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ひとり暮らしで猫を多頭飼いしていた母が認知症に。そのとき息子が取った行動とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:Picmin/イメージマート)

多頭飼育やペットの虐待などの罰則引き上げなどを盛り込んだ改正動物愛護法が2020年6月1日から施行されています。そのため、多頭飼育崩壊などのニュースをよく目にするようになりました。自分は飼っていないから、多頭飼育などは関係がないと思っていませんか。親がペットを飼っていて、なにかがあると子どものところまで影響してくるのです。今日は、そのことについて具体的に見ていきましょう。

プロボクサー・島川大器さんは亡き母が残した18匹の猫を保護

まいどなニュースによりますと、大阪府に住むプロボクサー・島川大器さん(36)は、急逝した母が残した猫18匹の世話をし続けています。18匹の猫だけが住んでいる“猫家”に立ち退き問題が浮上し引っ越しました。そして、新居は300万円の借金をして猫仕様に改造したということです。島川さんは1匹も里親に出すことなく飼われています。なかなかできることではありませんね。そのことがネットで話題になっていました。

ひとり暮らしの親が猫好きで、猫を拾ってきて多頭飼育崩壊になるケースは珍しいことではないのです。つぎに筆者の病院であった話を紹介します。

Oさんは猫をすぐ拾ってきて多頭飼育に

猫好きのOさんは、ニコリと笑ってよく診察室に現れました。

「センセイ、職場に子猫が捨てられていたので連れてきました。目ヤニがすごいから診てやって」とOさんは、生後2カ月ぐらいの子猫を何度も連れてきていました。

そんな生活をされていたので、Oさんのうちには猫が多数いました(常時、6,7匹飼われていました)。「息子に怒られるから避妊手術を頼む」とOさんは、猫を複数匹連れてはきますが、飼っている子は全て不妊去勢手術がされていました。数年は、Oさんは猫を連れてひとりで来院されていました。やがて、息子さんと一緒に来られるようになりました。

筆者が「優しい息子さんがいていいですね」というと「猫を飼うなといってね。うるさいですよ。こんなかわいいのに」といって愚痴をこぼしていました。

しかし、時間は流れて、Oさんが診察に来られなくなりました。実はOさんは認知症になり猫の症状を正しく説明することができなくなったのです。

Oさんの息子さんは猫の命を繋いだ

Oさんが筆者の病院に来られているときは、息子さんは付き添いであまり話されることはありませんでした。しかし、お母さんの代わりに猫を連れて来られるようになり、ポツポツと話すようになりました。

「おふくろのところに様子を見にいったら、猫があまり食べていないというから連れてきました」と息子さんは教えてくれました。筆者が血液検査をしたところ、猫はシニアになっていたので慢性腎不全になっていました。

「自宅で皮下点滴をしますか」と筆者は提案しました。息子さんは「おふくろがひとりでは無理だし、僕もちょっと怖いので、連れてきます」ということでした。

それから、息子さんは、週に1回か2回来院するようになりました。「最近は、ひとりで買い物に行って、帰ってくるのに、時間がかかるようになった」と息子さんは話していました。それから、Oさんはひとりで帰ってこられなくなり、警察に保護してもらうようになりました。Oさんはひとりで住んでいるのは危ないということで、老人介護施設に入ることになったそうです。でも、猫を連れて施設に入ることはできず。猫は実家に置いていくことになりました。

Oさんの家は、猫だけが住む家になりました。息子さんは猫を手放すことをせず、猫の世話に通うことにしたのです。息子さんは、仕事の帰りに実家により、週に数回、猫を病院に連れてきて自宅に帰るという生活を続けていました。

やがて「先生、この子が最後の猫になりました」と息子さんにいわれました。その子も慢性腎不全になり、息子さんに看取られて亡くなりました。

このようにしてOさんのところにいた猫は、息子さんに命を繋いでもらったのです。たまたま猫に優しい息子さんがいたからよかったです。

一般的には、猫を飼っている人の子どもは、猫の世話をすることができず殺処分になるケースもあります。親が猫好きだった場合は、どうするかを次に考えましょう。

年老いた親が猫を飼っていたら

写真:Paylessimages/イメージマート

実家を離れて、独立している子どもであっても、親になにかがあれば、そこで飼われている猫は、自分のところに回ってきます。それで困ることがないように、以下のことに気をつけましょう。

不妊去勢手術をしましょう

年に何回か帰省して、家の中でペットを飼っていないか知っておきましょう

犬や猫は、いまや十数年間生きるので、親の年齢を考え飼いましょう

ペットを飼う場合は、終身飼育が基本です。ペットの寿命は飛躍的に延びていますので、親が年老いて若い犬や猫を飼うと最後まで面倒を見られないこともあるということを理解しておきましょう。

ひとり暮らしでさみしいくついついペットを飼ってしまうのは、理解できます。しかし、ペットは1匹で生きていけないので、だれか世話をする人が必要です。飼い主になにかあったらどうするか?も考えて飼育を始めてもらいたいですね。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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