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木原副長官妻の前夫不審死事件、元検事「警察が遺族と検察に虚偽報告をした可能性」指摘

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
筆者撮影(週刊文春 8月31日号)

木原誠二官房副長官の妻の前夫が不審死した事件(2006年)について、7月上旬から週刊文春は木原夫人が重要参考人として取調べを受けた(2018年再捜査)ことを報道し始めました。誰もが信じがたいと思いながら様子見であったはず。筆者もそのうちの一人でした。そして、7月13日に露木警察庁長官が「事件性はない」と記者会見で発言をしました。ガセネタであれば、公式見解が出た時点で事態は収束します。筆者もこれで収束するかもしれないと見守っていました。ところが、この長官の記者会見は別の告発を2件発生させ、悪化したとしか言いようがない事態に発展しました。1つ目は、不審死した安田種雄氏のご遺族が「再捜査の結論は聞いていない。再捜査をしてほしい」と訴えた会見(7月20日)。2つ目は2018年の再捜査で木原夫人を取り調べた元サツイチ(殺人事件を担当する捜査1課の略称)佐藤誠氏が「事件性はある」と警察庁長官に真っ向から反論する会見(7月28日)。警察内部で一体何が起きているのでしょうか。この事件処理は検察からはどう見えるのでしょうか。今後再捜査はされるのでしょうか。元検事の村上康聡弁護士に解説していただきます。(2023年8月21日インタビュー)

■動画解説 リスクマネジメント・ジャーナル(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会)

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現警視庁捜査1課長のコメントに違和感

筆者(以下、太字):佐藤誠氏の会見はどう見えましたか。

村上康聡弁護士(以下、村上):私は警視庁捜査1課と殺人事件についても、何件か過去やったことがありますので、そういう経験に基づいて記者会見を最初見る前は、何だ、元警察官が会見するというのは、警察内部に対し何か不満があってそれを言うんだろうかなと、そういう目で見たことは事実です。ところが実際会見を見ると、中身は非常に重要な内容について真摯(しんし)に語ってるようなところがあったので、かなり異例な会見だなという感じが致しました。

それと私が気が付いたのは、警視庁の国府田捜査1課長のコメントが非常に気になりました。この方は先日まで鑑識課長をやられて捜査1課長になっています。だからもちろん今回の事件というのは捜査していないから全然知らないはずなんですけれども、「証拠上事件性は認められず死因は自殺と考えて矛盾はない」とコメントしているんです。

私があれっと思ったのは、警視庁、警察というのは、事件性があるかないかということについて捜査をして判断するわけであって、死因が自殺かどうかということについては、本来は認定もしなければコメントしないのです。それをなぜあえて捜査1課長が死因は自殺と考えて矛盾はないとまで言ったのか。われわれ捜査の現場に携わった者とするとここまで踏み込んで言ったというのは不可解な感じがしたのです。

実は苦しい言い訳だとするメッセージですか。かえって疑惑を深めたという印象なんでしょうか。

村上:鑑識課長の経験者であればなおのこと、死因は自殺と考えて矛盾はないというコメントはしないだろうと私は思うんですけれども、あえておっしゃったというところに、今の捜査1課長のその難しい立場というものを感じました。

警察が事件性はないと言ってしまっていると、ご遺族が希望している再捜査は期待できないのでしょうか。

村上:警察は、「事件性はない」と言ってますから、陳情したとしても、組織としては私はもう動かないと思います。

とすると、ではどうやるかというその方法論なんですけれども、いかに検察庁を動かすかということだと思うんです。そこでポイントになることを申し上げると、実はこの事件が発生した当時、恐らく死体については変死体ということで司法解剖に付されていると思います。

ところが司法解剖というのは本来、都道府県の各警察署が裁判所に対して鑑定処分許可状を請求してその令状をもらって、それで執刀する大学の先生に嘱託してやるわけですけれども、実は警視庁管内だけは東京地検が令状を請求するという扱いになっているのです。そして、東京地検が令状を請求するということは、その段階で東京地検としての事件番号をちゃんと取ることになるのです。

そこで、この手の事件があると、最終的に、例えば起訴された場合、起訴状の右上に事件番号が書かれるのですけれども、検察庁が認知立件した事件番号と後日警視庁が検察庁に事件を送った番号と2つ併記されることになるのです。ですから、検察庁としてもその事件を処理しなければならないのです。

警察と検察でそれぞれ番号?それは2006年の段階でってことですね。

村上:報道を見ますと、2006年の段階からいわゆる未解決事件という形で宙に浮いていた状態だったのではないかと思うのです。

そこをちょっと伺いたいんですけど、当時自殺と処理されたものであっても、宙に浮くってことがあるのですか。あるいは自殺は全て全部宙に浮くものなんですか。

村上:当時の段階で自殺とは結論付けられていなかったのではないでしょうか。恐らく中途半端な形で宙に浮いていたのを、女性の刑事の方が、証拠品を見てちょっとおかしいんじゃないかということで踏み込むようになって、再捜査が始まって捜査1課が入ってきたと、こういう流れだと思うのです。

ご遺族には自殺と説明していますので、警察では宙に浮いて不審死処理していたなら、遺族に対してうそをついたってことになりますよね。

村上:どの段階で遺族にどういう説明をしたのかは分からないのですけれども、ただ捜査の流れからすると2018年に捜査が再開されているということは、その段階で凶器となったナイフであるとかいろんな証拠品は警視庁の所にあって、それに基づいて捜索やら、差押え令状なんかも取ってやっているわけですよね。つまり、自殺と認定して終わらせていない。事件とすると、検察庁が認知立件した件番と警視庁が立件した件番がまだ両方あるという状況だったのではないかと思います。

その後に捜査が事実上打ち切られたということになると、しかもその後の警視庁の捜査1課長のコメントと警察庁の長官のコメントを踏まえると、警察とするともうおしまいにしたということですから、どこかの段階で事件を検察庁に送っていると思うんです。

警察から検察に送られるとどうなるんでしょうか。

村上:どうやって送るかというと、恐らく被疑者不詳という形で送っていると思います。そうすると、警察が検察官宛てに送る一件記録の中に警察は報告書を書いていると思うのです、係長の方が。総括報告書です。その中に、恐らく「死因は自殺と考えて矛盾はない」というような表現のことが書かれているのではないかと思うのです。これは私の想像です。

その報告書を信用した検察官は被疑者不詳ということで嫌疑不十分にして、検察庁の事件も警視庁の事件も不起訴にしている可能性があるのです。ということはどういうことかというと、証拠品としての凶器、ナイフであるとかその他の重要書類が、実はもう既に検察庁で処分されて廃棄されて、もう現物がなくなっているのではないかと私はすごく危惧しています。

あれ、先程「死因は自殺と考えて矛盾はない」というコメントは外部にしないとのことでしたが、報告書にはそのように記載すると理解してよいですか

村上:捜査1課長のコメントを前提にすると、事件性がないということで捜査を終了したことの内容の報告書であれば、そのように記載していなければ捜査1課長のコメントと整合性が取れなくなると思います。

もうすでに検察で不起訴処理をもうしてしまって可能性があるということですか?不起訴になると証拠品は処理されてしまうんですか、破棄されてしまうんですか?何年で破棄されるのでしょう。

村上:例えば所有者が所有権を放棄している場合には、所有権放棄ということで処分されてしまうし、そういう形で、要は事件が終結された時には証拠品を返すか処分するかを決めます。

遺族は会見では確か何も返されてないと言っていました。

村上:返されていないなら、所有権が放棄されていて処分されたのかどうなのか分からないけれども、事件として検察庁に送られてもうおしまいということであれば、証拠品が処分されていないということは通常あり得ないことです。

証拠品がないという状況だと、遺族が再捜査してほしいと言っても検察はもう動けないということでしょうか。

村上:現物がないというのは非常に立証では不利ではあるけれども、コピーとかいろんなものがあるわけですから、それで代替は恐らくできるのではないかと思います。

ただ、仮にこの事件の犯人が、あるいは被疑者が特定されて起訴されて、否認のまま起訴されて裁判になって犯人性が疑われた場合に、仮に私がその方の弁護人になるとした時には、凶器となった現物がないとかいろんなところで争う余地も十分に出てくると思います。

検察における「再起」とは

遺族は警察ではなく、「検察」に再捜査の申し出をすればいいのですか?

村上:方法は、私は2つあると思います。1つは被疑者不詳、あるいは犯人を特定して検察庁に告訴することです、遺族として殺人罪で。そうすると検察庁がそれに対してどう対応するのか、1つの判断材料になると思うんです。

もし事件として既に不起訴にしているのであれば、「もう不起訴にしているから受理できません」と言うかもしれないし、あるいは受理しても「1回不起訴にしてるから同じように不起訴処分になりますよ」ということを説明するかもしれない。

あるいは、検察の経験者だったらある程度分かると思うのですけれども、「再起」という方法があって、いったん不起訴になった事件であっても再び起こすって書いて「再起」というのですけれども、もう一回事件として捜査をするということもあり得ます。

そんなことがあり得るんですか。不起訴にしたものであっても。それを決めるのは検察ですよね。

村上:主任検事が決めることになります。不起訴にした後の事情の変化があったので、捜査する必要があるということで。ただ、捜査した結果同じ結論になるのかどうか分からないけれども。再起することは十分あり得ます。

そうなった時に、検察庁が警察を指揮して捜査1課の人たちを刑事訴訟法に基づいて捜査指揮して捜査する場合と、検察庁が独自で捜査する場合と2つあるわけですけれども、それに対して警視庁がどんな対応するのかです。

警察は検察がやると言ったら、協力するのでしょうか。

村上:元々検察官が鑑定処分許可状を請求してやっている事件です。死因は自殺と考えて矛盾はないということを信用して検察庁は不起訴にしているのであれば、検察庁とすると警察にだまされたという形になるわけでしょ。

え?そういう見方をするものですか?検察が。

村上:はい。もう一点申し上げておきたいのは、鑑定処分許可状は、さっき申し上げたように、東京地検の場合は東京地検が請求していると。これはどうしてかというと、司法解剖とその鑑定書作成の各謝金については警察庁予算と法務省予算と2つに分かれているのです。東京地検の場合は法務省予算なんです。法務省予算の場合、その司法解剖の謝金というのが高いのです。

ということは、もし東京地検が怒ったら、警視庁にだまされたんだということで怒ってしまったら、どうぞこれから全部警察庁予算でやってくださいということなると、警察庁としても困ってしまうのです、予算が取れなくなってしまうから。ということを考えると、やっぱり警視庁としても捜査せざるを得ないのかなと思います。

「虚偽公文書作成罪」で検察庁に告訴

村上:あともう一つは、さっき申し上げたように検察官に事件を送る時に、一件記録の中に報告書が必ず付いているんです。自殺と考えて矛盾はないみたいな。その内容がうそだということで、「虚偽公文書作成罪」ということで検察庁に告発するという方法があります。虚偽公文書作成罪の時効は7年ですから、まだ時効にはなってないということです。

警察から検察に送る際にうそがあれば「虚偽公文書作成罪」。事件性があるのに自殺と書いた場合ですね。

村上:被疑者はその報告書を書いた本人。大塚警察署の恐らく係長だと思うんですけれども、当然それに対しては課長代理、課長も決裁し、副署長も見て、最終的には署長の名前で事件が記録とともに検察官に送られるわけです。そういう人たちが一気に被疑者という形で対象になってしまうということになります。

2006年は大塚署ですが、2018年の再捜査は特命チームで最初取組んでいて、事件性があるから殺人課の捜査1課の佐藤誠さんが呼ばれたと会見でおっしゃっていました。

村上:2018年でも、元々事件自体が大塚署ですから。捜査1課の人は派遣されているというだけです。大塚署の管轄内の事件ですから大塚署から検察に送られることになります。

死因究明等推進基本法違反を活用する方法

村上:最後にもう一点申し上げると、2019年に死因究明等推進基本法という法律ができまして、死因究明に関して非常に政府として重要だとうたった法律です。この法律に基づいた対応をしっかり警察がやっているのかどうかです。

これが不十分な場合は、場合によったら遺族から東京都に対して損害賠償を請求する形があります。死因究明等推進基本法に違反する対応を警察がしていると訴えられる可能性もあると申し上げておきます。

この死因究明等推進基本法は2019年ですけれども、今回は2006年の事件、2018年再捜査です。2019年の前の事件や捜査であっても訴訟を起こせるのでしょうか。

村上:そうです。現時点までも分からない状態がずっと続いているということですから。

2018年に捜査が止まってしまった。何で止まったのかは分からないんですけれども、誰か止めた人がいた場合に、止めたことそのものに関しては罪を問えるような法律はないんですよね。

村上:そういう法律はないです、残念ながら。犯人をかくまったと言えるのであれば犯人隠避罪なんでしょうけれども、それも3年という時効でもう時効期間が過ぎているということになります。

例えば、真犯人が例えば警察官だった場合でも検察としては、躊躇なく捜査するのでしょうか。

村上:むしろ燃えると思います。かつて、皆さんご存じかどうか分かりませんが、神奈川県警の公安の警察官が共産党幹部を盗聴した事件があったと思うんですけれども、あれは警察がなかなか捜査しなかったのを、東京地検だったと思いますが、検察庁が捜索したりして立件して起訴しています。違法行為、ましては殺しに関することであれば、それは中途半端にできないというのは誰しも検事であれば思うところだと私は思っています。

それは頼もしいです。身内だとどうしてもかばい合う、そんな心配もあったので。

村上:場合によったら、仮にですよ、誰かから圧力があったとすれば、そこには贈収賄の可能性はないかと。贈収賄ももちろん時効の問題がありますけれども、加重収賄という不正行為をお願いされてその関係でお金を受け取った贈収賄であれば、まだ時効にはなっていません。

そうすると、警視庁とか警察署のいろんな関係者の口座のお金の動きであるとかいろんなことを徹底して捜査するでしょうし、あと木原さんが名誉毀損(きそん)で訴えているということですけれども、告訴しているということであればその告訴の中身を捜査するに当たって、どうしてもこの事件について検証しなければならないわけですから、そういうことを通じて結局は捜査されてしまうということに私はなると思います。

むしろやぶ蛇になってる可能性もあるっていうことですね。2018年の警察庁長官が誰なのか気になって調べたら栗生俊一(くりゅう・しゅんいち)さんでした。今は内閣官房副長官。木原さんと同じ立場。偶然なのか。再捜査阻止との関連性が分からなくても疑惑の対象となり、岸田政権にはイメージ的にものすごく大きなダメージになります。それでも忖度はないと考えていいでしょうか。

村上:いや、それはないと思います。特に殺人事件の関係は、それは全くないと思います。検察庁法は検察官独立ということを保障していますので、それはないです、ないと思います。

村上先生としてはどういう方向にいくと一番理想とお考えでしょうか。

村上:私は実態がよく分からないけれども、ただ誰もが納得できるように捜査した結果、それでも被疑者が分からないというのであれば仕方ないと思います。そういう意味で言ったら、もう最後に頼るのは検察庁しかないかなと思います。

<参考サイト>

安田種雄氏遺族会見全文記事

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/4dc217d57a1ad1c6709f59ef9235e4bca7cbdc88

佐藤誠氏記者会見全文記事

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/55d63382fbbdada3da108d6d660fc3b9c0c81210

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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