアに送付する大学です。同量、とまでは行かなくても、定期的に私含めメディアに送付してください。間違いなく、メディア露出は増えていきますから」

という話をした瞬間に、先ほどまで威勢の良かった近大えこひいき論はどこへやら。

途端に沈黙の海が訪れる。

こちらが、UFO襲来による陰謀論とか、マルチ商法の勧誘をしたのであれば、そうした対応も当然だろう。

だが、こちらは、メディア露出を増やしたい、という大学側の悩みに対して、真っ当な解決策を提示しただけにすぎない。

それで、近畿大はこういうリリースを流していて、これはこうで、ああで、という力説するが、余計にスルーされる。

多分だが、陰謀論やマルチ商法勧誘の方がまだましだったのでは、とすら思えるほどだ。

◆職員から学長まで全部同じ

こうしたやり取りは、これまで公式・非公式含め、少なくとも30回以上はある。

そのうち、役職に付いていない職員であれば、プレスリリースを出す権限がないので身動きが取れない事情は理解できる。

だが、権限があるはずの、役職者や学長、理事などの経営幹部クラスであっても、スルー対応は全く変わらない。

しかも、数回は「大学広報を強化したい」とのリクエストを受けた席での話だ。

それでもなお、プレスリリースはもちろんのこと、大学パンフレットすら送ってこない。

おそらくだが、借金の申し込みの方がまだ好反応ではないだろうか、とすら思える。

このプレスリリース嫌い、相当に重症だ。

付言すると、私のところにプレスリリースを定期的に送信しているのは、近畿大学以外には、金沢工業大学、早稲田大学、追手門学院大学、関西大学、徳島大学、鹿児島大学の6校。

自分で言うのも何だが、大学取材を重ねて21年、関連著作が32冊もあって、今もなお、定期的に大学関連記事を出している。

その自分に、プレスリリースを送ってこない大学がほとんど、これはもう、大学関係者諸氏からよっぽど嫌われているか、民間企業広報の5割引き・夫婦間の悪口の類か、それか、プレスリリースのノウハウを根本から理解していないか。

嫌われるのは心覚えがないでもない。

5割引き・夫婦間の悪口とは、配偶者に不満がないにもかかわらず、「うちの妻はどんくさくて」「うちの夫は掃除が下手で」とか、悪口を言う、だけど、実は離婚する気は全くない、というアレ(類似パターンは「うちなんか田舎で」と言いつつ、「本当に何もないですね」と返すとキレる)。

だから、「大学広報を何とかしたい」と言ってきても(それが学長だろうと理事だろうと)、本気にするだけムダ。

適当にお茶を濁しつつ、ゴマの一つも擦っていれば、特任教授か、学長特別補佐とか、適当な役職とギャラが入る。あとはなーんもしなくても、ギャラと経費を無駄遣い。

世渡りとはこういうことか、これからはこの手で行こう。

というわけで、大学ジャーナリスト稼業は本日閉店。

長年のご愛顧、ありがとうございました。

…。

……。

………。

え?違う?

◆プレスリリース、具体的には?

嫌われているわけでなし(そうですよね?)、5割引きでもない、そうなると、残るは、プレスリリースの具体的なノウハウを分かっていない、ということか。

実際に、プレスリリース関連の質問は良く受ける(その割に送ってこないくせに、と思わないでもない)。

具体的には、以下の通り。

・うちは近大のように研究・スポーツなどの材料がないのでリリースとして送れるものがない

・事件や不祥事のときにだけ、出せば十分では?

・誰に送ればいいのか?

・取材してくれた記者に送るとして、大学以外の部署に異動したらやめた方がいいのか?

・見出しの付け方はどうすればいいのか?

・PR代行業者に依頼するのはどうなのか?

・送付した記者が全然、記事にしてくれない。催促した方がいいのか?

・送付した媒体(記者)が大学にとってネガティブな記事を書いた。関係断絶を主張する幹部もいるがどう思うか?

・リリースを出そうにも広報と他部署(入試広報)が連携取れないがどうすればいいか?

・FAXとメール、郵送はどう分ければいいか?

・広告業者の選定は?

他にも色々。

私は広報の専門家ではない。そのため、広告業者の選定等については正直、分からない。

だが、プレスリリースについては、受け取るメディア側の一人として、言いたいことが色々ある。そのうちの相当部分は大学広報の強化に役に立つものと考える。

そこで、このYahoo!ニュース個人有料版で、大学・教育機関広報担当者向けに、数回(もしくはそれ以上)、プレスリリースについての解説をしていきたい。

4月以降に随時、出していくのでご期待いただきたい。

◆教育広報担当者が知ると得する話シリーズ・バックナンバー

鶴見大学VS週刊文春のプレスリリースを勝手に添削~教育広報担当者が知ると得する話・1(2023年3月12日公開)

侮辱・不適切動画が出た学校はどうする?~教育広報担当者が知ると得する話・2(2023年3月16日公開)

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大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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