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マスク着用で「花粉症」が減ったのは本当か

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(提供:イメージマート)

 マスクはすっかり日常生活に定着したが、最近の研究によればマスク着用でアレルギー性鼻炎の患者が少なくなっているようだ。花粉症とマスク着用を考える。

マスクは花粉を防ぐのか

 花粉症の季節だが、2024年の花粉飛散量は平年よりも多めという。花粉症の症状には、くしゃみ・鼻漏型や鼻閉型などがあるが、鼻閉型のアレルギー性鼻炎だけでも推計で年間約4兆5000億円以上の経済的損失があるとされる(※1)。

 花粉症は、植物の花粉によるアレルギー性鼻炎で、スギやヒノキ、ブタクサ、カバノキの仲間、イネ、ヨモギなどが花を咲かせる季節に発症が多い。日本は南北に長いので花粉の季節も地域によって差があり、九州では1月からスギ花粉が飛散し始め、北海道では6月くらいまでヒノキの花粉が残る。

 新型コロナの流行以降、外出時にマスクを着用する人が増えた。花粉症の予防や症状の軽減には、以前からマスク着用が効果的という研究が多くある(※2)。

 また、新型コロナのパンデミックで多くの人がマスクを着用するようになったが、それによる花粉症への予防効果についても研究が出されている。イスラエルの看護師を対象にしたアンケート調査によれば、医療用マスク(N95)を着用したアレルギー性鼻炎の患者で症状の軽減が明らかになったという(※3)。

 ドイツの研究グループが花粉症によるアレルギー性鼻炎の患者14人を対象にした調査研究によれば、マスクの着用により症状が軽減した。また、花粉の曝露が減ることで幸福感も上がったという(※4)。

 トルコの研究グループによるアレルギー性鼻炎の患者50人を対象にした調査研究によれば、新型コロナによるマスク着用で症状が重い患者が大きく減ったという。特に、くしゃみ、鼻水が出なくなるといった効果があった(※5)。

 さらに、別のトルコやルーマニアの研究グループが出したアレルギー性鼻炎とマスクの関係を文献検索し、比較検討した論文でも、アレルギーの原因物質を回避するためにマスクの着用は有効としている。ただ、やはり顔に密着するよう、正しく着用することが重要と指摘している(※6)。

 以上により、マスクの着用で花粉症の患者が減っているのは確かなようだ。また、これは論文にはなっていないが、福井大学医学部耳鼻咽喉科などの研究チームは2022年2月、スギ花粉症に関する福井県内の児童約2万2000人分のアンケート結果を発表し、マスク着用により、新規の花粉症の発症率が2分の1に抑制されたと発表している。

 ところで、花粉症によるアレルギー性鼻炎には、第2世代の抗ヒスタミン薬や舌下免疫療法などの効果的な治療法が出始めている。症状の程度などに応じて治療法も異なるので、早めに医療機関を受診することが重要だ。

時にはマスクを外すことも重要

 市販されている多くの不織布マスクの製品は、5マイクロメートル以上の粒子をフィルタリングできる。PM2.5(2.5マイクロメートル)を防ぐためには、医療用マスク(N95、0.3マイクロメートル以上)が必要となる。

 だが、花粉症を引き起こすスギやヒノキなどの花粉の直径は約30マイクロメートルから35マイクロメートルとされ、顔に正しくフィットさせるマスクの着用によって口や鼻へ花粉が入ることを防ぐ効果がある。また、カビの胞子の大きさは2マイクロメートルから10マイクロメートルとされ、不織布マスクでは十分ではないものの、アレルゲンとなる多くのカビの胞子をとらえることが可能だ。

 ちなみに、タバコの煙の大きさは0.1マイクロメートル程度とされ、多くのウイルスも同様にマスクではとらえられないサイズだが、マスクの繊維のファンデルワールス力などによって侵入を防ぐことができると考えられている(※7)。

 最近、ロート製薬が発表した「子どもの花粉症実感、10年前32.7%→現在42.6%に増加 小学生では約半数が花粉症実感、家32.1%『とても辛い』 一方で3割以上の親が子どもの花粉症の症状を把握していない」という調査レポートによると、親による子どもの花粉症対策の第一位がマスク(60.9%)だった。

 この調査レポートにコメントを寄せている日本医科大学医学部教授で医師の大久保公裕氏によると、子どもの花粉症が増えている原因として、子どもの生活環境や行動が変化し、外で遊ぶことが減って細菌に触れる機会が少なくなり、免疫が変化して本来は害のない花粉に免疫反応を起こしていること、そして花粉症の発症率の高い親世代の体質が子どもへ影響していることを指摘している。

 マスクは花粉症などを防ぐ効果があるが、同時に他のアレルギーの原因物質もシャットアウトする可能性がある。マスク着用による免疫機能の低下に関するしっかりした研究はほとんどない(※8)。

 ただ、マスク着用による、呼吸、ストレス、コミュニケーションなどへの悪影響が懸念されているのも確かだ(※9)。花粉の曝露の心配がなかったり、感染症のリスクが少ない場所などではマスクを外すことも重要だろう。

※1:岡本美孝、「鼻閉を伴うアレルギー性鼻炎に係わる経済的損失」、医薬ジャーナル、第50巻、第3号、2014年3月
※2-1:榎本雅夫、「治療法としての抗原回避の効果」、医薬ジャーナル、第38巻、3275-3278、2002年
※2-2:Minoru Gotoh, et al., "Inhibitory effects of facemasks and eyeglasses on invasion of pollen particles in the nose and eye: a clinical study" Rhinology, Vol.43, 266-270, 1, June, 2005
※3:Amiel A. Dror, et al., "Reduction of allergic rhinitis symptoms with face mask usage during the COVID-19 pandemic" The Journal of Allergy and Clinical Immunology In Practice, Vol.8, Issue10, P3590-3593, November, 2020
※4:Karl-Christian Bergmann, et al., "Face masks suitable for preventing COVID-19 and pollen allergy. A study in the exposure chamber" Allergo Journal International, Vol.30, 176-182, 14, July, 2021
※5:Erdem Mengi, et al., "The effect of face mask usage on the allergic rhinitis symptoms in patients with pollen allergy during the covid-19 pandemic" American Journal of Otolaryngology, Vol.43, Issue1, January-February, 2022
※6:Oguzhan Oguz, et al., "Facial mask for prevention of allergic rhinitis symptoms" Frontiers in Allergy, doi: 10.3389/falgy.2023.1265394, 6, December, 2023
※7-1:Derek K. Chu, et al., "Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis" THE LANCET, Vol.395, Issue10242, P1973-1987, 27, June, 2020
※7-2:Jeremy Howard, et al., "An evidence review of face masks against COVID-19" PNAS, Vol.118 (4) e2014564118, 11, January, 2021
※7-3:Wei Deng, et al., "Masks for COVID-19" ADVANCED SCIENCE, Vol.9, Issue3, 25, January, 2022
※7-4:Zillur Rahaman, et al., "Face Masks to Combat Coronavirus(COVID-19) - Processing, Roles, Requirements, Efficacy, Risk and Sustainability" polymers, Vol.14(7), 1296, 14, March, 2022
※8:Rojan G M Al-Allaff, et al., "Some Immunological Impacts of Face Mask Usage During the COVID-19 Pandemic" Pakistan Journal of Biological Sciences, Vol.24(9), 920-927, January, 2021
※9-1:Monica Gori, et al., "Masking Emotions: Face Masks Impair How We Read Emotions" frontiers in Psychology, Vol.12, Article 669432, 2021
※9-2:Juliane Schneider, et al., "The Role of Face Masks in the Recognition of Emotions by Preschool Children" JAMA Pediatrics, Vol.176(1), 96-98, 15, November, 2021

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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