Yahoo!ニュース

「舌」の筋力が低下すると「サルコペニア」になるリスクが増える、岡山大の研究

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(提供:イメージマート)

 サルコペニアは、加齢により全身の筋肉量が減って筋力が著しく低下することだ。岡山大学の研究グループが、舌の筋力(舌圧)低下により、高齢者の栄養状態が悪くなり、その結果としてサルコペニアになるリスクが増えることを示す研究を発表した。

サルコペニアとは何か

 高齢者のサルコペニアは、自立した生活を損なうリスクをはらんでいる。転倒して骨折したり、筋肉量の低下による代謝へ悪影響をおよぼすなどする。サルコペニアは、フレイル(加齢によって心身が衰えた状態)とも関係し、要支援状態から要介護になってしまうリスクもある。

 サルコペニアを予防するためには、筋肉量を減らさないための運動とともにタンパク質などの摂取といった栄養状態の維持も重要だ(※1)。そして、十分な栄養を摂取するためには、消化吸収機能はもちろん、咀嚼したり飲み込んだりできる状態にあることが必要となる。

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の稲田さくら大学院生、岡山大学学術研究院医歯薬学域予防歯科学分野の江國大輔教授らの研究グループは、舌の筋力(舌圧)が強い高齢者が栄養状態が良好で、サルコペニアの人が少ないことを明らかにし、学会誌へ発表した(※2)。これまで歯の本数などの口腔内の状態とサルコペニアとの関係について、十分な研究はほとんどなかったという(※3)。

舌圧を維持・改善することがサルコペニア予防に

 同研究グループは、2022年10月から2023年6月の間、岡山大学病院歯科外来を受診した60歳以上の患者を対象に、サルコペニア、口腔状態、栄養状態、精神・心理状態、併存疾患を調査(前後の時系列でみない横断研究)した。口腔状態の評価は、舌の細菌数、口腔内の湿潤度、舌圧、咬合力、唇や舌の微細な機能(オーラルディアドコキネシス)、咀嚼機能、嚥下機能、現在の歯の本数とした。

 その結果、特に舌の筋力(舌圧)が強い高齢者が栄養状態が良好で、サルコペニアの人が少なく、舌圧の値が低いほど栄養状態が悪く、栄養状態が悪いほどサルコペニアになるリスクが増えることがわかったという。また、年齢が上がるほど舌圧が低くなり、サルコペニアになる割合が増えた。

 その他の評価項目と強い関連はみえなかったという。ただ、研究の限界として対象者を大学病院の予防歯科外来を定期的に受診している自立した高齢者としたので、それが結果に影響しているのではないかという。

 これまでの研究では、高齢者の口腔状態と栄養接種との間に関連があることがわかっている(※4)。今回の研究では、特に舌圧とサルコペニアとの関連が示されたことになる。

 舌圧も舌を含む口腔内の筋力が重要だ。同研究グループは、口腔体操などにより高齢者の舌圧を維持・改善し、十分な栄養摂取をすることが、サルコペニアを予防する方法の一つになるのでないかとしている。

※1:藤田聡、「サルコペニア予防に向けた栄養・運動のアプローチ」、日本栄養・食糧学会誌、第76巻、第5号、297-303、2023年
※2:稲田さくら、「口腔状態とサルコペニアとの関連についての横断研究」、口腔衛生学会雑誌、第74巻、第1号、2024年
※3:Mizue Suzuki, et al., "Relationship between characteristics of skeletal muscle and oral function in community-dwlling older women" Archives of Gerontology and Geriatircs, Vol.79, 171-175, November-December, 2018
※4:西村圭織、栢下淳、「通所リハビリテーション利用の高齢者における栄養状態と口腔・嚥下機能および食事摂取状況の関連」、日本摂食淵源リハビリテーション学会雑誌、第26巻、第3号、2022年

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

石田雅彦の最近の記事