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衆院選2017 「不登校政策」政党アンケート比較

石井志昂『不登校新聞』代表
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 第48回衆院選総選挙の投票日が、ついに明日と迫ってきました。

 私が編集長を務める『不登校新聞』では、国政選挙のたびに「不登校に関する政党アンケート」を実施しています。「不登校」については残念ながら、政権公約を読むだけでは見えてこない部分も多くあるためです。

 また、政党アンケートで語られた「不登校」に対する認識を知ることで、その党がどのような思いを持って「不登校」に向き合おうとしているのか。政権公約で掲げた教育政策の根底に流れる教育観についても知ることができます。

 本稿では「不登校への偏見払拭のために必要なアプローチ」について、各党がどのように回答していたのかを比較してみました。

 というのも、昨年9月14日、文科省は全小中学校に向けて、不登校した本人が悪いという「根強い偏見を払拭することが重要」だと指摘しました。

 この通知は多くの不登校家庭に勇気を与えるものでしたが、「偏見払拭」は個人の力だけで行なえるものではありません。

 政党として、政策として、どう偏見払拭を図っていくのかを聞きたかったからです。以下、囲み部分はすべて『不登校新聞』からの引用です。

不登校への偏見払拭のために必要なアプローチとは?

自民党の回答

 党として議論したことはありません。偏見払拭は容易ではないと思いますが、地道に啓蒙活動をしていくしかないのではないか、と思います。

 「党として議論したことはない」。今回の政党アンケートで私がいちばんひっかかった回答であると言っても過言ではありません。

 『不登校新聞』では前々回(2012年)の衆議院総選挙にも政党アンケートを実施しています。自民党単独で294議席を獲得し、3年3カ月ぶりの政権奪還を決めたとき、自民党は次のように回答していました。

 「不登校は極めて重要な問題です。しかし、いまだに小・中・高で17万5000人を超える不登校の方々がいることについては、政策面での対応が不十分なこともあると思います。まず、不登校になっているお子さん方などに、お詫び申し上げたい」。

出典:不登校新聞(2012/12/15)

 「お詫び申し上げたい」という回答に驚いたあの日から5年、政治課題としてどう向き合うかを「党として議論したことがない」というのは、ひっかかります。

 不登校が社会問題とされて50年、これまで300万人の子どもが不登校とされてきたなかで、子どもたちはもちろん、不登校の子を持つ親だって、言われなき偏見と闘ってきた歴史でもあるからです。

公明党の回答

 不登校は、どんな子どもにも起こり得ることであり、文部科学省の通知内容は非常に重要です。時間がかかっても、この考えを浸透させなければなりません。苦しくても登校を強いられ、さらに追い込まれるケースが少なくないことから、公明党の主張で教育機会確保法に「休養の必要性」を認める文言を盛り込ませました。「つらかったら休んでもいいんだ」ということを、子どもや保護者、教師等の間で共有することも重要と考えます。

 かたや、自民党とともに政権を担う公明党は、偏見払拭の重要性を指摘するだけでなく、「つらかったら休んでもいいんだ」ということを、子どもや保護者、教師等の間で共有することの重要性にも触れています。こうしたちがいがあることからも「与党だから」と安易にひとくくりにして考えてしまうことは軽率かもしれません。

共産党の回答

 何より教育関係者と保護者の「不登校は問題だ」という意識をなくすことです。国や教育委員会が、「不登校を半分にする」などの数値目標を是認しているようではだめです。数値目標を一掃し、たとえば学校で不登校新聞を読む位にしないといけません。保護者や子どもが、学校に通う義務は子どもにはないこと、大事なのは学校に行くかどうかでなく子どもの尊厳であることを知り考える場が必要です。こうした啓発を社会にも広げます。

 偏見を払拭する具体策として「数値目標の廃止」を提案しているのが、共産党の特徴です。共産党が指摘する「不登校を半分にする」というのは、たとえば新潟市や大阪府の取り組みが例に挙げられます。新潟市では「不登校未然防止プロジェクト」を2006年から開始し、3年間で不登校の数を半分に減らすことを市の数値目標に掲げたわけです。また大阪府で2005年、3年間で不登校を半減させるという緊急対策事業を打ち出しました。これには府下の親の会らが反発、府教委や太田房江知事(当時)との懇談を通じ、数値目標を掲げることの危うさを府教委が認めるに至るということがありました。

 偏見を下支えする問題意識を取りのぞきつつ、義務教育の意味などを広く訴えることが大事だというのが共産党のスタンスです。

立憲民主党の回答

 まずは、教師や学校が一人ひとりの子どもに寄り添う姿勢を示し、児童生徒や保護者が不登校児童への偏見を持たないよう指導するとともに、行政と連携して地域コミュニティの中でも広く理解を求めていくよう努力すべきです。社会全体にそのような認識が広がるよう取り組みます。

 ツイッターのフォロワー数が急激に伸びたことが大きな話題になっている立憲民主党はどうでしょうか。「教師や学校が子どもに寄りそう姿勢を示す」「行政との連携を通じた地域の理解の促進」などが、立憲民主党の思いです。

 ひとつ気になるのは、「偏見」を受ける対象となる本人や保護者に対し、偏見を持たないように「指導する」と言っている点でしょうか。

日本維新の会の回答

 住宅が密集する都市部の学校と、田園地帯では文化も状況もまったく異なる。各学校間でも大きなちがいがある。そのようななかで、全国一律の対策を文部科学省が発するということ自体がおかしい。教育に関する地方分権を進め、学校の設置・運営についての規制も緩和すべきである。そして、地域の事情をよく知る各自治体が、不登校についても全面的に責任をもって取り組むべきである。

 日本維新の会は、すべての質問に対し「地方分権」と「規制緩和」が必要であるという回答で一貫しています。要するに「抱える問題は地域ごとにまちまちで、その事情がいちばんわかっているのは自治体なんだから、不登校もそれぞれ任せましょう」ということです。

 学校設置・運営の規制は非常に厳しいのはたしかです。しかし一方で、特区制度などを活用し、ゆるやかな教育課程に基づく学校が設置され始めています。「不登校特例校」と呼ばれ、2017年現在、全国に11校あります。

 日本維新の会が指摘する教育の地方分権化とは、上述したような「不登校特例校」の拡充を指しているのか、それとも一般的な話であるのか。党のHPにも「教育行政について、国と地方の役割分担を見直し地方の判断で適切な体制を選択できるようにする」としかないため、今後の見極めが重要になります。

希望の党の回答

 どの子どもにも起こりうるものであるとの認識を持ち、対応することが大切だと考えます。

 「どの子にも起こりうる」というのは、文部省(当時)が1992年に示した「登校拒否問題への対応について」という通知のなかに出てくる文言です。

 1975年以降、増加の一途をたどった不登校に対し、それまでのまなざしをあらため、「登校拒否はどの児童生徒にも起こりうるものであるという視点に立ってこの問題をとらえていく必要があること」と、大きく方針転換しました。

 この通知はたしかに大きな認識転換でしたが、続いて2003年に示された通知「不登校への対応の在り方について」では「ただ待つだけでは、状況の改善にならないという認識が必要であること」と、再度、認識転換がはかられました。

 そうした経緯を経て2016年に出された「不登校児童生徒への支援の在り方について」という通知のなかにあった「不登校の根強い偏見を払拭しなければいけない」という文科省見解に対し、どう考えているかという考えを私は聞きたかったので、回答内容はまさにその通りなのですが、その意味で少し物寂しい回答になったというのが正直なところです。

社民党の回答

 文科省も遅ればせながら取り組みはじめましたが、十分とは言えません。学校を否定するのではなく、また絶対化するのでもなく、多様な学びの一つとして相対化する発想が必要です。学校に行かない選択をした子どもの教育を受ける権利を保障し、フリースクールや家庭学習への支援など、不登校でも学ぶことのできる仕組みを整備して、不登校という育ち方を具体的に示していくことが必要と考えています。

 社民党の特徴は、フリースクールや家庭学習への支援をきちんと明文化して打ち出している点にあります。不登校の子どもの教育を受ける権利を保障する仕組みとして、フリースクールや家庭で学べる仕組みを整備し、「不登校という育ち方を具体的に示すこと」としています。

 この主張は、学校外の学びや育ちのありようを支援するというもので、今の学校のありようを変えていこうという他党とは異なる視点でのアプローチと言えます。

さいごに

 不登校についてどのように考えているのか、見えてきた回答だったのではないでしょうか。アンケート回答全文はWEB版『不登校新聞』に掲載されていますので、ぜひ政権公約とも照らし合わせてみていただき、選択の一助になれば望外の喜びです。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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