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学校に悩む人へ りゅうちぇる「自分を見失ったら"自分の色"を塗り替えてもいい」

石井志昂『不登校新聞』代表
りゅうちぇるさん (C)STARRAY PRODUCTION

 いま新型コロナウイルスの影響で、学校現場は大きく変わっています。2カ月間以上に及んだ休校の遅れを取り戻そうと、猛烈なスピードで授業が進んでいる学校もあれば、感染予防に向けて過剰とも言える怒鳴り声で生徒を叱る先生もいるなど、学校全体がピリピリしているみたいです。

 一方、不登校の子たちが集まるフリースクールに聞くと「この一週間ほどで相談が増えてきた」と言います。学校の様相が変わり、これまでは周囲から見れば心配がなかった子たちも、学校への行きしぶりが始まっているそうです。

 こんなときだからこそ、多くの不登校の子どもを勇気づけてきたりゅうちぇるさんのインタビューを紹介したいと思います。

特別な存在の「りゅうちぇる」

 ある不登校経験者(26歳)は、りゅうちぇるさんについて「その存在に多くの子が勇気づけられたはず」だと言います。というのも、りゅうちぇるさんの独特なファッションにはカワイイという意味だけでなく、「自分らしくていい」というメッセージ性があるからです。りゅうちぇるさん自身も「自分を愛することが大切だ」とテレビや音楽活動を通して伝えており、不登校の子のみならず、10代や20代にとって特別な存在になっているようです。

 裏を返せば「自分らしくいられない」「自分を愛せない」と感じている子がいかに多いかということです。

赤の他人から投げつけられた言葉で傷つく必要はない

 そんなりゅうちぇるさんに不登校の当事者や経験者たちで取材をさせていただきました。インタビュー自体は、半年以上前に行なったものですが、このインタビューを機に「自分の不登校と向き合おうと思った」(19歳・女性)と語る子や、新しい発見を求めて高校へ通うことになった不登校の子もいました。

 10代の胸に響き、心の支えになる言葉とはなんだったのか。りゅうちぇるさんのメッセージを、みなさんと共有できればと思います。

取材中のようす(撮影・石井志昂)
取材中のようす(撮影・石井志昂)

――私は1年前から不登校をしています。この1年間、私は「ふつう」という言葉に苦しんできました。学校や地元の人からすれば、不登校をしている私は「ふつう」ではないからです。私はりゅうちぇるさんのように自分を貫いていたいと思うんですが、どうしたら、りゅうちぇるさんみたいになれるでしょうか?(15歳・ゆら)

 自分のなかの「ふつう」しか受けいれられない人も、やっぱり現実にはいるんですよね。SNS上では僕もよく批判の的になっています。ただ、その人たちを変えようと思っても、それは「僕のふつう」を強要しているだけかもしれません。だから、「そういう人間もいるよね」と思うこと、それと意見のちがう人に会ったときには、その人の背景を考えるようにしています。

――批判する相手の背景を考えるようになったのはいつからですか?

 子育てを始めてからです。子どもは成長にしたがって言葉や行動を変化させます。こちらが困ってしまうときもありますが、そのときは「そもそもどうしてこういう行動をとったのか」と背景を考えることが増えたんです。それからは僕自身の心境にも変化があって、子どものことだけでなく、他人の行動や物事の背景を考えられるようになりました。

 とはいえ、やっぱり傷つくこともあります。最近で言えば「あなたの子どもがかわいそう」なんて言われて、すごくショックでした。そんなときは「この人は僕のことを知ってるの?」と自分に問いかけるんです。尊敬している人に言われたら考えてもいいけど、赤の他人から投げつけられた言葉で傷つく必要はない。背景がわからなければ、その言葉も受け取っちゃダメなんだと思うんです。

――それでも自分を見失ってしまったときには、どうすればいいのでしょうか?(26歳・ゆい)

 僕は「自分の色」を塗りかえてもいいと思っています。この話はニュアンスで受け取ってほしいんですが、その人の基盤となる色はあります。

 それでも人間は生きている以上、色は塗り替えられていくんです。僕自身、テレビに出始めたころは、ヘアバンドとチークのスタイルでしたけど、今は変わってきました。

 自分のために自分を貫くのも大切だけど、ときには変化があってもいいんです。そのあいだには何度も傷ついたことがあって、「本当に変わってよかったのかな」と思うこともあります。でも、涙を流したぶんだけ人に優しくなれます。だから自分を見失ったとしても、それはちゃんと成長していて、どんどん自分の魅力が増していく証拠。大丈夫だと思いますよ。

――私、今の話、すごく共感しました。私は、小学生のころ、いじめで苦しんできたんです。そういう経験があったので、いじめられないように「まわりが望む自分」にしがみつこうとしていました。(18歳・さゆり)

 気持ちが伝わってすごくうれしいです。もし、まだあなたが気持ちに整理がつかないときは、問題から距離をとってみるのもひとつの手です。無理に問題と向き合ったり、嫌いな人といっしょにがんばったりする必要はないです。

 自分は甘やかしていいんです。自分自身のことも、他人に対する姿勢も「今なら切り替えられるかも」というタイミングは、かならず来ます。素の自分をそのまま愛してあげてほしいと思っていますし、時が来れば自然と切り替えることができると思います。

――ありがとうございました。

黒板(イメージ画像/写真AC)
黒板(イメージ画像/写真AC)

 10代の子たちが、とくに印象深いと言っていたのが下記の一言でした。

『僕は「自分の色」を塗りかえてもいいと思っています』。

 取材した15歳の女の子は、当時、保健室登校をしていました。通常の教室では同級生からいじめのターゲットにされていたからです。教室に入れなくなった彼女に対して先生は「ちょっとしたことで、いつまで意地を張っているんだ」「早く教室へ戻れ」など無理解な言葉を投げかけていました。先生や同級生の対応に、彼女は「自分の生きていける居場所はない」とずっと落ち込んでたそうです。

こだわらなくてもいいんだ

 縁があって私といっしょに取材することになり、りゅうちぇるさんの言葉を聞いて彼女が感じたのは「ひとつの場所にこだわらなくていい」ということ。そして「そのときどきの『自分の色』があればいい」と思ったそうです。「元の教室に戻る」という狭いゴールにはこだわらず、視野を広げて生きていけるようになったのだと思います。

 彼女は今、新しい世界を求めて高校へ通っています。私たち大人の言葉には、りゅうちぇるさんほどの説得力はないかもしれません。しかし、子どもが苦しんでいることを知り、せめてその苦しみに共感し、多様な選択を応援するような姿勢が求められているのかもしれません。

※インタビューは『続 学校に行きたくない君へ』(2020年7月14日発刊/ポプラ社)より抜粋・編集

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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