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「保護猫」や「保護犬」を流行で終わらせるのではなく、日本に定着させるために

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:Nobuo_I/イメージマート)

環境省の「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」によりますと、殺処分された数は、平成30年度が38,444匹、令和元年度が32,743匹と年々減少傾向にあります。これは、以前より「保護猫」「保護犬」という考えが浸透したことは喜ばしいことです(まだ多いですけれど)。

多くの人が、新しい家族を迎えるときに「保護猫」「保護犬」を考えてもらえるように、少しずつなってきています。それが一時の流行ではなく定着してもらうことは大切です。「保護猫」「保護犬」を飼ったのはいいけれど、飼いきれなくて飼育放棄を生み出さないためにどうすればいいか考えていきましょう。

「保護猫」「保護犬」を家族に迎えるということは?

まずは、保護猫や保護犬を飼うということは、もしかしたら、殺されていたかもしれない命を助けることができるということです。命のリレーをつなげる担い手になれるのです。

保護猫や保護犬は、人間が作り出したものです。野良猫や野良犬は日本にはいなくて飼い主が飼育放棄した結果、生み出されたものですね。そんな子たちの命を預かることができるのです。

このような考え方が多くの人に理解していただければ、殺処分になる猫や犬たちはもっと減っていくことでしょう。

「保護猫」「保護犬」を家族に迎えるときの心の準備

写真:PantherMedia/イメージマート

SNSでかわいい投稿を見て、猫や犬をすぐほしくなり、そういえば保護猫や保護犬というのもあるので、そこの子を家族に迎えようとする人がいます。

しかし実際にそのことを行動に移すと、いろいろとハードルがあります。そのことについて疑問があると思います。具体的に見ていきましょう。

審査がきびしすぎるのじゃないの?

ペットショップでは、お金さえ出せば、すぐに猫や犬を買い求めることができます。たとえば、大型犬のラブラドール・レトリバーなどは散歩の時間が長くかかる犬です。そんな犬でもひとり暮らしで仕事の忙しい人でもペットショップなら、すぐに購入できます。

しかし、保護猫や保護犬などは、高齢者やひとり暮らしの人には、なかなか譲渡してくれないこともあります。どのような条件の人に譲渡するかは、各団体によって違いますので、尋ねてください。

保護猫や保護犬の譲渡の条件がきびしいのは、その子を終身飼育してもらうためなのです。一度、飼い主に放棄された過去がある子が多いので、新しい里親のところでは、ずっと愛情を持ってもらうためです。

病気を持っているんじゃないの?

ペットショップのショーウインドウに並んでいる子は、基本的には遺伝的な疾患がなく元気な子猫や子犬です(中には、犬ならケンネルコフの子や猫なら胃腸疾患を持っている子もいます)。

その一方で、保護猫ならFIV(いわゆる猫エイズ)やFeLV(猫白血病ウイルス感染症)を持っている子、保護犬ならフィラリア症を持っている子もいます。

保護猫や保護犬は、若い子とは限らないので、以下の病気を持っている子もいます。

(猫)

慢性腎不全

がん

心臓病

(犬)

がん

心臓病

などです。

それも全部、承知の上で新しい飼い主になってもらうことになりあす。

アフターフォローがペットショップの方がいいのでは?

写真:PantherMedia/イメージマート

ペットショップが全部というわけではありませんが、一定期間に子猫や子犬が病気などをすれば、他の子と交換してくれるシステムがあるところもあります(交換という制度はどうかな、筆者は思いますが。1日でも家族として迎えた子を他の子となかなか代えることはできないものです)。

あるいは、系列の動物病院でしばらく入院させてくれるところもあります。

保護猫や保護犬はそういうことはないところが多いです。

その一方で、トライアル期間というものがあり、一緒に暮らしてみて飼えないと思うと里親を解消できます。同じように、保護施設から見てこの人は、ちょっと保護猫や保護犬を飼うのは難しいと判断すると、里親を解消させることもあります。

猫や犬の寿命は、10年以上ある子がほとんどなので、一緒に暮らすことは、慎重にした方がいいです。

保護猫や保護犬の里親になって、気をつけてほしいこと

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

保護猫や保護犬の里親になっていただくことは、もしかしたら殺処分されていたかもしれない命を救うということなので、本当にありがたいです。里親になっていただいたときは、その気持ちで、心の中に温かいものがあります。

いざ、保護猫や保護犬を飼い出すとやはりこんなはずではなかったと思うこともあります。そのことを具体的に見ていきましょう。

シニアの子の里親になった

里親になった時点では、病気を持っていなかったけれどシニア期(おおよそ7歳以上)になったら、猫なら慢性腎不全や心臓病やがんになったり、犬なら心臓病やがんになったりと予想していた以上に治療費がかかり、世話がたいへんだったりします。

放棄された過去がある

保護猫や保護犬の中には、過去に虐待された子がいます。飼い主の理不尽な理由で叩かれたり、野良猫や野良犬であれば、そこにいるだけで水をかけられたりしています。

あるいは、キトンミル(子猫工場)やパピーミル(子犬工場)などから保護された子はネグレクト状態の子もいるわけです。

そのような子は、メンタルが不安定なこともあります。なかなか懐かず、部屋の隅に隠れている子もいるのです。

長い時間をかけて、その子との信頼関係を築く必要があります。あなたのことに気を許してくれたと思っていても、撫でようとして顔の近くに手を持っていくと犬なら口角をあげて威嚇する、猫ならシャーといって威嚇することもあります。

「保護猫」「保護犬」を流行で終わらせないために

写真:アフロ

もちろん犬や猫を飼うときに「保護猫」や「保護犬」を迎えてもらうことは、本当に頭が下がります。

やはりいろいろな過去を持っている子がいるので、ペットショップで買うより、たいへんなこともあります。そのことは、頭で理解していてもたいへんかもしれません。

SNSで動物の保護活動を知って、多くの人に称賛されているのを見て、私もやってみようと思っていざ保護猫や保護犬をもらったけれど、毎日、世話をかかすことができない現実に向き合うことになるのです。

保護猫や保護犬を飼うことは、動物に対して知識や理解がある人が望ましいです。保護猫や保護犬の里親になることは、動物に対して意識が高いと思ってもらえるからやってみようではなく、じっくり命と向き合える人が飼わないと終身飼育が難しくなることもあります。

日本でも猫や犬の理解が深まり、保護猫や保護犬を飼うことを啓発しなくてもひとつの選択肢になることを願います。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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