各地でマダニに噛まれて人獣共通感染症にかかり、重症化や死亡する事例が増えている。暖かくなってくるとマダニによる感染症が多くなってくるが、どう対応すればいいのだろうか。

全国でマダニによる感染症が

 今年1月、マダニが媒介するウイルス感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS、Severe fever with thrombocytopenia syndrome)」で愛媛県の70代の男性が死亡したという報道があったが、この男性はマダニに噛まれた痕はなく、血液検査の結果、感染がわかったという。また、2月には宮崎県で同じSFTSにより70代の女性が死亡している。この女性も噛まれた痕はなかったという。

 4月以後、静岡県、高知県、大分県、熊本県、徳島県などで患者が報告されているが、5月には富山県で飼いイヌから、また6月には鳥取県で飼いネコの感染が確認されている。マダニに噛まれなくても、飼いイヌやネコから感染することもある。

 マダニの仲間には、フタトゲチマダニ、タカサゴチマダニ、タカサゴキララマダニ、キチマダニなどがいて、そのへんの野山や垣根、藪などにごく普通にみられる。だが、マダニ類が人獣共通感染症の微生物やウイルスを持っていると、日本紅斑熱、ダニ媒介性脳炎、マダニ媒介SFTSなどの感染症を媒介する。

 日本紅斑熱は、日本紅斑熱リケッチアという病原体を持つマダニにかまれると感染する。潜伏期間は2〜8日。高熱や発疹が現れ、重症化して死に至ることもある。また、ダニの幼虫であるツツガムシもリッチケア症を媒介し、全国的に患者が発生している。

 ダニ媒介性脳炎の潜伏期間は7〜14日で、まずインフルエンザのような発熱、頭痛、筋肉痛が1週間程度続くという第一期の症状が出る。この症状は、1週間より短かったり、症状がない場合もあったりするようだ。熱がひいてから2〜3日間は症状がなくなるが、その後、痙攣、眩暈、知覚異常などの中枢神経系症状を引き起こす第二期となる。その結果、脳炎や髄膜脳炎になり、感覚障害などの後遺症が残る場合もあり(35〜60%)、致死率は1〜5%とされている。

 マダニ媒介SFTSの潜伏期間は6日〜2週間で、発症すると発熱や食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛などの消化器系への悪影響などを引き起こす。頭痛、筋肉痛、意識障害や失語などの神経症状、リンパ節腫脹、皮下出血や下血などの出血症状などが起きることもあり、致死率は6.3〜30%とされている。

 マダニはどれくらいSFTSウイルスを持っているのだろう。奄美諸島を含めた鹿児島県で2014年から2017年まで調査した報告(※1)によれば、県本土のマダニ類のSFTSウイルスの遺伝子検出率は約7%、奄美大島や種子島、屋久島のマダニ類からも約3%から約13%の遺伝子検出率だったという。また、同県の死亡例を含む患者発生状況は、4月から8月、10月が多くなっていた。

無理に取らず医療機関へ

 国立感染症研究所「マダニ対策、今できること」によれば、ダニに刺されないためには、野山や畑、藪などへ入る際、虫除けスプレーなどを使い、肌を露出しないことが大切だ。野山などへ入った後、自宅へ戻る前に衣服をよく払い、付着したダニを持ち込まないようにする。飼いイヌやネコも外から帰ってきたらブラシなどをしてダニを落とす。帰宅後は衣服をすぐに洗濯し、自身もシャワーなどを浴びることが重要だろう。

 前述したように、全てのダニが感染症の原因となる病原体を持っているとは限らないが、明らかにダニに刺されている場合、無理に取ろうとするとマダニの口の部分が皮膚の中に残ることがある。マダニに噛まれたことが確認できたら、医療機関で治療をうけたほうがいい。また、刺されたと感じたり刺し口があったりしたら潜伏期間後まで体調を管理し、もし発熱や発疹などの症状が出たら早期に医療機関などを受診して適切な治療を受けるべきだろう。

マダニに噛まれない服装と噛まれた際の注意事項。国立感染症研究所「マダニ対策、今できること」より
マダニに噛まれない服装と噛まれた際の注意事項。国立感染症研究所「マダニ対策、今できること」より

 ところで、こうした人獣共通感染症は、開発の拡大、気候変動、温暖化などによって地球規模で広がっている。新型コロナウイルス感染症も人獣共通感染症だが、こうした環境変化によりヒトと生物の距離が接近し、感染症を媒介する生物の生息域も多様になってきているからだ(※2)。

 新興感染症の3/4は野生生物からといわれ、野生生物や家畜・ペットなど含めた地球環境全体とヒトが健康でなければ人獣共通感染症を防げないという「ワンヘルス(One Health)」のアプローチが分野横断的に進められている。マダニは宿主が多く、媒介する微生物やウイルスには、まだ知られていないものあるという。既知のものが変異する危険性も指摘され、感染症拡大抑止と公衆衛生上の防護、媒介生物研究の進展が期待されている。

 マダニは、肌寒くなる初冬の頃まで活動する。農作業やレジャーなどで野山や畑、草むらなどへ入る際には十分に気をつけたい。

※1:岩元由佳ら、「マダニのSFTSウイルス保有状況等に関する調査研究」、鹿児島県環境保健センター所報、第18号、2017

※2-1:Shanghayegh Gorji, Ali Gorji, "COVID-19 pandemic: the possible influence of the long-term ignorance about climate change" Environmental Science and Pollution Research, Vol.28,15575-15579,6,January, 2021

※2-2:Dayi Zhang, et al., "Ecological Barrier Deterioration Driven by Human Activities Poses Fatal Threats to Public Health due to Emerging Infectious Diseases" Engineering, Vol.10, 155-166, 2022