Yahoo!ニュース

親も教師もカン違いしてます。休み始めが「限界」なんです【連休明け子どものSOS】

石井志昂『不登校新聞』代表
教室(イメージ)(写真:アフロ)

 もうすぐ異例の10連休となった今年の5月連休が明けます。

 連休明けの前夜から連休明けの朝にかけて、子どもが学校へ行きしぶるなど「SOS」が急に出る可能性があります。

 そこで今日は、なぜ連休前に行きしぶりや不登校が増えるのか、どんな子が不登校になるのか、行きしぶりにはどう対応したらいいのかをご紹介します。

なぜ連休明けに行きしぶるのか

 5月の連休明け、学校へ行きたくない子や不登校が増えるのには理由があります。5月連休は新学期明けの疲れがどっと出る時期だからです。席替え、クラス替え、担任の変更。小1の子どもにとっては「初の学校生活」、中1の子にとっては校則や部活など。

 大人からすれば変化だとは感じないことでも、子どもにとってはガラリと世界が変わる出来事です。

 席替えによって周囲が全員いじめっ子だったという人や、高圧的な先生に代わって途端に学校がつらくなったという人もいました。新年度に入ってからも、すでに「新しい学校に変わって居場所がない」「もう死にたい」と訴えてくる子もいました。

連休明けに行きしぶる子の特徴

 では、どんな子が学校へ行きしぶるのかと言えば、「誰でも」が答えです。優等生、運動好き、友だちが多いなどの子も不登校になります。四半世紀前から国は「不登校は誰にでも起こりえる」と認識しています。

 この5年間で不登校は少子化にもかかわらず増加し、過去最多を更新しました。

 

 また、日本財団の調査によれば、不登校の定義(年間30日以上の欠席等)に該当せずとも教室へ入れなかったり、給食だけを食べたりする中学生が推計で33万人いることがわかりました。全中学生の10人に1人。「隠れ不登校」とも言われる彼らは、不登校の人と同じように孤立感や無力感に苦しんでいます。

 もはや誰もが「明日の学校はムリかも」と悩む時代になりました。

子どもからのSOSと特徴

 学校が苦しい子どもはSOS(不登校の前兆)を体から発します。

 むしろ「学校を休みたい」とは、ほとんどの子が言いません。子どもは学校で苦しんでいるときほど、「学校へちゃんと行かなければ」と強く思い、「行きたくない」という言葉を避けるのです。

 言葉にしない分、学校で苦しむ子は体から悲鳴が出ます。学校へ行こうと思うと、お腹や頭が痛くなる。学校へ行く朝にかぎって、ベッドや玄関で身動きができなくなるなどは、有名なSOSです。

 このほかにも「急激に元気がなくなる」「食欲がなくなる」「突然、泣き出すことが増える」「イラ立ちやすくなる」「兄弟をいじめ始める」「学校の準備を何度も確認する(または長時間に及ぶ)」など。

 子どもの数だけ異変の種類がありますし、すべてが不登校由来の異変ともかぎらないので判断するポイントはひとつです。それは「連休中のようす」と「連休明けのようす」を見比べること。

 連休中と連休後では、あきらかに体調の変化が著しい場合は「学校」が要因でしょう。

緊急警報なのにカン違い

 学校で苦しむ子ほど「休みたい」の一言が言いづらいものですが、まれに親や先生に「学校へ行きたくない」と切り出す子もいます。

この「行きたくない」という一言は緊急警報です。本人にとってはワラをもすがる気持ちで「学校がつらい」と打ち明けています。

 しかしながら子どもが「休みたい」という緊急警報を発したときほど、登校をがんばらせる親や教師が増えています。

 休み始めの時期は、周囲が強く学校へ押し出すことで子どもは行きやすくなる。子どもは学校へ行けたことで精神的なハードルを乗り越えて成長する。そう考えて「休みたいと言い出したときほど成長のチャンスだ」と言う先生もいるそうです。

 この「強く押す理論」が大好きな父親は多いです。先生からのアドバイスを聞いて、母親に「だから言ったじゃないか、甘やかすだけじゃダメだ」と言うことがあります。

 でもこの「強く押す理論」は、完全なカン違いです。子どもからすれば、限界までガマンしてがんばって万策が尽きたから助けを求めたのです。「まずはがんばろう」と言ってしまう教員や親は、その子が抱えているトラブルや悩みを見すごしていただけです。

SOSに気づいた際の対応は

 では、子どもの体からSOSが発せられたり、子どもが「休みたい」と切り出したとき、周囲はどうしたらいいのでしょうか。

 私は即座に休ませてほしいと思っています。なるべくならば「ムリをしなくてもいい」「学校は命がけで通うところじゃない」「学校はサボっていいとこだ」なども伝えてほしいです。

 親や先生が「ドクターストップ」をかけても大丈夫なんです。そうして学校を休めると子どもは二通りの反応を示します。

 一番多いのは、即座に休めると次の日からコロッと登校を始めるパターンです。親から「ムリしなくていい」と言われ、心に余裕が生まれるからです。

 先日、タレントの鈴木奈々さんから「私もそうだった」と聞きました。鈴木さんも学校が辛くて親に打ち明けると「ムリしなくていいんだよ」と言われたそうです。鈴木さんは「その一言で心が軽くなった」と言い、翌日から学校へ通ったそうです。

 一方、子どもの休みが長引くケースもあります。それは子どもに「休み癖」や「サボり癖」がついたわけではなく、弱い子だったからでもなく、親の子育てが悪かったわけでもありません。子どもが深く傷ついていたにもかかわらず、周囲が気づかなかったからです。休みが長期間にわたる場合は、その期間が必要だったのです。

休みが長期にわたったらどうするか

 学校の休みが長引いた場合、気をつけることが二点あります。

 一点目は、頭やお腹が痛いと言い続けている場合は、念のため病院へ行ってください。ごくまれにですが、純粋に身体の疾患を伴う場合があります。

 二点目は、子どもからのSOSを「外」につなげることです。子どもからのSOSに気がついたら、迷わず以下のところにご相談ください。行きしぶりや不登校については、専門的な知識がある人を頼ったほうが親も迷わずにすみ、子どもも早く楽になります。

■行きしぶりや不登校の相談窓口

「登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク」(電話03-3906-5614)

「フリースクール全国ネットワーク」(電話03-5924-0525)

■保護者や子どもの相談窓口

「子どもの人権110番」(電話0120-007-110)

■18歳までの子どもたちのための相談窓口

「チャイルドライン」(電話0120-99-7777)

学校へ行かない人はどうなるのか

 最後にこの記事を、もしかしたら学校で苦しむ本人が読んでいるかもしれません。10代の方に知ってほしいことをお伝えします。

 私は中学2年生の冬から学校へ一度も通っていません。でも中学校は卒業しました。あとからわかったことなのですが、公立の小中学校は一日も行かずに卒業ができます。

 学校へ行けなくなった直後の私は「人生が終わった」と思っていました。もう自分には未来がない、と思っていました。

 しかし、私を待っていたのは「ふつうの未来」でした。きっとあなたにもその「ふつうの未来」が待っています。

 ふつうの未来とは、苦しいことがあり、楽しいこともある未来です。思い出したくもないこともありますし、解決しないことも多いです。そういう未来を私は送っています。

 私には無理だと思っていましたが、いま仕事をしています。でも、ミスだらけです。仕事をするなかで、人に頼ったり、頼られたりしなながら、結局、何をするべきだったのか、何がやりたかったのか。それは、すぐに見失います。

 意外なことに大好きな人と結婚ができました。でも、ケンカもします。私が謝ればいいのにそれができずに長引いて、2000円もするパフェを2人で食べてうやむやにしたりしています。どうでもいいことですが「旬のフルーツ」という言葉に弱い人間になりました。

 生活はできますが、お金はありません。裕福じゃないのにお腹はダブついています。

 そんな未来は、幼少時に私が思い描いたキラキラの人生ではありませんが、捨てたもんじゃない人生です。

 だからもし、あなたが学校で苦しんでいれば学校を捨ててほしいのです。学校を捨てても人生を捨てることにはなりません。私は学校を捨てたとき、人生を捨てたと思っていました。けれども、結果的には不登校によって命を拾いました。予想外にも不登校によって人生は好転しました。どうかそんな道もあることを信じてほしいと思っています。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

石井志昂の最近の記事