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「ダメな人にも『出番の枠』がある」新年度につまづいた学生にこそ読んでほしい安齋肇の教え

石井志昂『不登校新聞』代表
イラストレーター・安斎肇さん(撮影・全国不登校新聞社)

 今週は多くの学校で始業式が行なわれました。学生にとって新年度のスタートです。

 いろんな期待や希望を胸にする日でもありますが、憂うつな気持ちの人もいます。

 新年度の初日は、クラス替え、席替え、担任の変更などがあります。転校生ならなおのことですが、ふつうの生徒にとっても変化が多い時期です。

 いわゆるクラスカーストに変動が起きるため、「いじられ役にならないよう自己紹介は気をつかった」という生徒の声を聞いたこともあります。

 内閣府の調査によれば、18歳以下の自殺者数が多くなるのは、夏休み明けの9月1日と、新年度が開始される4月上旬から中旬にかけてでした。

 断定することはできませんが、おそらく、また学校へ行くよりも、いま死んでしまった方が楽だと追い詰められた人が多いのではないかと思います。

 そこで、今日は新年度に好スタートが切れた人ではなく、「失敗してしまった」と新しいスタートに落胆した人に読んでほしいインタビューを掲載します。

 取材者は私と10代から20代の不登校経験者。お話を聞いたのは、イラストレーターの安斎肇さんです。

インタビューに応える安齋肇さん(撮影・全国不登校新聞社)
インタビューに応える安齋肇さん(撮影・全国不登校新聞社)

「誰にでも『出番の枠』がある」

 僕は不登校ではなかったけれど、学校の勉強が苦手でね。授業がわからないから、先生に指されるのがイヤでたまらなかった。いざ指されると、恥ずかしさと緊張で顔が真っ赤になっちゃうんだ。タコみたいに赤面してるからって「タコザイ」っていうあだ名までついちゃった(笑)。

 高校に入ってからは、家でラジオばかり聞いてた。1階からは母親と妹の楽しそうな会話が聞こえてくるのに、自分はひとりラジオばかり聞いて一日が終わっていく。「あぁ、ぼくはこのまんま年取って死んでいくんだろうな~」って、すごい孤独感を感じてた。

 だから「なにかしなきゃいけない」って思ってさ。好きだった女の子に手紙を書いたんだ。ラブレターだよね。便せんで50枚くらい(笑)。さすがにそれだけ枚数があると封筒に入りきらないから前編と後編にわけて送ったんだ。

 自分ではナイスアイディアだと思ったんだけど、数日してから料金不足で前編が戻ってきちゃったんだよね。「あぁ、明日になれば後編も戻ってくるんだ~」と思ったら恥ずかしくてしかたなかったなぁ。

 でも、その後も、コレといってとくにやりたいことはみつからなかった。高校は卒業したけど、あてにしていた美大は受験で落ちちゃった。一浪しているあいだはフラフラして、専門学校へ入って卒業して、またフラフラして。たまたまデザイン会社に入れて、なんとかなったんだよね。

 そう言うと、やりようない気もするかもしれないけど、「世の中も自分も、そんなもんだ」って、ぼくは思うようにしてる。テレビの番組では、いろんなタイプの人が出るでしょ。いわゆる「おねぇ系」と言われてる人もたくさん出てる。そういう出演者の「枠」が番組のなかであるように、僕のようにいわゆる"フツー”じゃないと言われる人を受けいれる枠組みっていうのが、社会にもあると思うんだ。

 大切なことは、「きらいなことはしない」ということ。仕事や勉強も「それほどきらいじゃないからやってみようかな」というぐらいの思いでいい気がする。なにかを続けていれば、それを見てくれる人がいるし、いろんな人たちとつながっていける。

 それは、好きなことの数だけ可能性がふくらんでいくっていうことなんだ。学校でもアルバイトでも、好きかきらいかの判断ができるのは本人だけだから、その取捨選択は生きていくうえですごく大切なことだと思う。

 もしも、学校でうまくいかなかったり、不登校になったり、休んだりしたとき、周りからは「損をしている」と言われるかもしれない。

 でも、僕は大丈夫だと思う。だって、イヤならば行かなくていいんだ。

 タモリさんが幼稚園に行かなかったって話、聞いたことある? 幼稚園をちょっとのぞいてみたら、園児たちがギンギンギラギラって踊ってるんだって。「こんなところ、恥ずかしくてぜったい通えない」って思ったみたい(笑)。

 「学校へ行かない」って判断できるのはすごいと思うんだ。それができるってことは「学校へ行く」っていう判断もできるんだから。そこをはっきりすることのほうが、よっぽど大切な勉強だと思う。無理に学校へ行こうと努力する必要はないし、同じ時間を使うなら興味あることに費やしたほうがいいよ。

 これからは自分が好きなことをとことん突き詰められる、そんな人が必要なんじゃないかな。

(『不登校新聞』2010年11月15日号より再編集)

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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