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命絶つ子ども増 夏休み明けは特に注意、異変のサイン見逃さないで #今つらいあなたへ

石井志昂『不登校新聞』代表
イメージ写真・教室(写真:アフロ)

 今年の小中高生の自殺が、過去最多だった前年を上回るペースになっていることがわかりました(今年は暫定値)。文科省や専門家は、コロナ禍が子どもの心に与える影響を危惧していますが、事態がよくなる兆しは見えていません。そんななか、もっとも注意すべき、夏休み明けを迎えます。私自身も不登校経験があり、加えて全国不登校新聞社での取材活動などを通じた経験を踏まえ、「自殺の増加の背景」「前触れとなるサイン」「周囲にお願いしたいこと」についてお伝えします。

子どもの自殺 過去最多を超える水準に

厚労省「地域における自殺の基礎資料」より編集部作図(2021年のみ2021年7月29日時点の暫定値)
厚労省「地域における自殺の基礎資料」より編集部作図(2021年のみ2021年7月29日時点の暫定値)

 厚労省によれば、昨年の小中高生の自殺者数は499人。統計を取り始めた1980年以降、最も多くなりました。今年と昨年の上半期(1月から6月)を比較すると、昨年は203人、今年は234人と今年のほうが上回っています(2021年7月29日時点の暫定値)。文科省の有識者会議では「新型コロナウイルス感染症の拡大による家庭や学校の環境変化などによる影響」が背景にあると指摘しました(※注1)。

コロナストレスは放射能ストレスに類似

 臨床現場で子どもたちを診ている心療内科医・明橋大二さんも、コロナが広がっていることの心への影響を指摘しています。

心療内科医・明橋大二さん(不登校新聞社撮影)
心療内科医・明橋大二さん(不登校新聞社撮影)

 明橋さんによれば、コロナが子どもの心に与える影響は、東日本大震災の「原発・放射能ストレスに似ている(※2)」と言います。放射能ストレスの特徴は「どこが安全か危険かわからない」「いつ終息するか分からない」などで、もやもやしたストレスが長期に渡り続くことでした。現在のコロナ禍も同じような状況です。明橋さんは「こうした状況がボディブローのように子どもたちの心の健康に影響を与え続け、その結果として、過剰な手洗いや外出恐怖などの強迫症状、不登校などのかたちであらわれている」と話します。

4人に1人の子どもがうつ症状

 多くの子どもたちが慢性的なストレスを抱えていることは、国立成育医療研究センターの調査でも明らかになりました。

第4回コロナ×こどもアンケート調査ダイジェスト版より抜粋
第4回コロナ×こどもアンケート調査ダイジェスト版より抜粋

 国立成育医療研究センターでは、昨年末、小学4年生から高校3年生の924名にアンケート調査を行ない、分析。その結果、23.6%の子どもが中程度以上のうつ症状に該当していました(※注3・PHQ-A尺度)。およそ4人に1人です。今年2月から3月にかけて行なわれた調査では「もう死にたい 心の限界が近づいている」(中1・男子)など、苦しい気持ちを抱え込んでいる自由記述なども見られました。

理由もわからないまま不登校

 明橋さんによれば、この半年は不登校の相談も増えているそうです。私が当事者に取材をしたなかでも「コロナ禍の影響を受けた不登校」が、いくつかありました。ひとつめは吉田まき子(仮名)さんの娘さんのケースです。小1の2月末からコロナ禍によって休校が開始。通常登校が始まったのは小2の6月でしたが、朝、登校しようとすると「お腹が痛い」と動けない日々が続いたそうです。何が原因なのか親は理解ができないまま欠席が重なり、不登校になりました。

 娘さんの場合、小1のころから「宿題ができない」とパニックを起こしたり、心因性の病気があったりなど、学校は「疲れる場」だったようです。それでもなんとか通っていましたが、コロナ禍でストレスも重なり、行けなくなったのではと私は思っています。

休校明けから突然のいじめ

 休校明けから突然、いじめを受けて学校へ行けなくなったというケースもありました。現在中学1年生のいちごさん(13歳)です。なかよしだったはずの2人から、急に無視、陰口などを言われるようになり、内容はしだいにエスカレート。きっかけもわからないまま、いちごさんは教室に入るだけで涙が出るほど精神的に追い詰められたそうです。そこでいったん不登校をして、環境を変えるため中学校受験に挑戦。現在は私立中学に通っています。

 いじめを肯定する気はまったくありませんが、いじめた2人はコロナストレスを強く感じ、その発散先にいちごさんを選んだのではと私は考えています。コロナ禍による心への影響は「感染者数」などわかりやすい数字では表れません。理由が不透明なまま不登校になったり、大人が見えないところでいじめが起きたりもします。これまで以上に注意が必要です。

とくに注意が必要な夏休み明け

 子どもを見守っていく際、とくに注意すべきは夏休み明けです。学校で苦しいことを経験した子は、新学期の準備に入る8月後半から「また同じような生活がはじまってしまう」と不安にかられます。「ジェットコースターに乗ったときと同じような心理になる」とも言われています。ジェットコースターは急降下で落ちている最中よりも、落ちる直前のほうが強い恐怖を感じます。同じように子どもにとって新学期前日の夜がまさにジェットコースターが落ちる前なのです。恐怖を感じたまま新学期の朝を迎え、悲しい選択をしてしまう子が毎年、あとを絶ちません。

小中高生の月別自殺者数(厚労省統計結果より不登校新聞社作図)
小中高生の月別自殺者数(厚労省統計結果より不登校新聞社作図)

 内閣府の『自殺対策白書』(2015年版)でも、長期の休み明けは「大きなプレッシャーや精神的動揺が生じやすい」と指摘しています。昨年と一昨年の小中高生の月別自殺者数でもその傾向は顕著でした。コロナの影響で夏休みが短縮されたために昨年は8月が、一昨年は例年と同様に9月にピークが来ていました。さらに言えば、コロナ禍の昨年8月は前年の倍近い自殺者数がでていました。

「学校へ行きたくない」は命に関わるSOS

 一方、自殺防止に向けて、その兆候をつかむヒントとなる調査結果も出ています。「厚生労働大臣指定法人 いのち支える自殺対策推進センター」が今年6月に公表した分析結果です。調査によれば、ネット上で「学校 行きたくない」というワードの検索数が増加したあと、子どもの自殺者数が増加したという関連性が判明しました(※注3)。

 この調査結果は、20年間、不登校を取材してきた私にとって、実感に沿う説得力のあるものでした。「学校へ行きたくない」と苦しんでいる子のなかには「死にたい」と思うほど追い詰められる子も多いです。「いじめ自殺」で亡くなった子のなかには、「行きたくない」という気持ちを言葉や態度で示していた子もいました。あらためて「学校へ行きたくない」という訴えは、命に関わるSOSだと感じています。

周囲の対応に関するお願い

 私が代表を務める全国不登校新聞社では「緊急アピール」を8月19日に発表しました。緊急アピールでは子どもを持つ親や教育関係者に向けて、お願いしたいことを3点にまとめました。

①「学校へ行きたくない」という訴えは命に関わるSOSです。

②命を守るために「行きたくない」という訴えを見逃さないでください。

③より多くの命を守るため『TALKの原則』に沿った対応をお願いします。

 「学校へ行きたくない」という訴えは、切実なものであり、周囲の返答次第では子どもを追い詰めてしまいます。勉強も社会性もあとから十分に取り返すことができます。子どもは親や周囲に言えないことで悩んでいる場合もありますので、「行きたくない」という言葉や態度が見えたら、躊躇せずに休ませてください。学校は命を削ってまで通うところではありません。

自殺予防の対応原則「TALKの原則」とは

 子どもが精神的に不安定になったり、学校を行きしぶったりなど、周囲が異変を感じたら「TALKの原則」に沿った対応をお願いします。なお異変を示すサインは多様にありますが、親や教員自身が「どこか、おかしい」と感じたら、その直感もサインです。「TALKの原則」とは、カナダの自殺予防のグループがつくったもので、文部科学省や病院のガイドラインなどでも示されています。

(1)Tell:言葉に出して心配していることを伝える。

(2)Ask:「死にたい」という気持ちについて、率直に尋ねる。

(3)Listen:絶望的な気持ちを傾聴する。

(4)Keep safe:安全を確保する。

(文科省『教師が知っておきたい「子どもの自殺予防」』より)

 「安全確保」とは、緊急時ならば目を離さないこと、いじめが起きている場合は学校へ登校させないことです。いじめなどの暴力を受けていると、恐怖感のあまり不登校を本人が拒む場合もありますが、危険な場所からは本人を遠ざけてください。心身の安全が確保できた段階で、あらためて本人の意思確認を行なったり、精神科など専門家へ相談をしたりといった対応をお願いします。

 精神科医・松本俊彦先生は「TALKの原則」について下記の点がポイントだと語っています。

精神科医・松本俊彦先生(全国不登校新聞社撮影)
精神科医・松本俊彦先生(全国不登校新聞社撮影)

 「ポイントは2つです。ひとつは『自殺についてはっきりと尋ねる(Ask)』ことは悪いことではない。けっして『崖っぷちにいる人の背中を押す』ことにはならないということ、そして、もうひとつは『相手の訴えに傾聴する(Listen)』は、『バカなこと言わないの』『冗談はやめてよ』と相手の話を遮ったり、『死んではいけない』『死んだら残された人はどうするのだ』などといった正論をぶつけたりしないということです」

いま悩んでいる方へ

 いま悩んでいる方へ伝えたいこともあります。どんな言葉も信じられないかもしれませんが、ひとつ信じていただきたいのは「学校へ行かなくても、その先の人生がある」ということです。私も不登校でしたし、400人以上の不登校の人に取材をしてきましたが、学校よりも自分を大切にしても大丈夫なのです。もしも「行きたくない」と思ったら、どんな理由であるにせよ、心のサインです。学校と距離を取ってみるのも一つの手です。心に思い当たることがあれば、下記まで連絡をしてみてください。きっと助けになってくれるはずです。

◎電話相談/「#いのちSOS」 0120-061-338

◎電話相談/チャイルドライン 0120-99-7777

◎SNS相談/生きづらびっと (https://yorisoi-chat.jp/)

※注1文部科学省「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」配布資料より(2021年6月25日)

注2 2011年、東北地方太平洋沖地震による地震・津波の影響で、福島第一原子力発電所で深刻な原子力事故が発生。事故により東北をはじめとした広範囲に渡る地域で放射能汚染の影響が不安視された。

※注3 PHQ-A尺度とは「成人用のうつ症状の重症度を評価する尺度」(PHQ-9)を改訂してつくった思春期のこどもを対象としたうつ症状の重症度尺度のこと。

※注4「コロナ禍における自殺実態分析報告書(仮題)」(2021年6月13日)

【この記事はYahoo!ニュースとの共同連携企画です】

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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