「猫白血病ウイルスが陽性のスコ」の保護猫。リスクを持っている子の命を守りたいと里親に
「幸せになると顔つきが変わるのね」と飼い主家族Iさんたちと筆者は、その猫の顔を眺めていました。
ミーちゃんが当院にやってきたのは、今年の春でした。そのときは、洗濯ネットに入っていて、よく顔を見ることができませんでした。
「この子の命を守ります」とIさんは言った
猫はペットショップで購入する人も多いです。
その一方で、少しずつですが、保護猫を飼う人も出てきています。Iさんはスコティッシュフォールドで猫白血病ウイルスが陽性の子をわざわざ選びました。
「猫を飼うのなら、保護猫と決めていました。この子たちも猫が好きでね」とIさんは、言いました。Iさんの小学生の男の子ふたりもいつも診察室に一緒にきます。
「ミー、どこが悪いというわけではないです。ただ、血液検査をしたら、猫白血病ウイルスを持っていることがわかっているんです。短い命かもしれません。そのことも理解して、ミーをうちの子にしました。月1回、爪切りにきますので、様子を見ていただけますか。もちろん、なにかあったら、すぐにきます」とIさんはふたりの息子さんの前ではっきり言われました。
ミーちゃんは、妊娠して捨てられた
Iさんによりますと、ミーちゃんは、妊娠したためか捨てられて空き家にいたそうです。捨て猫なので、本当にスコティッシュフォールドかどうかわかりませんが、垂れ耳の猫なので、スコティッシュフォールドなのでしょう。
お腹の大きなミーちゃんは、愛護団体に保護されて不妊治療をして、耳カットもされていました。猫白血病ウイルスを持っているので、なかなか里親が決まらなかったようでした。
保護施設から猫をもらう人でも、やはり子猫や病気を持っていない子が、人気なのです。猫エイズも猫白血病ウイルスも持っていない子猫は、割合に早く里親が見つかります。
筆者は、「なぜ、病気を持っているミーちゃんを選んだですか」とIさんに尋ねました。
「すぐに決めたわけではないのです。なんども愛護団体のYさんのところに足を運びました。上の子も下の子も、どうしてもこの子がいいと言うのです。子どもは、ただかわいいと言っていればいいですが、私はそういうわけにはいきません。そこで、Yさんと話し合って、定期的に動物病院に行くという条件で里親になったのです。子どもも毎回、連れて来ますが、よろしくお願いいたします」とIさんは説明された。I家の子どもさんは、筆者の顔を見て「よろしくお願いします」と頭を下げたました。
猫白血病ウイルスが陽性(持っている)という意味
猫白血病ウイルスを持っているという意味は、病気を示しているのではありません。それは、猫白血病ウイルスが体の中にいる猫ということです。
しかしこのウイルスを持っている猫は、病気と戦う力が弱いです。
もしこの病気が発症すると、予後が非常に悪いことが多いのです。一般的に言うと、猫白血ウイルスを持っている猫は2週間ぐらいしか、生きることができなくなることもあります。
猫白血病ウイルスの主な症状
猫白血病ウイルスの代表的な症状は以下です。
・食欲不振
・元気消失
・くしゃみ、鼻水、鼻詰まり
・慢性的な発熱
・呼吸困難
・下痢
・口内炎
このウイルスは唾液、尿、涙液、母乳、血液そして胎盤を介して伝播します。空気伝播の感染はあまり多くないです。唾液に多く含まれているので、喧嘩による噛み傷と口や鼻への直接の接触が最も多い感染源と考えられています。
年齢的には1~6歳ぐらいの猫で、平均は3歳前後で一番発症率が高くなっています。
猫白血病ウイルスに関係する主な病気
猫白血病ウイルスを持っていると以下の病気になる確率が高いです。
・リンパ肉腫
・リンパ性白血病
・骨髄が関係する再生不良性貧血
・溶血性貧血
・血小板減少症
スコティッシュフォールドは寿命が短い
スコティッシュフォールドは、一般的な猫より寿命(一般的な猫の寿命約15歳)が短く11歳から13歳と言われています。
それは、この猫が誕生した初期の頃に近親交配を行っていた歴史があるためです。その影響により、スコティッシュフォールドは体が弱く、病気にかかりやすい個体が多いので、他の種類の猫よりも寿命が短くなっています。
それに、スコティッシュフォールドは遺伝性の疾患を持っている場合もあります。
・軟骨異形成症候群
前足部分や後ろ足部分に「骨瘤」とよばれる軟骨の塊ができてしまう病気が、軟骨異形成症候群です。関節の痛みを持っている子もいます。
一度この病気にかかってしまうと、根本的な治療法がありません。命を落とすほどの病気ではありませんが、もしこの病気にかかった場合は、骨瘤が原因で起こる痛みを薬で緩和し続ける治療をします。
歩きづらそうなどの異常が見られた時は、すぐに病院へ連れていきましょう。
・肥大型心筋症
心臓の筋肉が分厚くなってしまい、血液の循環に障害をもたらす病気です。
発見が遅れると突然死してしまうこともあるため、定期的に動物病院で健康診断を受け、病気の早期発見ができるように備えましょう。
まとめ
病気を持っている子の里親になるということは、病気の知識をしっかり持つことが重要です。
病気を持っている子を救ってあげたい、守ってあげたいという気持ちは大切です。その一方で、生半可な気持ちではその子を守れないのです。
病気をするリスクが高いということは、それだけ治療費もいるということなのです。
Iさんと子どもたちは、毎月、心配そうにミーちゃんの爪切りに連れて来られています。