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コロナ禍の中、感染症としての狂犬病 発症すれば致死率100%のリスクを今どう考える?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:ロイター/アフロ)

4月は、犬にとって狂犬病予防注射のシーズンですね。新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、この狂犬病予防注射にも影響が出ています。感染拡大地域では、狂犬病予防注射の集合を中止したりや延期したりしている地域もあります(各自治体のサイトで確認してくださいね)。動物病院だけで狂犬病予防ワクチンをしているところも増えています。

狂犬病は、いま問題になっている新型コロナウイルスと同じように感染症なのです。今日は、発症すると致死率100%の怖い病気である狂犬病について考えましょう。

狂犬病とは

日本では、1957年以降、狂犬病の自然発生は見られません。しかし、国内で狂犬病を発症して死亡した日本人が、1970年に1人、2006年に2人で確認されています。それぞれ、旅先で感染し帰国後発症して死亡しています。よその国の病気なので狂犬病予防注射を受けなくても大丈夫だと思っていませんか。狂犬病予防法という法律があり、犬を飼っている人は、生後90日を過ぎると狂犬病ワクチンを打つことが義務化されています。新型コロナウイルスと同じ狂犬病も感染症なのです。

感染とは、細菌やウイルス、真菌や原虫などの病原体が、体内に入って増えることをいいます。狂犬病も忘れてはならない感染症のひとつです。しかし、いまの日本人のほとんどの人が実情を知りません。

病原体

ラブドウイルス科に属す狂犬病ウイルス

感染経路

・狂犬病にかかった動物(罹患動物。アジアでは主にイヌ)に咬まれた部位から、唾液に含まれるウイルスが侵入。

・ヒトからヒトに感染することはない。

症状

(人)

・潜伏期間 1~3カ月間程度

・前駆期:発熱、食欲不振、咬傷部位の痛みや掻痒感

・急性神経症状期:不安感、恐水症(水を怖がり飲めなくなる)及び恐風症(風に当たると痙攣をしたりする)。興奮性、麻痺、幻覚、精神錯乱などの神経症状

・昏睡期:昏睡(呼吸障害によりほぼ100%が死亡)

(犬)

・潜伏期間 2週間~3カ月間程度

・前駆期:性格の変化と行動の異常

・狂躁期:興奮状態(無目的な徘徊、目に入るものを頻繁に咬む)。人と同様に、恐水症や恐風症がある。音の突然刺激に対する過敏な反応

・麻痺期:全身の麻痺症状による歩行不能。咀嚼筋の麻痺による下顎下垂と嚥下困難。舌を口外に垂らしながらよだれを出す。昏睡状態になり死亡。

発生状況

狂犬病の清浄国(2019年)

・日本

・ニュージーランド

・オーストラリア

・スカンジナビア半島

・英国の一部

・フィジー

・グアム

・ハワイ

 など

狂犬病の発生地域(2019年)

世界中150カ国で存在します。

[https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/ 狂犬病発生状況 厚生労働省 狂犬病
[https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/ 狂犬病発生状況 厚生労働省 狂犬病

予防と対策

狂犬病発生地域で、適切な医療機関のないところで長期滞在する場合は、人用の狂犬病のワクチンを接触します。

狂犬病ワクチンの打ち方

・人用の狂犬病ワクチンを4週間間隔で2回、その後、6~12カ月後に追加接種

予防

・動物(野生動物)には手を出さない。

・動物には近づかない。

異様な声をあげたり、興奮している動物を見つけたら、特に距離を取りましょう。

もしも咬まれたら

狂犬病の危険性のある動物に咬まれたり、引っ掻かれたら、以下のようにしてください。

・すぐに石鹸で洗い、15分以上は流水で洗い続けましょう。

・止血しない。傷口を舐めたり、吸ったりしない。口の粘膜から狂犬病ウイスルが入る可能性もあるので。

・その後、傷口を消毒アルコールかイソジンで消毒する。

・ただちに現地の医療機関に行く。帰国していると手遅れになる場合もあるので。

狂犬病はワクチン接種するか、ただちに抗狂犬病免疫グロブリンを接種しないと、発症すれば100%命を失う病気です。現地の大きな病院で必ず治療を受けて、帰国時には免疫所により検疫官(医師)に、日本での今後の対応の指導を受けてくださいね。2006年にフィリピンを旅行中、犬に咬まれ帰国後発病、死亡した輸入症例がありますから。

現在

日本では、狂犬病の発生はないですが、密輸や何がしかの事故で、狂犬病ウイルスが日本に侵入する可能性もあります。今回の新型コロナウイルスで、理解しているように、感染症は科学的に正しい知識がないと広がる可能性を孕んでいます。

まとめ

日本にいま、狂犬病が発症していないので狂犬病ワクチンを接種しなくてもいいかな、と思っていませんか。グローバル化の時代になり、人やものや動物も早い速度で移動します。医学が進歩している日本ですが、それでも完治するのが難しい感染症があることが、新型コロナウイルスを通してよく理解できました。

現代を生きる私たちでも、実は怖い感染症・狂犬病なのです。狂犬病は、犬にワクチンを打っていると予防できるものです。そして、狂犬病の常在する国に行くときは、予防と対策で書いたことを注意してくださいね。世界には、エボラ出血、ノロウイルス、風疹、デング熱、マラリアなどたくさんの感染症があります。そのことも知っておくことは、大切ですね。感染症は侮れません。いつ牙を剥くかわからないですね。

参考サイト

厚生労働省 狂犬病

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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