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それでもやはり不織布「マスク」は着用したほうがいいこれだけの理由

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(提供:イメージマート)

 マスクについて議論が起き始めている。新型コロナの感染対策として、政府や行政はマスクの着用を勧めてきたが、マスク着用の取り扱いを変えようという動きだ。マスクについて改めて考えてみたい(この記事は2023/01/18時点の情報に基づいて書いています)。

適切な不織布マスクの着用とは

 強制力を持つ法的な規制ではないが、厚生労働省はマスク着用のガイドラインとして、人との距離が目安として2メートル以内の場合を除き、屋外では季節を問わず、原則不要としている。そして屋内では、距離(目安は2メートル)を確保でき、図書館内など会話をほとんどしない場合にはマスク着用の必要はない、とする。

厚生労働省「マスクの着用について」より
厚生労働省「マスクの着用について」より

 一方、報道によれば、岸田文雄総理大臣は2023年1月20日、新型コロナウイルス感染症を季節性インフルエンザなどと同じ感染法における五類に移行するための検討を加藤勝信厚生労働大臣に指示し、この指示の中には屋内でのマスク着用の推奨の変更も含んでいるという。屋内でのマスク着用は症状のある人に限定し、原則不要とすることを検討するようだ。

 SNSでの議論をみると、マスクをわずらわしく感じる人は多い。一方、屋外では原則不要といっても、同調圧力のためか、感染を恐れてのためか、広々とした公園などでもマスクを着用している人がほとんどだ。つけたくはないが、つけなければならない、といった複雑な心境なのだろう。

 ドラッグストアやコンビニエンスストアなどに売っている使い捨ての不織布マスク(ふしょくふ)マスクは、さすがに医療用のサージカルマスク(N95マスクなど)には劣るものの、かなりの感染防御効果があるとされる。

 不織布とはフェルトのように繊維を絡み合わせてシート状にしたものだ。不織布マスクは、この不織布を何枚か重ね合わせ、あるいは一枚を立体的に成形して作られている。

 一方、布マスクは不織布マスクに比べてフィルター能力が低く、ウイルスやウイルスが含まれた飛沫を十分に捕捉することはできない(※1)。また、ウレタンマスクも布マスクと同じように不織布マスクに比べると効果はかなり低い。厚生労働省は、使い捨ての不織布マスクが最も効果が高く、次に布マスク、そしてウレタンマスクの順に効果が落ちるが、フィルターの性能などによっても差が出る、としている(厚生労働省:新型コロナウイルスに関するQ&A)。

 不織布マスクの場合、よく野球場とボールの比較で言われるように、不織布の繊維の隙間はウイルス(約0.1マイクロメートル)より大きい。だが、不織布の繊維を通過する間にブラウン運動をするウイルスが捕捉され、分子間の吸引力であるファン・デル・ワールス力によっても繊維に吸着されるので効果はある。

 マスク自体のフィルター効果が発揮されるためには、マスクと顔の間から流入する空気を極力、抑えなければならない。マスクと顔の間からウイルスが入ってくることを完全に防ぐことができない場合、感染防御の効果はあまりないと主張する研究もある(※2)。そのため、マスクと顔の間をなるべく密着させたほうがいい。

「不織布マスク」着用が感染を防ぐのは明らか

 新型コロナのパンデミックが広がり始めた頃、WHO(世界保健機関)が、新型コロナに関してはマスクの使用を推奨しないとアナウンスしたり、逆に米国のCDC(疾病管理予防センター)が感染拡大防止の観点からマスク着用を推奨するなど、マスクについては議論が起きた。

 だが、今では新型コロナの感染対策として、マスク着用には効果があるというはっきりとしたエビデンスが多数出ている(※3)。さらに、鼻腔が冷えるとウイルスなどへの抵抗力が下がるため、特に冬季はマスク着用で冷たい空気の侵入を防ぐことも重要だ。

 政府は、屋内で症状がある人を除き、原則的にマスク着用を推奨しないことを検討する動きをみせている。だが、新型コロナは症状がなかったり、症状が軽かったり、あるいは発症前だったりする感染者から感染するリスクも高い。

 不特定多数が集まる屋内で換気が不十分な場合、マスクをしない人ばかりだったらどうなるか、火を見るより明らかだ。こうした政府の動きが、感染対策を軽視する間違ったアナウンスにつながらないか危惧する。

 一方、変異するウイルスに対し、ワクチン接種を際限なく続けることができるのかどうか、多くの人は疑問を抱いている。五類にし、接種費用を自費にすれば接種率はますます下がるだろう。そして、副反応の実態についても未解明のままだ。

 もちろん、ワクチンの効果はあるのだろうが限界はある。やはり依然として不織布マスクの着用、そして入念な手洗いやうがいはもちろん、人と人との距離をなるべく空け、屋内ではまめに換気をすることが基本的な感染対策として重要なのは間違いない(※4)。

※1:C Raina Maclntyre, et al., "A cluster randomised trial of cloth masks compared with medical masks in healthcare workes." BMJ Open, Vol.5, e006577, 2015

※2:C Raina Maclntyre, Abrar Ahmad Chughtai, "Facemasks for the prevention of infection in healthcare and community settings." BMJ, Vol.350, h694, 2015

※3-1:Derek K. Chu, et al., "Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis" THE LANCET, Vol.395, Issue10242, P1973-1987, 27, June, 2020

※3-2:Jeremy Howard, et al., "An evidence review of face masks against COVID-19" PNAS, Vol.118 (4) e2014564118, 11, January, 2021

※3-3:Wei Deng, et al., "Masks for COVID-19" ADVANCED SCIENCE, Vol.9, Issue3, 25, January, 2022

※3-4:Zillur Rahaman, et al., "Face Masks to Combat Coronavirus(COVID-19) - Processing, Roles, Requirements, Efficacy, Risk and Sustainability" polymers, Vol.14(7), 1296, 14, March, 2022

※4:Harald Brussow, Sophie Zuber, "Can a combination of vaccination and face mask wearing contain the COVID-19 pandemic?" MICROBIAL BIOTECHNOLOGY, Vol.15, Issue3, 721-737, 28, December, 2021

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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