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多頭飼育崩壊から保護された子猫。なぜ、悲惨な環境からサバイバルできたか?#多頭飼育崩壊

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
あられちゃんの飼い主から提供

Yさんのところには、以前、シニア猫の「のんたんちゃん」と「はなちゃん」が暮らしていました。いまから2年前の令和3年の9月に、はなちゃんが急死。

Yさんは、のんたんちゃんがさみしがっているので、仲良くしてくれそうな猫を探していました。Yさん夫婦は、猫を飼うのなら愛護団体からと思っていました。

そんなとき、保護猫サイトで見つけたのが「あられちゃん」でした。

あられちゃんは、多頭飼育崩壊から保護された子猫です。そこでは、多くの猫が死んでいましたが、あられちゃんはサバイバルしました。

Yさんは、「なぜ、あられが生き残ったのか、理由がわかるような気がします」と言いました。

ペットが増えすぎて、適切に飼えなくなってしまう「多頭飼育崩壊」のニュースをよく目にしますが、そこには悲惨な飼育環境があるようです。

あられちゃんを通して子猫が多頭飼育崩壊で生き抜くということは、どういうことかを見ていきましょう。

生後約2カ月のあられちゃん

あられちゃんの飼い主から提供
あられちゃんの飼い主から提供

Yさん夫婦は、毎日、保護猫サイトでのんたんちゃんに合う子を探していました。Yさん夫婦は、目がかわいいあられちゃんの写真を見て気に入りました。上の写真を見ればわかるように、あられちゃんは美形の猫なので人気があったそうです。

Yさん夫婦は、高倍率の中から里親に選ばれました。

その理由は、以前から猫を飼っている、シニアの猫(のんたんちゃん、現在15歳)も大切にしている、ペット可のマンションに住んでいる、ダンナさんは在宅ワークをしているなどからです。

先住猫ののんたんちゃんは、もともとおおらかな性格なので、あられちゃんが来ても威嚇しなかったそうです。あられちゃんは子猫の頃、のんたんちゃんの動くオッポに、じゃれていました。

その一方で、あられちゃんにも思わぬ行動があったそうです。それは、あられちゃんの食欲が尋常でないのです。あられちゃんは、あげてもあげても食べるのです。食べ過ぎて吐くことがあっても、また食べるそうです。

多頭飼育崩壊から猫と野良猫の食欲

あられちゃんの飼い主から提供
あられちゃんの飼い主から提供

多頭飼育崩壊から保護されたあられちゃんは、生きぬくために食欲旺盛だったのです。食べ物が十分ない環境だと、食べることに執着しない子は命を落としていきました。しかし、あられちゃんは、生きるために貪欲に食べました。

野良猫も同じような子が多いです。以前、元野良猫の飼い主が「猫のトイレの砂まで食べるので、どうしたらいいか」と相談してきたことがあります。

この元野良猫は、餌はもちろんのこと、それ以外のものを、何でも口にしました。飼い主には、誤飲に注意してもらいました。この猫は、トイレの砂を食べるので、新聞を細く切って、それをトイレの砂の代用にしてもらいました。何でも口にする行動は、5年以上かかり、やっと餌以外は口にしなくなりました。

あられちゃんの食欲旺盛の対策

あられちゃんの飼い主から提供
あられちゃんの飼い主から提供

Yさんは、あられちゃんがいる部屋には、キャットフードの容器を置けないとこぼしていました。

キャットフードをクーラーボックスのような容器に入れてフックをかけてあっても、あられちゃんはYさん夫婦が留守中に開けて食べるそうです。あられちゃんは、高いところにキャットフードの箱を置いても、そこに上り、それを落として食べてしまうのです。

Yさんは、あられちゃんの貪欲な食欲を見て、多頭飼育崩壊から生き残れたのはこの食欲だとわかると、あられちゃんに注意ができないそうです。

あられちゃんと先住猫ののんたんちゃん

あられちゃんの飼い主から提供
あられちゃんの飼い主から提供

あられちゃんの誕生日は、去年の11月13日(推定)です。Yさんのところに来たのは去年の12月27日で、多くの人の命のリレーを経て、悲惨な環境から愛情があふれる環境で暮らせるようになったのです。

あられちゃんは、小さいときにつらい体験をしましたが、今は、Yさん夫婦に愛されて、のんたんちゃんと仲良くして、穏やかに暮らしています。

多頭飼育崩壊という言葉は、多くの犬や猫がいて劣悪な環境で暮らしているイメージがあります。

そこで生き残っていくためには、あられちゃんのように、異常なほどの食欲になってしまうこともあることを知ってほしいです。ある意味、他の猫に食べ物を譲ると生き残れないのです。

飢餓状態を体験すると、食べ物があるときに食べないとという意識が強くなるのでしょう。

猫は繁殖能力が旺盛な動物です。多頭飼育崩壊や望まない命を生み出さないように、不妊去勢手術をして飼いましょう。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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