新型コロナ感染症:「気温と湿度」は感染拡大にどう影響するか

(写真:中尾由里子/アフロ)

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19、以下、新型コロナ感染症)の感染拡大は世界的にピークを越えつつある。このウイルスは気温や湿度、季節の影響を受けるのだろうか(この記事の内容は2020/05/28までの情報に基づいて書いています)。

SARSやMERSはどうだったか

 新型コロナ感染症の感染拡大は、世界的にみるとピークを越え、第2波を前にした小康状態に入りつつあるようだ。日本や台湾、ニュージーランドなどを含む東アジア、太平洋諸国は、すでに第1波を終えて収束に向かっている。アフリカ諸国で感染拡大がはっきりとあらわれていないのは不気味だが、少しずつ感染が収まっているようにみえるのは各国の感染対策が奏功したからだろうか。

 1日あたりの新たな感染者が1000人以上、死者が100人以上の国はまだ多い。米国、ブラジル、ペルー、メキシコ、ロシア、英国、スペイン、インドだ。

 地球規模で俯瞰すれば、南米ではこれらの国々に加えてチリなどでむしろ感染が拡大しているようにみえるのに加え、アジアではインドネシア、中東ではイラン、サウジアラビア、パキスタンなどで感染が収まっていない。

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世界地図でみた2020年5月27日現在の過去14日間の新型コロナ感染症症例数(人口10万人あたり)。Via:ECDC(欧州疾病予防管理センター)COVID-19の世界的な状況

 こうして眺めると、感染の濃淡に地理的な要因があるようにもみえる。そうした観点から、パンデミックを引き起こすウイルスの気温や湿度との関係を調べた研究は多い。

 新型コロナウイルスと遺伝的に近いSARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスの研究では、プラスチックなど表面のつるつるした物質上で摂氏22度から25度、40%から50%の湿度(相対湿度=実際の水蒸気量/空気中に存在できる最大の水蒸気量)の環境で5日以上、存在できた。そして気温と湿度が上がるとSARSウイルスは急速に存在できなくなったという(※1)。

 また、2012年に流行したMERS(中東呼吸器症候群)ウイルスの場合、摂氏20度で湿度40%のプラスチック表面で60時間を超えて存在した。だが、高温高湿に弱く、摂氏30度で湿度80%では24時間で消滅したという(※2)。ただしMERSの場合、摂氏45度でもウイルスによる症状が続いたという研究報告もある(※3)。

 SARSが発生したのは中国広東省仏山で2002年11月とされる(※4)。新型コロナウイルスも2019年12月に武漢から広がった。寒い時期であり、どちらも乾燥した環境にある。

 SARSウイルスもMERSウイルスも感染に適した気温や湿度がある(※5)。また、インフルエンザウイルスの場合、寒冷で乾燥した環境で増殖することがよく知られている(※6)。

気温・湿度が上がれば感染が減るか

 気温・湿度の観点から、新型コロナ感染症が流行する傾向を分析した研究も多く発表されている。まだ世界的に感染が拡大する前には、中国の研究者がよくこうした論文を発表していた。

 中国の122都市の気温を2020年1月23日から2月29日まで調べた研究によれば、摂氏3度までの気温では感染者数の増加と正の相関、つまり気温が上がると感染者も増えることが観察された。しかし、観察が冬季に限定していたこともあり、気温がそれ以上に上昇した場合、新型コロナウイルスと感染者数にどんな関係が生じるかわからないとしている(※7)。

 これも中国の研究だが、上海の復旦大学の研究グループが全国224都市の気温と湿度を調べたところ、新型コロナ感染症の感染との関係はみられず、日照時間が長くなることによる紫外線量の増加とも関係しなかったという。この研究グループは、暖かい季節になっても新型コロナ感染症が収束するとは限らないと警告している(※8)。

 新型コロナ感染症と気温・湿度に関する中国の研究は関係を否定的にとらえるものが多かったが、同じ復旦大学の別の研究グループが今度は都市ごとではなく省別に調べたところ、気温や湿度が上昇するにつれて感染者が減少することがわかったという。これは全国30省の2020年2月11日までの気温・湿度と1日ごとの症例数の関係を分析したものだ(※9)。

 その結果、武漢を含む湖北省で、特に気温・湿度の上昇と新型コロナ感染症の症例数に逆相関、つまり気温や湿度が上がると感染者数が減少することが観察された。湖北省の場合、湿度が67%から85.5%の時に摂氏1度上がるごとに1日あたりの感染者が36%から57%減った。また、摂氏5.04度から8.2度の時に湿度が1%上がるごとに1日あたりの感染者が1%から22%減ったという。

 新型コロナ感染症が中国から世界へ広がるにつれ、世界各国から気温・湿度との関係について調べた研究が出され始める。米国のハーバード公衆衛生大学院の研究グループが米国の科学雑誌『Science』に掲載した論考は、新型コロナ感染症の感染拡大とその対策を季節や気温・湿度、そして免疫獲得など多角的に分析している(※10)。

 この論考によれば、新型コロナウイルスは季節を問わず増殖できる可能性があり、例年、風邪症状を引き起こす他のコロナウイルスの例から、夏に感染が収まっても冬季に再発した際にはより大きな感染爆発を引き起こす危険性があると警告している。つまり、季節性があった場合、毎年、寒くなってくると新型コロナ感染症の流行に対し、強く警戒しなければならなくなるというわけだ。

やはり公衆衛生的な対策が重要

 また、カナダのトロント大学などの研究グループは、3月20日までに報告された世界144地域(カナダ6、オーストラリア5、米国43、その他90)の35万5609症例をピックアップし、2020年3月7~13日の曝露期間における緯度、気温・湿度の地理と季節要因、学校閉鎖、大規模集会の規制、ソーシャル・ディスタンシングの確保といった公衆衛生的な対策と、2020年3月21~27日の追跡期間におけるアウトブレイクの累積発生件数の関係を前向きに調査した(※11)。

 その結果、144地域の感染者の中央値は87.6(100万人あたり)、気温の中央値は摂氏12.8度、湿度の中央値は69.0%、公衆衛生対策が1つだけの地域は24(16.7%)、2つか3つは14(9.7%)だった。

 そして、期間中の累積感染者数の増え方の比(Ratios of Rate Ratios、RRR)で分析したところ、緯度や気温と感染拡大にほとんど関係はなく、湿度に弱い逆相関が観察された。

 一方、公衆衛生的な対策には、感染拡大を抑える強い関係がみられた。例えば、感染拡大を抑える効果として大規模集会の規制35%減、学校閉鎖37%減、ソーシャル・ディスタンシング38%減であり、対策を組み合わせるほど効果が高いことがわかったという。

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新型コロナ感染症の感染が広がったかどうか(縦軸)と公衆衛生的な対策の数。左は対策なし、真ん中は1つ、右が2つか3つで対策をとるほど感染拡大が抑えられることがわかった。Via:Peter Juni, et al., "Impact of Climate and Public Health Interventions on the COVID-19 Pandemic: A Prospective Cohort Study." CMAJ, 2020

 この他にも地球規模で新型コロナ感染症の感染と気温・湿度の関係を調べた研究は多い。例えば、平均気温が高い国では感染者が少なく、降水量の多い国では感染者が多いが、死亡率との関係はないという研究(※12)、あるいは世界166カ国の毎日の感染者数と死亡者データと気温・湿度の関係を調べたところ、気温・湿度が上がると感染者と死亡者が減るという研究がある(※13)。

 ちなみに、春から夏にかけて日照時間が長くなると紫外線が強くなる。

 だが、殺菌作用が確認されている波長200~280nmの紫外線Cが含まれない太陽光線にそれほど強い殺菌効果はない。これまでの研究で明らかなように、新型コロナウイルスに対しても太陽光線による有効性は確認されていない(※14)。

 いずれにせよ、気温が下がって乾燥すれば、免疫力が弱くなって喉などの粘膜のウイルスや細菌の除去機能も下がる(※15)。これから暖かくなる時期だが、これまでの研究によれば新型コロナウイルスは気温や湿度が高くなっても感染力が弱まらない危険性がある。

 日本の政府行政は緊急事態宣言を解除し、大規模な公的公衆衛生対策は区切りをつけた。これからは個々人が、手指衛生とマスク装着、ソーシャル・ディスタンシング、3密回避などの用心を続けることが必要だろう。

※1:K H. Chan, et al., "The Effects of Temperature and Relative Humidity on the Viability of the SARS Coronavirus." Advances in Virology, doi:10.1155/2011/734690, 2011

※2:N van Doremalen, et al., "Stability of Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV) under different environmental conditions." Eurosurveillance, Vol.18, Issue38, 2013

※3:Abeer N. Alshukairi, et al., "High Prevalence of MERS-CoV Infection in Camel Workers in Sauidi Arabia." mBio, DOI: 10.1128/mBio.01985-18, 2018

※4:Rui-Heng Xu, et al., "Epidemiologic Clues to SARS Origin in China." EMERGING INFECTIOUS DISEASES, Vol.10(6), 1030-1037, 2004

※5:Lisa M. Casanova, et al., "Effects of Air Temperature and Relative Humidity on Coronavirus Survival on Surfaces." Applied and Environmental Microbiology, Vol.76, No.9, DOI: 10.1128/AEM.02291-09, 2010

※6:Kari Jaakkola, et al., "Decline in temperature and humidity increases the occurrence of influenza in cold climate." Environmental Health, Vol.13: 22, 2014

※7:Jingui Xie, Youngjian Zhu, "Association between ambient temperature and COVID-19 infection in 122 cities from China." Science of The Total Environment, Vol.724, doi.org/10.1016/j.scitotenv.2020.138201, 2020

※8:Ye Yao, et al., "No association of COVID-19 transmission with temperature or UV radiation in Chinese cities." EUROPEAN RESPIRATORY journal, Vol.55(5), 2000517, May, 7, 2020

※9:Hongchao Qi, et al., "COVID-19 transmission in Mainland China is associated with temperature and humidity: A time-series analysis." Science of The Total Environment, Vol.728, 138778, 2020

※10:Stephen M. Kissler, et al., "Projecting the transmission dynamics of SARS-CoV-2 through the postpandemic period." Science, Vol.368, Issue6493, 860-868, May, 22, 2020

※11:Peter Juni, et al., "Impact of Climate and Public Health Interventions on the COVID-19 Pandemic: A Prospective Cohort Study." CMAJ, Vol.192(21), E566-E573, doi.org/10.1503/cmaj.200920, May 25, 2020

※12:Marcos Felipe Falcao Sobral, et al., "Association between climate variables and global transmission of SARS-CoV-2." Science of The Total Environment, Vol.729, 138997, 2020

※13:Yu Wu, et al., "Effects of temperature and humidity on the daily new cases and new deaths of COVID-19 in 166 countries." Science of The Total Environment, Vol.729, 139051, 2020

※14:Ayse Seyer, Tamer Sanlidag, "Solar ultraviolet radiation sensitivity of SARS-CoV-2." THE LANCET Microbe, Vol.1, Issue1, E8-E9, May, 1, 2020

※15:Eriko Kudo, et al., "Low ambient humidity impairs barrier function and innate resistance against influenza infection." PNAS, Vol.116, No.22, 10905-10910, 2019