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「ハロウィーン」では「子どもの交通事故」に要注意

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

 今日はハロウィーンだ。子どもにお菓子を配る家もあり、仮装した子どもが「トリック・オア・トリート」と叫びながら夜に外を出歩くことも多い。だが、ハロウィーン中は、子どもを含めた交通事故に要注意という研究もある。

ハロウィーンは交通事故の特異日か

 ハロウィーンが過熱し、あちこちで騒ぎを起こしたりゴミを捨てたりといった行動が問題視されているが、お菓子をもらえたり仮装できる子どもにとって楽しみな年中行事になっている。

 だが、欧米の研究者は、統計的な調査からハロウィーン中は子どもを含めた交通事故に要注意という内容の論文をいくつか出している。

 ハロウィーンでは、子どもがお菓子をもらうために仮装して各家々を回ったり、夜間に町に出てイベントに集まったりする。普段は外出しない時間や場所へ行く機会が増え、イベントには不特定多数が集まり、あちこちが非日常的な興奮状態になっている。

 カナダのブリティッシュ・コロンビア大学の研究グループが、2019年に米国の医師会雑誌『JAMA』の小児科版に出した論文によると、ハロウィーンで外出する場合、仮装をしているために視界が悪くなり、夜間で飲酒している場合も多く、歩行者が交通事故に遭う危険性が高まるという(※1)。

 この研究では、1975〜2016年までの全米で起きた致命的な交通事故の記録(Fatality Analysis Reporting System)から毎年10月31日の午後5時から午後11時59分までに発生した歩行者の死亡者数を、1週間前(10月24日)と1週間後(11月7日)の同時刻の数と比較した。その結果、調査期間中には158万608件の致命的な事故が起き、233万3302人のドライバーと26万8468人の歩行者が死亡していたという。

 調査期間中に42回のハロウィーン(10月31日)があり、42日間の夜に608人の歩行者の死亡事故が起き、比較した2日(全84回)では851人の歩行者が死亡事故で亡くなっていた。死亡者数を死亡率でみると、ハロウィーンの夜に交通事故で歩行者が亡くなる死亡率は2.07(1000人あたり)だった。これは比較した日の1.45よりも高い。

 また、ハロウィーンの夜に交通事故に遭う危険性は、他の日より43%(1.43倍)高く、子どもに限って分析してみると4〜8歳児の交通事故死がハロウィーンに起きる危険性は10倍(オッズ比10.00)になったという。米国の場合、ハロウィーン中の歩行者の死亡事故は午後6時に最も多く発生するようだ。

 ハロウィーンは非日常を楽しむイベントだが、そのために日常の危険を忘れがちになると研究者は警告する。また、警察を含めた行政は、ハロウィーンに興じる人々を交通事故から守るため、速度規制や取り締まりなどを強化すべきとも強調している。

なぜハロウィーンに子どもの交通事故が多いのか

 台湾や英国などの研究グループが2021年に発表した論文によれば、ハロウィーンの日の子どもの交通事故では、重症や死亡といった重大事故が他の日よりも34.2%も高くなることがわかったという(※2)。

 同研究グループは、英国における全ての交通事故のデータベース(STATS19)を用いて、1990年から2017年までの間、ハロウィーンの日の17時から19時までの間に起きた子どもの事故の重症度を他の日(平日、週末、祝日)の同時刻と比較した。その結果、ハロウィーンの日に重症や死亡の事故に遭遇する危険性が他の日より34.2%高く、特に自動車による事故、少女よりも少年、都市部よりも地方といった特徴がわかったという。

 研究者は、子どもは衝動的で、車がどれくらい離れているか、どれくらいの速さで近づいているかを適切に判断する能力がまだ十分に発達していないと指摘する。子どもの認知能力、身体能力、行動能力、感覚能力は、一般的に大人よりも低く、危機に直面した時に適切な判断を下すことができにくいとし、親や保護者も自分の子どものこうした能力を高く評価しがちだが、子どもは歩行者として特に事故に遭いやすいと注意をうながしている。

 ハロウィーンの日には、交通事故以外にも多くのリスクがあるようだ。

 米国のシカゴ大学の研究グループが、米国の保険請求データをもとにハロウィーンの日の交通事故や溺死、有害薬物による健康影響などのリスクを調べたところ、特に若い男性で転倒などによる負傷、自傷行為、他者からの傷害といったリスクが上がっていることがわかったという(※3)。

 また、カナダの研究グループが、1989年から2018年までの10月15日から11月15日の間にカナダのケベック州で発症した心筋梗塞の患者について調べたところ、ハロウィーンの日の翌日に発症(オッズ比1.13)が多くみられたという(※4)。研究グループは、この結果についてハロウィーンでジャンクフードを多く食べた影響かもしれないとしている。

 子どもの交通事故の多くは、住宅地の周辺で起きる。運転者が子どもの不意の飛び出しに気をつけるなどを含め、保護者もハロウィーンで視界がさえぎられるような仮装をし、お菓子を集めに出かけた子どもに十分注意させるべきだろう。

※1:John A. Staples, et al., "Pedestrian Fatalities Associated With Halloween in the United States." JAMA Pediatrics, Vol.173(1), 101-103, January, 2019

※2:Li-Min Hsu, et al., "Pediatric Traffic Injuries on Halloween in the United Kingdom: Prevalence and Injury Severity" International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.18(17), 9093, 28, August, 2021

※3:H. Zhang, A. Khan, "Risk of preventable injuries associated with Halloween" Public Health, Vol.189, 94-96, December, 2020

※4:Nathalie Auger, et al., "Halloween and myocardial infarction: A case-crossover study Halloween et infarctus du myocarde : une etude cas-croise" Archives of Cardiovascular Diseases, Vol.115, Issue1, 57-59, January, 2022

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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