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「加熱式タバコ」の喫煙者は味覚が変化し、「不健康な食生活」に?

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
現行法で加熱式タバコの専用喫煙室では飲食が可能だ。写真撮影筆者

 喫煙者は味覚や嗅覚が変化し、唾液の量も減ることがわかっているが、今回、加熱式タバコの喫煙者の食品と飲料の嗜好についての研究が出された。加熱式タバコと紙巻きタバコの喫煙者とでは、いったいどのように嗜好が変わるのだろうか。

喫煙者は塩分過多になるリスクが

 我々ヒトの味覚は複雑で、生まれ育った環境や生活習慣、体調、かかっている病気、加齢などによって影響される。その最たるものがタバコだ。

 味覚を感じる舌の表面には、乳頭という小さな突起があり、この乳頭に味蕾がある。これまでのいくつかの研究から、喫煙者では特に舌の先にある茸状(じじょう)乳頭の数が少なくなっていたり、舌の血管に変化が起きているのではないかと考えられている(※1)。

 また、タバコを吸うと、特定の味覚を強く感じるという研究もある。米国の2374人を対象にした味覚に関する調査によれば、喫煙者は苦味(キニーネ)と酸味(クエン酸)を非喫煙者より強く感じることがわかっている(※2)。

 慶応大学医学部などの研究グループによる日本人1116人を対象(神戸研究)にした塩味に関する研究では、現在喫煙者の群は喫煙経験のない群と比較し、塩味の感じ方が鈍いことがわかった(※3)。同研究グループは、喫煙者は塩分摂取量が多くなる傾向があり、高血圧などになるリスクがあると警告している。

加熱式タバコの喫煙者は味の濃い食べ物を好む?

 今回、京都女子大学の研究グループが発表した研究によれば、加熱式タバコの喫煙者は紙巻きタバコの喫煙者に比べ、より不健康な食事を好む傾向のあることがわかったという(※4)。

 この研究では、インターネットで募集した657人(非喫煙者178人、紙巻きタバコ喫煙者242人、加熱式タバコ喫煙者237人)を対象に、 タバコを吸った後にどのような食べ物や飲み物を食べたり飲んだりしたくなるか、どんな味付け(甘味、塩味、酸味、苦味、旨味、油っぽい、辛い、スパイシー)を食べたくなるか、好みの調味料(砂糖、お酢、醤油、味噌、マヨネーズ、ソース)、好きな調理法(揚げ物、炒め物、焼き物、煮物、蒸し物、和え物、茹で物)、好きな料理のジャンル(和食、中華、洋食、韓国料理)を質問し、年齢・性別・体重・身長・BMI、喫煙状況などをアンケート調査し、結果を比較して統計解析を行った。

 その結果、加熱式タバコの喫煙者は紙巻きタバコの喫煙者よりも、ラーメンやスパゲッティ、肉料理などを好み、味付けが濃い炒め物や揚げ物などの油っこい食べ物(洋食や韓国料理)を欲する傾向のあることがわかった。同研究グループは、加熱式タバコのニコチン濃度の低さが喫煙者に味付けの濃い食事での満足感を求めさせ、また加熱式タバコに多く含まれるプロピレングリコールやグリセロールが味覚に影響を与えて味の好みを変えているのではないかと推測している。

喫煙者は食生活に注意が必要

 喫煙者が不健康な食生活になるという事例は過去研究でも多い。例えば、ニコチンの薬理作用のため、長期的にみると喫煙者はメタボのリスクのあることはわかっている(※5)。

 米国で5293人を対象にし、喫煙者の食生活を明らかにした研究によれば、喫煙者の食事はエネルギー密度の高いものになりがちで、高カロリーだが少ない量の食べ物を摂る傾向にある(※6)。エネルギー密度でいえば、非喫煙者の食事は1.79kcal/g、時々吸う喫煙者は1.89kcal/g、毎日吸う喫煙者は2.02kcal/gだった。

 一般的にタバコを吸う人は、非喫煙者より自分の健康に気をつけない傾向がある。また、喫煙者は社会経済的にも恵まれない人が多く、食生活や生活習慣が乱れがちだ。

 タバコにより嗅覚が減退し、唾液の量も減り、刺激的で高カロリー高エネルギーの食事でなければ満足できなくなっている喫煙者も多い。加熱式タバコにより、食品や飲料の嗜好が変化し、より健康に悪影響をおよぼす食生活になっているとすれば、喫煙とのダブルリスクになっているのかもしれない。

※1-1:Pavlidis Pavlos, et al., "Evaluation of young smokers and non-smokers with Electrogustometry and Contact Endoscopy" BMC Ear, Nose and Throat Disorders, Article number: 9, 20, August, 2009
※1-2:Asim Mustafa Khan, et al., "Comparison of Taste Threshold in Smokers and Non-Smokers Using Electrogustometry and Fungiform Papillae Count: A Case Control Study" Journal of Clinical & Diagnostic Research, Vol.10(5), ZC101-ZC105, May, 2016
※2:Mary E. Fischer, et al., "Taste intensity in the Beaver Dam Offspring Study" The Laryngoscope, Vol.123, Issue6, 1399-1404, 26, April, 2013
※3:若子みな美ら、「都市部住民における塩味味覚閾値の規定要因に関する検討:神戸研究」、日本公衆衛生雑誌、早期公開、10, February, 2023
※4:Kiho Miyoshi, et al., "Foods and Beverages Associated with Smoking Craving in Heated Tobacco Product and Cigarette Smokers: A Cross-sectional Study" Tobacco Induced Diseases, Vol.22, doi.org/10.18332/tid/175623, January, 2024
※5:J Auderain-McGovern, et al., "Cigarette Smoking, Nicotine, and Body Weight." Clinical Pharmacology & Therapeutics, Vol.91(1), 164-168, 2011
※6:Ross Maclean, et al., "More to gain: dietary energy density is related to smoking status in US adults." BMC Public Health, DOI: 10.1186/s12889-018-5248-5, 2018

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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