◆日本航空社長、新卒採用見送りを表明

2020年7月21日、朝日新聞と読売新聞は日本航空社長インタビュー記事を掲載、両紙とも「新卒採用中止」(読売は「新卒採用見送り」)を見出しとしました。

Yahoo!ニューストピックスにも読売記事が入り、Twitterでもトレンドワード入りしています。

日本航空はパイロットなど一部職種を除き、2021年度入社の新卒採用を見送る方針を固めた。大幅な採用縮小は9年ぶりとなる。新型コロナウイルスの感染拡大の影響が長期化し、新卒採用を見合わせる動きは広がる可能性もありそうだ。

日本航空はグループで計1700人を採用する予定だった。パイロットや障害者を対象とする約80人の採用活動は続けるほか、内定者約150人はそのまま採用する。赤坂祐二社長は読売新聞のインタビューで「今の状況を考えると、来年入社してもらっても新人の方には仕事がない。大変申し訳ないが、採用は難しい」と述べた。

※読売新聞2020年7月21日朝刊 日航、来年度の新卒採用見送りへ…社長「入社しても新人に仕事ない」 より引用

◆全日本空輸、USJも選考中止、スカイマークは中断扱い

航空業界ではすでに全日本空輸が日本航空と同じく選考中止(新卒採用見送り)を7月9日に表明しています。

航空業界ではスカイマーク、Air Do(エアドゥ)が選考中断を決めています。

観光・旅行業界ではHISとUSJが選考中止を発表済み。

コロナショック後の羽田空港国内線ターミナル(2020年3月10日・石渡撮影)。外国人観光客も日本人もほぼ不在で不気味なほど静かだった。
コロナショック後の羽田空港国内線ターミナル(2020年3月10日・石渡撮影)。外国人観光客も日本人もほぼ不在で不気味なほど静かだった。

旅行業界の大手、JTBは新卒採用の継続を社長インタビューで表明しています。

店舗の集約を進める一方で、新交流時代での「人財力は不可欠」との認識は変わっていない。従来の計画にしたがって全体の要員数は縮小していくが、デジタル化の推進、ソリューションの構築、マーケティング機能の強化などに向けて人材への投資は進めていく。コロナ禍で厳しい状況にはあるものの、来年度の新卒採用も継続する予定だ。

2020年6月30日 トラベルボイス記事 「JTB新社長が描く未来、デジタルとリアルの融合で目指す『新交流時代』から店舗改革まで方針を聞いてきた」

ただし、新卒採用の継続は記事において社長コメントではなく、インタビュアーの記事本文にあります。しかも6月時点での話なので今後、変わる可能性はあります。

それと、JTBは冬のボーナス、全額カットをすでに決めています。

JTBは社員約1万3000人に対して、2020年度冬季のボーナスを支給しないことが分かった。既に労使間で合意し、6月29日付で同社内で発表した。JTBは分社化などを経ており単純比較できないが、冬のボーナス支給が見送られるのは少なくとも1989年(平成元年)以降初めてとなる。

※日本経済新聞2020年7月8日朝刊「JTB、冬のボーナスゼロに 社員1万3000人対象」

それから、観光・旅行業界以外では、アパレルのイッセイミヤケが内定を出した学生に対して、内定取り消しを通知。7月17日に時事通信、7月18日に朝日新聞朝刊がそれぞれ記事として掲載、同社も内定取り消しを認めています。

アパレルブランド「イッセイミヤケ」の運営会社が、来春に就職予定だった大学卒業見込み者らの内定を取り消したことがわかった。人数は明らかにしていないが、新型コロナウイルスの影響で売り上げが減ったためだとしている。

来春卒業予定者の内定取り消しは、ほかでも広がっているのではないかと懸念されているが、企業名が明らかになるのは異例だ。

同社によると、内定取り消しは総合職や販売職などが対象で、一部の専門的な職種は除くという。3~4月にかけていったんは内々定を出していた。

内定者には書面で取り消しを通知し、同意を得ていくという。一定の支援をするというが具体的な内容は明らかにしていない。同社は「入社を希望していた皆様には心苦しく、おわび申し上げます」としている。

※朝日新聞2020年7月18日朝刊「イッセイミヤケ、内定取り消し 新型コロナで売り上げ減」より引用

◆選考中止と内定取り消しは何が違う?

ここで選考中断と選考中止、内定取り消し(入社時期延期を含む)がそれぞれ、どう違うか、分からない、という方もいるでしょう。

まずは選考中止と内定取り消しの違いから。

簡単にまとめると、補償が発生するかどうかです。選考中断・選考中止だと補償は発生せず、内定取り消しだと補償が発生する可能性が高くなります。

内定を受けた学生は、労働者に準じる立場です。会社との労働契約が成立しており、これを始期付解約権留保付労働契約と言います。

労働契約法第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

解雇のためには、解雇が合理的なものか、「人員整理の必要性」「解雇回避努力義務の履行」「被解雇者選定の合理性」「解雇手続の妥当性」の4要件(解雇の4要件)が企業側に求められます。

これがないままだと、労働契約法に抵触する可能性が出てくるのです。

2010年刊の『内定取り消し』画面右)と選考中止を伝える朝日記事(石渡撮影)。『内定取り消し』は著者が学生当時に内定取り消しを受けたその体験談。当時、大きな話題となった。
2010年刊の『内定取り消し』画面右)と選考中止を伝える朝日記事(石渡撮影)。『内定取り消し』は著者が学生当時に内定取り消しを受けたその体験談。当時、大きな話題となった。

※詳細はYahoo!ニュース個人 2020年3月13日記事「コロナショックで内定取り消し、補償金はいくら出る?~具体的な対応を5ステップで」

イッセイミヤケの場合、在籍社員のリストラにも着手しており、かつ、まだ21卒採用が進行、十分にやり直せる7月に内定取り消しを通知しています。3月の卒業目前になって内定取り消しや入社時期延期を表明した企業より悪質性は低く、まだ誠実、と言えます。

話を内定取り消しと選考中止・選考中断の違いに戻します。

内定(内々定を含む)の通知を受けた学生は、学生でありつつ、労働者に準じる立場にもなります。

一方、選考中止・中断だと、学生は内定・内々定の通知を受けていません。選考を受けている段階です。そうなると、学生は労働者に準じる立場…とはならないのです。あくまでも学生であり、そうなると、労働法の保護からは外れます。

そのため、学生が選考中止を発表した企業に対して補償を求めても、法律上、認められるかどうかはきわめて難しいでしょう。

◆選考中断と選考中止は何が違う?

では次に選考中断と選考中止の違いを解説します。

選考中断は企業側が選考を復活させる可能性を残している段階。これに対して選考中止は新卒採用の中止をはっきりさせています。

7月21日11時時点では、スカイマーク、Air Do(エアドゥ)がこの選考中断の段階にあります。

はっきりと中止を表明したわけではないので、今後、選考を再開する可能性を残しています。

もっとも、この選考中断、企業側が業績等を見極める時間稼ぎと言えなくもありません。

実際に日本航空、全日本空輸、ともに、すぐ選考中止としたのではなく、一度は選考中断としていました。7月に入ってから両社とも選考中止を表明しています。

コロナショックにより、訪日外国人観光客が激減。航空需要はまだ回復したとは到底言えません。

日本航空社長のコメント、「今の状況を考えると、来年入社してもらっても新人の方には仕事がない」はその通りでしょう。

これは日本航空に限らず、まだ選考中止を表明していないスカイマークなども同様のはずです。

それに選考中断という状態のまま、10月の内定式を迎えるわけにはいきません。内定者研修や新入社員研修などのタイミングを考えれば、選考中止とするのか、再開するのか、決断しなければならないのです。

航空需要の低迷を考えれば、選考中断としている企業もいずれ近いうちに選考中止とするか、あるいは当初予定数よりも大幅に減らした上での選考再開となるか、どちらかでしょう。

なお、選考中止の通知を受けた学生はもちろんのこと、選考中断の通知を受けた学生も、他の企業の選考に参加するのは自由です。

◆航空業界志望の学生はどうする?

航空業界は女子学生を中心に志望する学生が多数います。

大学は外国語や国際系学部を選択。航空会社のインターンシップに参加し、学外ではエアラインスクールに通う学生が多くいます。

そこまで頑張って、大手2社が選考中止となったわけで、失望感の深さにはかける言葉もありません。

気持ちを切り替えて他業界への就活をしようとする学生を惑わせているのが、一部のエアラインスクールです。

良心的なところであれば、「新卒採用はかなり厳しいから他の業界に一度、就職。それであきらめられないようなら社会人採用が復活した時に応募すれば」と案内しています。

私も全く同感です。

が、学生から寄せられた相談ではそうした良心的なところばかりではありませんでした。その一部をご紹介します。

ANA(全日本空輸)が選考中断を発表しても「いや、そのうち復活するから」。このときは私もまだ選考再開を願いつつ、個人レッスンなどを予約していました。それでもANAが選考中止を発表した時点で、もう難しいな、と思って。それで、他業界の就活を考えていたのです。すると、通っていたスクールから連絡があり、「まだチャンスはあるから個人レッスン、続けない?」と勧誘してきました。私が断ると「簡単に諦めるなんて、その程度の夢だったのね」と罵倒されました。採用再開はっきりしていないのに、ひどいことを言われて、もう悔しさしかありません…

※関西の女子大生の相談より

◆日本航空は2010年・2011年にも新卒採用見送り

日本航空は2010年1月に会社更生法を申請した後、2010年卒・2011年卒採用を見送っています。

会社更生手続き中の日本航空が本体の2012年度の定期新卒採用を見送る方向で最終調整していることが27日、明らかになった。11年度もパイロットや客室乗務員を含む全職種で採用を中止しており、2年連続で採用ゼロとなる。日航の今期営業利益は過去最高の1500億円超に達するとの見方もあるが、経営再建に向けた合理化を優先する。

※時事通信2011年1月27日配信記事「日航、12年度採用見送り=合理化優先で2年連続」より引用

それから、日本航空のグループ会社だったジャルエクスプレス(2014年に日本航空が吸収統合)は2010年卒について、パイロット採用予定者の内定取り消しもしていました。

経営再建中の日本航空のグループ会社であるジャルエクスプレス(大阪府池田市)は31日、2010年度中に採用することにしていたパイロット候補者の内定を取り消した。対象者は内定していた26人のうち5人前後となる見込みで、ほかの約20人は内定を辞退した。

26人は09年10月に採用が内定し、10年8月以降に入社する予定だった。しかし、10年1月に日航が経営破綻し、人員削減を進めたため、日航本体でのパイロットの養成を中止していた。

ジャルエクスプレスも養成を続けるのは困難になったと判断し、内定者に一時金を支払うことなどを条件に内定の辞退を求めていた。しかし、要請に応じない内定者がいたため、31日までに合意できなければ内定を取り消すと伝えていた。

※読売新聞2011年2月1日朝刊「パイロット候補 内定を取り消し ジャルエクスプレス」より引用

日本航空の新卒採用見送りは2012年(2013年卒)から復活します。

経営再建中の日本航空は9日、新卒採用を3年ぶりに再開すると発表した。2013年春に入社する事務系の総合職(業務企画職)と客室乗務員で、計230人程度の予定という。大がかりなリストラで採用も控えていたが、経営再建と収益力強化を着実に進めるため再開が必要と判断した。

日航は10年1月の会社更生法の適用申請を経て、グループ全体で約1万6千人の人員削減などを進める一方、11年春と12年春の新卒採用は見送った。今回の再開については、「退職者の補充も含め組織を安定して運営していくため、必要最低限の人材の採用が必要と判断した」(広報)と説明している。

※朝日新聞2012年4月10日朝刊「日航新卒採用、3年ぶり再開 来春入社」より引用

ただ、この背景には、経営破綻後、大量の解雇があり、人員不足になったこともある、と「しんぶん赤旗」は指摘しています。

9月に株式再上場を果たし、営業利益も過去最高を更新し続けている日本航空で、人員不足の深刻さが浮き彫りとなっています。解雇までする人員削減をしておきながら、客室乗務員940人を新規採用する矛盾。労働環境の悪化が安全や運航維持へ悪影響をおよぼしていないかが問われます。

(中略)

解雇強行後、客室乗務員の自主退職が続き、11年4月から12年9月末までに670人減少しています。

日航は人員不足の対処に追われ、客室乗務員を940人も新規採用。今年4月に募集を開始した時点での「200人+相当数」という発表から、追加募集などで大幅に上乗せしています。客室乗務員総数が5000人を割り込み、今も退職が続くなか、この940人が加わると、15%以上がまったくの新人になります。 職場は人員配置のやり繰りに追われ、年2回程度行われている客室乗務員のグループミーティングの今年度下期分が中止になりました。

※しんぶん赤旗2012年11月20日記事「日航/最高益の裏で人員不足深刻/客室乗務員940人も新規採用」より引用

◆航空需要がいつ戻るかがカギ

4年生は大手2社が選考中止を表明した以上、諦めて他業界への就職を考える方が大半でしょう。

が、中には、就職留年・浪人をして来年にかける、という学生がいるかもしれません。

それから、3年生以下の航空志望の学生からすれば、大手2社がいつ、新卒採用を再開するかどうか、気になるところでしょう。

まず、現4年生については、就職留年・浪人を選択し、来年以降にかける、という選択はお勧めできません。

来年の就職状況がどうなるか、全く不透明な中での就職留年・浪人という選択はそれだけ社会に出るタイミングが遅くなることを意味します。就職留年・浪人をするくらいなら他業界に就職し、キャリアを積み上げていく方が成長という面でもお金の面でもメリットがあります。仮に航空業界の採用が復活すれば、改めて選考に挑戦すればいいのです。

これも学生からの相談で「他業界に就職すると、既卒者扱いになり新卒採用には参加できない」とエアラインスクール経営者から言われたとの相談を受けました。

誤解もいい所で、2010年には、卒業後3年以内を新卒の扱いとすることが政府の雇用対策が決まっています。

緊急対策は8月30日、政府の新卒者雇用・特命チームが経済対策の基本方針に盛り込む形でまとめた。指針の改正で卒業後3年間は新卒として企業の採用試験に応募できるようにし、正社員として採用した企業には奨励金を出す

※河北新報2010年9月1日朝刊記事「既卒採用促進、政府が支援策/東北の学生歓迎『応募機会増す』」より引用

就職留年・浪人をしても、一度、他業界に就職しても同じ新卒扱いとなるのです。「他業界に就職すると、既卒者扱い」など、いつの時代の感覚なのでしょうか。

それはさておき、今後、航空業界就活が復活するかどうかはコロナの収束と東京オリンピック・パラリンピックの開催、2点が重要です。

考えられるシナリオは、以下の3点。

シナリオ1:復活

・ワクチンが開発されコロナが世界中で収束

・東京オリンピック・パラリンピックも開催

→航空需要が復活

→新卒採用も再開し2020年卒と同じボリュームか80%程度まで復活

シナリオ2:縮小して復活

・コロナが日本国内では収束、ビジネス・観光需要がコロナショック以前の80%程度まで戻る

・コロナが海外では収束せず、訪日外国人観光客数は激減したまま

・東京オリンピック・パラリンピックは中止か再延期が決定

→航空需要はある程度の復活

→新卒採用は再開しても、ボリュームは2020年卒の30~60%程度

シナリオ3:中止が続く

・コロナが日本国内でも海外でも収束しない

・東京オリンピック・パラリンピックは中止か再延期が決定

→航空需要は復活しないまま

→新卒採用は22年卒も中止となる可能性が高い

航空業界志望の学生からすれば、理想はシナリオ1です。

しかし、コロナがいつ収束するかどうか、これは私だけでなく誰もが断言できないところです。

今の状況を見る限り、シナリオ1は理想論でしかなく、現実的にはシナリオ2か3というところでしょう。

私は航空業界志望の3年生(2年生以下も含む)には、エアラインスクールへの通学よりも、まずは英語と新聞購読を含む経済の勉強を強くお勧めします。

英語力は航空業界でもそれ以外の業界でも、勉強しておいて損はありません。経済・社会を広く学ぶのも必要なはず。

そのうえで他業界への就職を前提に考え、航空業界には社会人採用など、復活した時に改めて考える、という方策が現実的ではないでしょうか。