Yahoo!ニュース

「生きていることがつらい」学校へ行きたくない中学生にLINEで調査

石井志昂『不登校新聞』代表
「居場所がない」と回答した中学生の割合(部分登校は教室外登校を含む/筆者作図)

不登校生徒の5人に1人が心の“ホームレス状態”

 昨年度、不登校など学校へ行きたくなかった中学生1968人にNHKがLINEを通してアンケート調査を行ないました(※)。アンケート調査によって不登校のうち22%、およそ5人に1人が、家にも学校にも居場所がないと「よく感じていると」回答しています。

 また、居場所がないと回答した中学生は「昨年度の1年間、一番つらかったこと」について、下記のように答えていました。

【質問】昨年度の1年間で、あなたが一番つらかったことは?

「生きていること」(中3男子)

「生まれたこと」(中2女子)

「生きていること自体が一番の苦痛」(中3女子)

 表現は多少ちがうものの、自由記述があった85件中7件に、生きていること自体が「つらかった」という回答がありました。ほかにも、一番つらかったことは「毎日」「すべて」などの記述もありました。

 「家にも学校にも居場所がない」という子どもは「心の“ホームレス状態”にある」と指摘されてきました。ホーム(家)とホームルーム(学校の教室)から居場所が失われた状態だからです。今回は、彼らがなぜここまで追い詰められてきたのか、そしてどんな解消方法があるのかを考えたいと思います。

心の“ホームレス状態”とは

 「心のホームレス」という言葉自体は、元ホームレスの方で『ビッグイシュー』の販売員が使用されていた言葉だそうです。ホーム=心の居場所と定義し、心を休める居場所がないことを「心のホームレス」と言います。心が“ホームレス状態”になることは、とても孤立感と絶望感が深い状態だと言われています。

 心のホームレス状態になると、極端な例では、家のなかにバリケードをつくって頑なにひきこもる、あるいは街へ出て徘徊し、万引き、売春、覚せい剤など犯罪に手を染めることもあります。

 不登校というと、無気力や暗いというイメージがあり、犯罪や売春などとは遠いイメージがあるかもしれません。しかし、ホームがない子たちはホームの代替を求めて街中でコミュニティを探します。そのときに悪い大人たちや不良集団が「ホームの代替になるのでは」と子どもは期待し近寄ってしまいます。そこから集団の誘いや求めに応じて犯罪などに関わるケースが多いのです。

 アンケート調査では、下記のような記述もありました。

「家には居場所がなくて、でも学校へ行ってもあんまり楽しくなくて、先生が怖くて空気が怖くて、それで逃げるしかできなくてネットで知り合った優しい男の人に身をゆだねてしまった」(中1女子)

 彼女は男性と関係を持ったことへの後悔も記述していました。こうした子どもや犯罪に手を染める子に対しては、厳しく指導して道徳心を植えつければ回避できるという意見もあります。しかし犯罪や売春などは表面的な現象です。根っこには、子どもたちが学校や家で居場所が奪われ、ホームの代替を求めたがゆえに生まれた孤立感があるのです。

 また、『ビッグイシュー』の編集部によると、不登校やひきこもりなどで心の“ホームレス状態”になっていたために、実際に家を飛び出してホームレスになったという事例もあるそうです。

なぜホームを奪われたのか

 そもそも、なぜ子どもたちは学校と家で居場所を失ったのか。アンケート調査では、学校へ行きたくない理由として、いじめや人間関係を挙げる声が目立ちました。一方、家庭で居場所を失った背景については、調査では明らかになっていません。

 私の取材では、家で居場所が失われた背景として3つのケースをよく聞きます。

 1つ目は親からの暴力・暴言によって家に居ること自体に恐怖を感じるケースです。2つ目は、学業に対する親の期待に苦しむケースです。家に居るあいだは、ずっと勉強することを求められて疲弊するなど受験生や優等生に多いケースです。

 私が取材したケースだと高校2年生の女の子は、朝6時から「寝落ち」する夜11時ごろまで学校と家で勉強する生活を続け、死にたい気持ちが「襲ってきた」と話してくれました。

 3つ目は、不登校が許されずに家から居場所が奪われるケースです。今年、中学2年生の女の子から聞いた話は、まさに「ホームレス状態」でした。

 彼女はいじめを受けた恐怖感から中学1年生のときに教室へ入ることが困難になりました。教室に入ろうと思うと足が止まり、ムリに教室に入ると動機やめまいがしたそうです。その事情を親に話したものの「いじめなんか気にすることはない」と言われ、先生からは「がんばろう」と言われ、誰も助けてくれませんでした。

 彼女は家にも教室にもいられず、校内の印刷室や使っていない教室など転々として、半年ほどをすごしたそうです。「ホームレス状態」ゆえに校内を徘徊するしかなかったのです。この期間は「すごくつらかった」と顔をしかめて話してくれました。

皆勤賞の子でも居場所がない

 一方で心のホームレス状態が周囲から見えづらくなっている人もいます。アンケート調査には、学校では皆勤賞をとりつつも、家にも学校にも居場所がないと答えた中学3年生の女の子もいました。

 彼女もまた、アンケートでは、昨年度一番つらかったことについては「生きていること」と答え、逆に、一番楽しかったことには「なし」と回答しています。

 彼女のように学校に登校しつつも、学校で苦しむ子は「仮面不登校」とも呼ばれています。アンケート調査では仮面不登校のうち10.2%の子どもが「家にも学校にも居場所がない」と答えており、心のホームレス状態にあるのだろうと思われます。また、不登校(年間30日以上の欠席)ではなくとも、保健室登校などで「部分/教室外登校」をしている人も同様の回答結果が見られました。

 不登校の子どもだけではなく、学校へ通っている子のなかにも深刻な子がいると考えられます。

解消への道筋はどこに

 心のホームレス状態は、その子に対して「何もない状態」では起きません。暴力やいじめなどにより自分の存在が否定されることで「居場所がない」と感じます。過度な学業への期待もムリな登校も同様に自分を否定された気持ちになります。

 自分を否定されることで、子ども自身は「自分はダメなんだ」と感じ、長く自己否定感を抱えることになります。その結果、自己否定感、孤立感、絶望感が詰みあがり、「生きていること自体がつらい」と思うわけです。

 では心のホームレス状態はどうしたら解消できるのか。それは、やはりホーム(本人の居場所)を獲得するしかありません。

 私が取材したなかでは、父からの暴力で家から居場所が奪われた子も、担任教師に暖かく迎えいれられ心の平穏を取り戻したケースがありました。あるいは親が不登校を受け入れてくれたおかげで家に「居場所ができた」という話もあります。家にも学校にも居場所がなかったけれども、弁護士と出会い、子ども用のシェルターで「やっと安心できた」という子どももいます。

 学校、家、祖父母や親戚の家、フリースクール、地域のコミュニティなど、どこかに子ども本人が安心、安全、心の平穏を感じる場が必要です。それが居場所(ホーム)です。

 本人が否定されずに温かく迎え入れられる場、それが用意されることは「甘えた環境」をつくることではありません。ホームは誰にとっても必要な「生きるための土台」です。土台がなければ、人はどこまでも危険な状態で揺らぎます。

 学校へ行けば安心という表面的な見方ではなく、その子にとってホームがあるのか。その本質に目が向けられるべきだと思っています。

※調査期間2019年5月3日~5月9日/調査主体・NHKスペシャル「学校へ行きたくない中学生43万人の心の声(仮)」取材班/調査協力LINEリサーチ)。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

石井志昂の最近の記事