新型コロナ感染症:産業医に聞いた「解除後」に事業者が気をつけたい「5つの注意点」

(写真:つのだよしお/アフロ)

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19、以下、新型コロナ感染症)の感染拡大を防ぐために出されていた緊急事態宣言が全国で解除された。再流行も危惧される中、事業者・経営者が気をつけたい点を専門家に聞いた(この記事は2020/05/25時点の情報に基づいて書いています)。

ウイルスはなくなったわけではない

 政府の新型コロナウイルス感染症対策本部は5月25日、感染拡大を防ぐために出されていた緊急事態宣言を全面解除した。緊急事態宣言はすでに5月14日には39県で、21日に近畿3府県で解除されていたが、今回、北海道と首都圏の1都3県で解除され、これで全国で解除されたことになる。

 首都圏では待ちに待った解除となり、新型コロナ感染症が流行する前の生活に戻るような気になっている人もいそうだ。

 だが、感染者数が減ったとはいえ、首都圏や北海道では依然として感染者が出続けている。今回の全面解除で、基本的な対処方針も改定された。自治体の長や専門家は、事業者や経営者、社員、学生、一般人などに対し、「ウイルスがゼロになったわけではない」と気を引き締めるよう注意を喚起する。

 産業医有志グループの一員として、中小企業経営者をターゲットに『企業向け新型コロナウイルス対策情報』を配信するプロジェクトを運営している今井鉄平氏に、宣言解除後に企業や団体などの事業者・経営者が気をつけたい点を聞いた。

更衣室、トイレ、喫煙室

──緊急事態宣言が解除されましたが、会社の事業を今後どのように進めればいいのでしょうか。

今井「これまでテレワークや在宅勤務を行ってきた会社ではしばらくそれを継続し、出社がどうしても必要な場合は時差通勤にするなど、すぐに新型コロナ感染症が流行する前の勤務形態に戻さないほうがいいと思います」

──社内・事業所内はどのようにしたらいいでしょうか。

今井「これも解除前と同じですが、出入りする前の手洗い、うがい、マスク着用、対面しての業務、長時間の会話の回避、デスク周りや複合機、電話といった機器の除菌などが重要です。あと、オフィス環境の場合、意外に更衣室、トイレ、食堂などでの換気や3密の回避などがなおざりになりがちです。更衣室は換気が難しいことが多いので、なるべく多人数が一緒に使わず滞在時間も少なくするようにすべきです。トイレはフタがついていたらフタをしめてから水を流すようにしてください。もちろん、各部屋のドアノブなどの除菌も必要です」

──福井県では会社の喫煙所で感染した事例もあるようです。

今井「産業医の立場から、喫煙所がある事業所には、新型コロナ感染症が完全に収束するまでの間、閉鎖するようにお願いしています。それが難しい場合、3密にならず、2メートル以上間隔を開けるソーシャル・ディスタンシングがとれるよう人数制限をするなどの措置をとるべきでしょう」

リスクの高い社員への配慮を

──社員寮などについてはどうでしょうか。

今井「最近では大部屋の社員寮は少なくなっていると思いますが、外国人実習生などを受け入れている事業者の場合、外国人用の寮は個室でないケースが多いようです。シンガポールでは外国人労働者の居住環境から感染が広がったといいます。日本でも同じようなことが起きないように、外国人用の寮はなるべく個室にするか、大部屋なら仕切りを作るなりして集団感染を起こさないように気をつけるべきです」

──社員・従業員の方への対応はどうすればいいでしょうか。

今井「特に、社員の中に、妊娠中の方、重症化リスクの高い持病のある方、また60歳以上の方がいらっしゃる場合、緊急事態宣言中と同様の配慮が必要になるでしょう。本人の希望を聞いて勤務体系を調整し、可能であればテレワークや在宅勤務が続けられるように事業者・経営者の側も心掛けるべきです」

──通勤時に気をつける点はありますか。

今井「在宅勤務が難しい場合、時差通勤をし、密集した公共交通機関をなるべく利用しないことが大事です。半袖の場合、手洗いはモノに触れるヒジあたりまで、入念にしたほうがいいでしょう。また、気温が上がってくると熱中症にかかる危険性があります。マスクをしている場合、熱中症リスクが高くなるようですが、急いで駅の階段を上り下りするなど、呼吸数が上がる動作を避けるように気をつけたほうがいいでしょう。マスクは周囲に人がいない屋外なら外してもかまいません」

──出張などに関してはどうでしょうか。

今井「政府はまだ都道府県をまたぐような移動を控えるように要請しています。これまでの感染拡大の状況をみると都市部から地方へ広がっていきましたから、都道府県をまたぐ移動の解除まで長距離の出張は避けるべきですし、都道府県内の営業活動も不要不急のものはやめておいたほうがいいでしょう。しばらくオンラインでの会議や営業などを続けることが大事かと思います」

──飲食店は自粛していた営業時間を延ばす店舗も増えてくると思います。

今井「これまでテイクアウトや店前での販売に転換した飲食店が、来客を受け入れたり営業時間が延びたりすることで、従業員の接客機会、客との接触機会が増えることが予想されます。従業員を接触感染や飛沫感染から守るために、例えばレジにビニールカーテンを下げたり、トレーを介しての支払い、キャッシュレス対応など、客との接触をなるべく避けるような仕組みを作ったほうがいいでしょう」

新しい日常を継続

──飲食店の場合、客への感染防止も求められると思いますが。

今井「窓がある店の場合、2方向の窓を開けて店内に風が通るように換気すべきです。窓が少ない構造の場合は、空調設備で外気の取り込みを多くしたり、テナント管理者に換気機能を上げてもらうようにお願いするなど、いろいろ工夫をしてください。客同士が密にならないようソーシャル・ディスタンシングがとれるような店の空間を作るのも重要です」

──飲食店の客の側は、どのような点に注意すべきでしょうか。

今井「外食する場合、同居している家族同士などならそれほど気をつける必要はないかもしれませんが、普段は一緒にいない相手や取引先などと飲食する場合、なるべく換気のいい店を選び、カウンター席で横並びに座ったり、テーブル席なら対角線や互い違いに座ったりしてソーシャル・ディスタンシングを取ったほうがいいでしょう」

──イベントなどが再開していくと思いますが、その際の注意点はありますか。

今井「最近、韓国のクラブからクラスターが発生したように、以前にクラスターが発生した場所へ行く場合は注意すべきです。屋外イベントなら換気ができていますし、密集せずに会話や発声が少なく、ソーシャル・ディスタンシングがとれるイベントなら本人の体調と相談し、マスクをつけて参加することも可能だと思います。ただ、若い人でも重症化リスクはありますし、もし自分がウイルスをもっていたらということを意識して行動してください」

 以上、緊急事態宣言が解除された後の事業者・経営者が注意したい点を産業医の医師に聞いた。これらをまとめるとこうだ。

・すぐに通常モードに戻さない

・手洗い励行とオフィス環境の消毒を

・不要不急の営業はオンラインで

・リスクの高い社員への配慮を

・飲食店では従業員を感染から守る

 基本的には緊急事態宣言中と同じだが、解除されるとどうしても油断してしまう。第2波の襲来も警告されるが、再び同じような非日常に戻さないため、手洗い、マスク、ソーシャル・ディスタンシングといった行動変容と緊張感のある感染対策という新しい日常を継続したい。

画像

今井鉄平(いまい・てっぺい)

産業医科大学医学部医学科卒業。産業医大環境疫学研究室、松下電器健康保険組合(現パナソニック健康保険組合)産業医を経て、2008年よりアズビル株式会社統括産業医として勤務。海外現法も含めたアズビルグループ企業の統括管理を行った。2018年2月にOHサポート株式会社を設立、中小企業向けの産業医サービスを主業務としている。2020年4月より中小企業経営者をターゲットに『企業向け新型コロナウイルス対策情報』を配信するプロジェクトを運営している。