海の生態系の頂点に君臨するのはシャチだ。あのホホジロザメでさえ、シャチの獲物となる。シャチはサメの肝臓を好んで食べるというがなぜなのだろう。

ホホジロザメも恐れるシャチ

 クジラの仲間は、大きくハクジラとヒゲクジラに分けられる。ハクジラ亜目マイルカ科のシャチはハクジラの仲間で、日本近海を含む世界中の海に生息する。

 シャチの群れの構成は基本的に女系で、母親を中心にした社会的グループを形成し、その生態によって4つないし5つのタイプに分けられる。肉食のシャチは、クジラ類やアザラシなどの海棲ほ乳類を捕食するタイプ、サケやタラなどの魚群を作る魚を主食にするタイプがいて、外洋型(Offshore)、回遊型(Rransient)、沿岸定着型(Resident)かによってもタイプ分けされる。

 外洋型、回遊型、沿岸定着型もほかの哺乳類を食べる。主にクジラなどの海棲ほ乳類を食べる外洋型は凶暴とされ、主にサケなどの魚を食べる沿岸定着型の性格が穏やかと考えられている。

 ところで最近、ホホジロザメが多く生息する南アフリカでその数が減少している。その主な原因はフカヒレを目的にした乱獲や混獲によるものと考えられているが、同じ海域に出現し始めたシャチの捕食圧によって生息域を変えたことも一因になっているようだ(※1)。

 シャチにとってサメも獲物となる。ホホジロザメも例外ではなく、南アフリカの事例のようにホホジロザメがシャチを恐れて海域を逃げ出すこともよくある。

 シャチは特にサメの肝臓を好んで食べる。南アフリカではシャチに肝臓だけ食べられたホホジロザメの死骸が海岸に打ち上げられ、北米サンフランシスコ沖合のファラロン諸島ではシャチが食べたサメの肝臓の断片が海面に浮かび、海鳥がそれを食べていることが観察されている(※2)。

 また、南米アルゼンチンのパタゴニアに打ち上げられたエビスザメの死骸を調べたところ、シャチによって腹部がえぐり取られ、肝臓がなくなっていることも観察されている(※3)。エビスザメも群れで狩りをする危険なサメだが、シャチにとってはホホジロザメと同じく単なる獲物に過ぎないようだ。

シャチによるフードロス

 これらの観察から、シャチはサメの肝臓だけを狙う特殊な技術を持ち、サメの肝臓を常習的に捕食していることがわかったという(※4)。シャチはクジラを襲った場合も舌や脂肪だけを選択的に食べ、残りを捨て去ることもあるといい、フードロス的には問題のある生物なのかもしれない。

 サメの肝臓には脂質が多く含まれ、ウキブクロのないサメは肝臓の脂質によって浮力を得ている(※5)。そのため、サメの肝臓は大きく高い栄養価を持つようだ。

 特に、オンデンザメなど深海に住むサメの肝臓は、体重の80%近くになるほど巨大になることもあるという。脂質を多く含み、身体に比べて大きな比重を持つサメの肝臓は、シャチにとって効率的なエネルギー補給源となる(※6)。

 南アフリカでホホジロザメが減少している大きな原因は人間による乱獲や混獲だが、ある海域でサメの生息域が減ることでシャチの生態が変化し、これまでとは異なった捕食行動をとるようになったとも考えられる。生態系は微妙なバランスを保っているが、人間の活動でバランスが崩れ、その結果、予想できなかった現象が起きるのだろう。

※1:Robin Fisher, "Possible causes of a substantial decline in sightings in South Africa of an ecologically important apex predator, the white shark" South African Journal of Science, Vol.117, 2021

※2:Peter Pyle, et al., "PREDATION ON A WHITE SHARK (CARCHARODON CARCHARIAS) BY A KILLER WHALE (ORCINUS ORCA) AND A POSSIBLE CASE OF COMPETITIVE DISPLACEMENT" Marine Mammal Science, Vol.15, Issue2, 563-568, 1999

※3:Laur M. Reyes, Pablo Carcia-Borboroglu, "Killer Whale (Orcinus orca) Predation on Sharks in Patagonia, Argentina: A First Report" Aquatic Mammals, Vol.30(3), 376-379, 2004

※4:Tamlyn M. Engelbrecht, et al., "Running scared: when predators become prey" ECOSPHERE, Vol.10, Issue1, 2019

※5:Adrian C. Gleiss, et al., "Physical trade-offs shape the evolution of buoyancy control in sharks" PROCEEDINGS OF THE ROYAL SOCIETY B, Vol.284, Issue1866, 2017

※6:John K B. Ford, et al., "Shark predation and tooth wear in a population of northeastern Pacific killer whales" AQUATIC BIOLOGY, Vol.11, 213-224, 2011