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「AI」で新たな感染症「パンデミック」対策が可能に? 日本発「病原体検査の新技術」とは

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
写真は本文と関係ありません(写真:アフロ)

 人類はパンデミックを引き起こす新型コロナウイルスのようなウイルスや別の未知の病原体の出現に警戒し続けなければならないが、いかに素早く簡単・安価にこれらの脅威を発見するかが危機管理の上でも重要になっている。最近、大阪大学と北海道大学などの研究グループがAIを使った病原体の検査技術を新たに開発した。

コールター原理とは

 新型コロナウイルスは変異を繰り返してきたが、現在も世界各地で多様な変異株が発見されている。新型コロナがどう変異するのかにも注意しなければならず、今後また未知の病原体が新たに出現してパンデミックを引き起こす危険性も高い。

 だが、例えば新型コロナウイルスでも、その変異株を素早く高精度に検査することはできていない。現在、新型コロナウイルスではPCR検査法を使っているが、最短でも2時間かかり、またコストや検査技術を持った人員の確保などのデメリットもある。

 新型コロナに限らず、パンデミックを拡大させないためには、できるだけ早く感染者を発見して隔離し、感染拡大防止対策を講じることが重要だ。PCR検査よりも早く正確に病原体の検査ができる技術があれば、パンデミックの拡大防止に役立てることができるだろう。

 最近、大阪大学と北海道大学などの研究グループが、コールター原理というものを使った検査法とAIを組み合わせ、新型コロナウイルスのオミクロン株など、スパイクタンパクの変異を高精度に識別できる技術を開発した(※)。

 コールター原理とは1940年代後半に開発された技術で、伝導性を帯びた液体に病原体やセラミックなどの検査対象の粒子を混ぜて懸濁(液中に粒子が分散している状態)化させ、微細な穴(細孔)を電荷を持つ粒子が通過する際に生じた電流とインピーダンス(交流電流の電圧の比)を測定することで、そのパルスの波形から粒子の大きさと数を知ることができるというものだ。

素早く正確な検査が可能に?

 同研究グループは、この微細な穴をシリコン半導体の薄膜の微細加工技術を応用して開け、再現性の高いパルス測定を実現した。

 これまで、新型コロナウイルスの武漢株については5分の検査時間で高感度・高特異度に識別できていたが、これは武漢株だけだった。今回の新たな技術によって患者の唾液により、10分の検査時間で感度100%、特異度96%で武漢株を含む新型コロナウイルスの変異株のスパイクタンパクを識別することに成功したという。

 また、この識別に使ったAIでは教師データの収集にパルスを使っているが、コールター原理では一度の計測で微細な穴を通過する無数の粒子の数だけデータを取得できることにより、機械学習に十分な教師データの収集が可能になる。このことで教師データの構築にかかるコストと手間を省くことができたようだ。

 今後、また新たな病原体によるパンデミックが発生した場合、その病原体の計測データをAIで学習させることで、素早く正確な検査手法を開発することが可能となるかもしれない。

※:Kaoru Murakami, et al., "High-precision rapid testing of omicron SARS-CoV-2 variants in clinical samples using AI-nanopore" Lab on a Chip, Vol.23, 4909-4918, 25, October, 2023

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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