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【獣医師が解説】猫を外に出してはいけない理由。飼い猫でもその「狩猟本能」は驚異的だった

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:アフロ)

猫を外に出したら、セミをくわえて帰宅する様子を見たことのある人もいるでしょう。このような猫の狩猟本能が、ネット上で問題視されることがあります。

1993年から2009年にかけて、TBSで放送されていた番組「どうぶつ奇想天外!」は、動物の不思議や命の尊さを追求する内容でした。

TBSは14年の時間を経て、以前放送された「どうぶつ奇想天外!」のコンテンツとして高知県・自然豊かな四万十川での飼いネコの行動をYouTubeに投稿すると「お叱りの声」のコメントが多数寄せられたそうです。

なぜこのような事態が起きたのか、猫の狩猟本能の観点から考えてみましょう。

田舎のネコは『狩り』の様子が全然違う!四万十川のネコに密着取材

TBS NEWS DIGによりますと、2007年に「どうぶつ奇想天外!」でイエネコ(人に飼い慣らされたネコ)の野性的な姿を追った映像を放送しました。

映像では、自然豊かな四万十川で、飼い猫が、一歩外に出ると“野性の顔”に変わります。獲物の気配を感じとり、カマキリを捕まえ、カエルも、ネズミも狩っています。獲物に跳びかかる直前の瞬間に瞳孔が少し開くなど飼い猫の変化を見られます。

これが放送された時(2007年頃)は、視聴者のみなさんには大変な面白さを感じていただけたようで、クレームの電話も寄せられなかったとのことです。

しかし、2021年4月2日に同映像をYouTubeに公開したところ、「お叱りの声」のコメントが付くなど、反応が変わってきたようです。

予想外!猫の驚くべき狩猟能力

イリオモテヤマネコ
イリオモテヤマネコ提供:アフロ

なぜ、このような「お叱りの声」が寄せられるようになったのかを「狩猟本能」の点から見ていきましょう。

「どうぶつ奇想天外!」が終了した後、2010年代に入り世界各地で調査が進むと、猫の狩猟能力が予想よりずっと高いことがわかってきました。

TBS NEWS DIGに以下のように、書かれています。

▼2020年・CNN

世界6カ国925匹の放し飼いされているネコにGPSをつけて追跡、行動を調査した研究『キャット・トラッカー』について。

「室内で飼育されていない飼い猫は、小鳥やウサギ、リスなどの野生生物に予想以上の被害を生じさせているという研究結果が、このほど学会誌に発表された。

放し飼いの飼い猫の方が、同程度の大きさの野生の捕食動物に比べて殺す獲物の数が多く、野生生物に与える影響は2~10倍大きいと研究チームは指摘している。」

つまり、エサを十分にもらっている飼い猫でも、自然の中に出ると「狩猟本能」が働き、満腹でも昆虫や小動物を狩ることがあります。

このような現象は日本でも問題視されており、希少野生動物とノネコ(捨てられて完全に野生化したイエネコ)の関係がアプローチされています。

具体的には、沖縄県のやんばる地域のヤンバルクイナや西表島のイリオモテヤマネコ、奄美大島のアマミノクロウサギなどが問題になっています。

また、2020年には写真コンテスト「BigPicture Natural World Photography Competition」の人・自然部門で最優秀賞に輝いた作品があります。

写真家ジャック・ワンダリー氏の作品で、2019年にカリフォルニア州の動物病院「ワイルドケア」に運び込まれ、猫に捕獲された野生の鳥類、げっ歯類、爬虫類などが綺麗に並べられた写真です。この写真は、猫が自然の小動物を捕らえるという現実を示しています。

世界に目をやると、実際に猫によって絶滅させられた野生小動物がいます。

一例として、ニュージーランドのスティーブン島に生息していたスティーブンイワサザイという鳥は、1890年代に島に持ち込まれた猫により絶滅したと考えられています。

こんな猫の習性からノネコは国際自然保護連合が定めた「世界の侵略的外来種ワースト100」に選ばれています。

猫を完全室内飼いする理由

イメージ写真
イメージ写真写真:イメージマート

猫を外に出すと、「自然生態系に対して悪影響を及ぼす」ということです。希少野生動物の問題は注目されがちですが、それ以外にも猫はハンティングするので、身近な自然の生態系を崩しているかもしれないのです。

人は、移住するときに、いままで猫がいなかったところに猫を連れて行くことがあります。そのとき、猫の放し飼いをしてしまうと、猫の習性としてハンティングすることがあるのです。

たとえば、奄美大島では人が住み着いたときに猫を持ち込んだのです。畑や集落の辺りには、猛毒を持つハブがいます。ハブは、エサとなるネズミを求めて人の生活圏にも出没するのです。そのため、猫を放し飼いにして、ネズミを捕獲させることによって、ハブが近づかないようにしたのです。

奄美大島では猫はペットという存在であると同時に、ネズミ対策やハブ対策なのです。このような人の行動で、奄美大島に生息しているアマミノクロウサギの個体減少が問題になり、いま猫の対策も取られて個体数は回復傾向にあります。

まとめ

イメージ写真
イメージ写真写真:イメージマート

猫を外に出してはいけない理由は、いままでは猫のウンチや尿などの排泄問題がありました。

猫自身の問題としては、交通事故や猫同士の交配や喧嘩で猫が伝染病にかかる、マダニによる感染症であるSFTS(重症熱性血小板減少症候群)に感染する、そのうえ猫を虐待する人がいるなどがありました。

今回は、猫の習性が科学的に解明されて野生動物をハンティングすることが問題になっています。このようなことがわかってきているので、猫を飼えば不妊去勢手術をして自然を守るためにも完全室内飼いにしましょう。

以前、シッポをケガをしたリスを治療をしたことがありました。そのリスは飼い主によく慣れた手乗りのリスでした。飼い主が新聞を取りにいくときに、肩に乗せて外に出たら、隣の飼い猫がそのリスのシッポをくわえて自宅に持ち帰りました。

シッポにケガをしていたので、動物病院に治療に来られたというわけです。

このように猫は機敏に小動物をハンティングする動物だということをよく理解してください。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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