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「先住ネコと新参ネコ」を仲良くさせるためには:最新研究から多頭飼いの極意を探る

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:イメージマート)

 ネコはあまり社会性が強い生き物ではない。先住ネコと新参ネコの仲が悪ければ、両者にとっても飼い主にとっても不幸なことになる。最新の研究から、ネコ同士の関係をヒトが理解するためのヒントを探る。

ネコ同士にストレスを感じさせない

 ネコは育ってきた環境や性格、現在の飼育環境などによって問題行動を起こすことがあり、その結果、捨てネコが増えたり、安楽死など無残な結末を迎えざるを得なくなることもある(※1)。多頭飼いは資金的にも住環境的にもよほど余裕がなければ推奨されないが、2匹目くらいならと考える飼い主も多い。

 ネコが2匹いる場合、子ネコ同士なら追いかけっこをしたりジャレ合ったりといった姿を見ることができる。大人のネコ同士では、あまりそうしたことはせず、つかず離れず適度な距離を保って過ごすことが多いようだが、大人のネコ同士でもジャレ合ったりすることもある。

 飼い主はもちろんヒトなので、ネコの気持ちを正確に知ることはできないが、知らぬ間にネコにヒトを投影し、擬人化して扱うことも多い。だが、社会的で協調的な動物であるヒトとは違い、基本的にネコは独立した縄張りを持ち、飼い主であるヒトとも対等の関係を築く。

 そのため、先住ネコがいる場合、そこへ2匹目の新参ネコを加える際には両者にストレスを与えないよう注意が必要だ。これに失敗すると、前述したような不幸なことになりかねない。

動画で2匹のネコを観察

 今回、英国などの研究グループが、2匹のネコの行動から関係性を探り、ヒトから見た両者の行動から、ジャレ合い、ケンカ状態、どちらでもない中間、といった関係性を探るためのヒントとなる研究を発表した(※2)。同研究グループは、ヒトから見てあいまいなジャレ合いかケンカ状態かを、飼い主が2匹目の導入時に判断できれば不幸な事態を避けることができるかもしれないとしている。

 同研究グループは、2匹のネコ同士の行動を記録したYouTube動画とネコの飼い主から提供された動画、合計105本(210匹。このうち38匹が子ネコ。動画の長さはバラバラ)を比較分析した。年齢、育った環境、性別などは記録していない。また、動画には飼いネコと野良ネコが混在している可能性がある。

 まず最初に、じっとしているような何も相互関係のない状態、取っ組み合い(レスリング)、追いかけっこ、毛を逆立てたり臭いを嗅ぐなどの行動、相手にかまわない自分遊び、鳴き声やうなり声、といった6種類の行動に分けた。

 同時に、同研究グループのうちの動物行動学の研究者ら4人が同じ動画を観察し、2匹のネコの関係を、遊び好き、攻撃的、どちらでもない(少なくとも1匹が両方の性格を持つ)の3つに分類した。その結果、遊び好きペアが56.2%、攻撃的ペアが15.2%、どちらでもないペアが28.6%となった。

 そして、6種類の行動とペアの関係について比較分析したところ、取っ組み合い(レスリング)が遊び好き関係と、鳴き声やうなり声が攻撃的関係と関係し、取っ組み合い(レスリング)行動とどちらでもない関係との強い関係性が示唆されたという。取っ組み合い(レスリング)は子ネコで多く観察され、その際に発声することは少ないのも特徴だった。

無言の取っ組み合いは仲良し関係

 これに関連し、同研究グループは、鳴き声を出す場合、攻撃的なシグナルのことが多いと述べている。しゃがんだり腰を落としたりする従順な姿勢は非攻撃的な行動を示していても、相手を凝視するのは攻撃的な関係につながりかねないとし、飼い主は耳と尻尾の動きとともに凝視行動をより注意深く観察したほうがいいかもしれないという。

 どちらでもない関係では、遊びに誘っても乗ってこなかったり、遊びがすぐに終わるなどするが、時間をかけて相手との関係性を模索することで深刻な対立関係にならないよう調整している可能性があるようだ。これについては、相手を意識して首を振ったり自分の毛繕いをしたりするストレス行動もあれば、相手を意識せずに単独で水を飲んだり駆けっこしたりする行動もあり、評価が難しい関係だという。

 また、取っ組み合い(レスリング)行動と攻撃的行動が混在している場合、ネコ同士の関係性が混乱していることが考えられ、完全に敵対的な関係になる前に飼い主が介入できるチャンスの可能性がある。同研究グループは、短期的に関係が悪化しても長期的には良好な関係を維持することもあるとし、飼い主がネコをよく観察することが必要だという。

 ネコ同士の相互の行動についての研究はそれほど多くない。この論文もパイロット研究だが、以上をまとめると、先住ネコに新参ネコを組み合わせた場合、特に子ネコで声を出さずに取っ組み合い(レスリング)をしている行動は良好な関係があり、お互いに近寄らず、鳴き声やうなり声を出すようなら緊張関係にあり、ケンカに発展する危険性がある。

 こうした兆候を観察したら獣医師に相談するなりし、ネコ同士のペアリングをより慎重にすることで、不幸な結果を避けられるだろう。

※1-1:Agnes A. Wassink-van der Schot, et al., "Risk factors for behavior problems in cats presented to an Australian companion animal behavior clinic" Journal of Veterinary Behavior, Vol.14, 34-40, July-August, 2016

※1-2:Salla Mikkola, et al., "Fearfulness associates with problematic behaviors and poor socialization in cats" iScience, Vol.25, Issue10, 21, October, 2022

※2:N. Gajdos-Kmecova, et al., "An ethological analysis of close-contact inter-cat interactions determining if cats are playing, fighting, or something in between" scientific reports, 13, Article number: 92, 26, January, 2023

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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