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2つの異なる社会課題を『繋げて解消』へ 日本初のひきこもり経験者主体の会社が誕生

石井志昂『不登校新聞』代表
記者会見をするひきこもり経験者の社員(筆者撮影)

 深刻化する「エンジニア業界の人手不足」と「ひきこもり」。2つの異なる社会課題を繋ぐことで双方の解決を目指していく、そんな新しいビジネスモデルの挑戦が始まりました。

 挑戦するのは12月1日に設立記念記者会見を開いた「株式会社ウチらめっちゃ細かいんで(以下・めちゃコマ)」。社員6名中、社長をのぞく5名がひきこもり経験者という日本初の「ひきこもり経験者主体」の会社です。

(株)めちゃコマとは

 社名は「めちゃコマ」社長の佐藤啓さんが、ひきこもり経験者の「きめ細やかさ」に驚き、新しい会社の「売り」にしたいと思ったことが由来。

 「めちゃコマ」が展開していく主な事業は、ひきこもり経験者などに教育プログラムを提供する教育事業。そして育てた人材で行なう制作事業と人材紹介事業です。

公式HP「(株)ウチらめっちゃ細かいんで」トップ画面
公式HP「(株)ウチらめっちゃ細かいんで」トップ画面

 こんな会社が誕生すると「ひきこもりは働きたくないからひきこもりなのではないか」と思われるかもしれません。たしかに「働ける状況にないひきこもり」の人もいますが「働ける環境があれば働きたい」と思うひきこもりの人も少なくありません。

 めちゃコマ制作事業部リーダーの岡田マサトさんもその一人でした。

 岡田さんは8年前、就職活動中にひきこもりが始まりました。ひきこもり始めた当初、コンビニで「温めますか?」「はい」という会話をして以後、人と会話をせず、6年間が経過したそうです。

 しかし、2年前からネットを通じてカウンセリングや居場所に出会い、徐々に働ける環境やタイミングを探るようになりました。岡田さんが「めちゃコマ」の母体となったIT会社「フロンティアリンク」で働き始めたのが今年の夏。フロンティアリンクの教育事業「ひきこもりサポートコース」を見たとき「教材が実践的で、経験者も気兼ねなく学べるリモート環境などが整っている」と感銘を受けたことがきっかけでした。

 岡田さんのような方は少なくありません。「まったく働けない状況」の期間は終わったものの、スキルや経験不足、さまざまな働き方が許容される会社がないなどの理由から、働くことを断念している方も多くいます。

「ウチらめっちゃ細かいんで」佐藤 啓さん(筆者撮影)
「ウチらめっちゃ細かいんで」佐藤 啓さん(筆者撮影)

 フロンティアリンクで教育事業を始めた佐藤啓さんは、働ける環境と教育プログラムさえ整えば、ひきこもり経験者が会社にとって大きな戦力なると感じていました。そして自身の会社だけでなく「エンジニア業界の人手不足」にも寄与できるのではないかと思ったのです。

 というのも「エンジニア業界の人手不足」は経済産業省も危惧しています。経済産業省の調査では、すでに人手不足が始まっており、2020年までに37万人、2030年には、その倍以上の79万人に上ると予想されています。深刻の一途をたどっていると言えるでしょう。

NPOで成功 「繋いで解決」の先例

 2つの社会課題を繋いで、双方の解決を目指す。「そんなにうまい話があるのか」と思われるかもしれませんが、先例があります。NPO法人「セカンドハーベスト・ジャパン」です。

 セカンドハーベスト・ジャパンは、箱がへこんだり、売れ残ったなどの理由で市場価値を失った食べ物を食品会社から受け取り、児童養護施設や路上生活者などに届ける活動をしています。

 セカンドハーベスト・ジャパンの活動は「食べ物がなくて困っている人」と「食べ物があまって困っている企業」を繋ぐことです。

 「めちゃコマ」の目的も「働ける人がいなくて困っている企業」と「働けなくて困っている人」を繋ぐことです。

ビジネスモデルだからこその期待

 ひきこもりといえば「どんな支援が必要か」という話になりがちです。そして「支援」をすること自体にも冷たい視線が向けられることも事実です。

 そんななかで「めちゃコマ」の取り組みは「新しいビジネスモデルとしてチャレンジする」という点においても積極的な意味があります。「支援」という眼差しから外れ「新しい働き方のモデル」を提示できるからです。もちろんビジネスモデルだけが成功すればいいというわけではありませんが、必要なアプローチの一つだと言えます。

 「めちゃコマ」のような例は少ないのですが、もしかしたら今後の「ひきこもり支援のあり方」を変えていく例になるかもしれません。どんな結果を生むのか、これからも取材を続けていきたいと思います。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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