「タバコ増税」に新たな動き

2010年のタバコ値上げの状況(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 タバコ増税の方法については議論があり、日本のタバコ税には謎も多いが、2020年度の税制改革で新たなタバコに対する増税案が浮上している。タバコ会社はあの手この手で課税から逃れ、タバコ価格の上昇を回避しようとするがどうなるだろうか。

リトルシガーとは何か

 日本には世界でも珍しい「たばこ事業法」という法律がある。この法律は、タバコ産業の「健全な育成」を目指すために作られた。また、タバコの製造や販売、価格などが細かく決められ、国内でタバコを製造するのは実質的に日本たばこ産業(JT)しか認められず、外国製タバコの輸入販売も登録制となっている。

 タバコ製品については、2018年度の税制改正により、たばこ税が見直され、2018年10月から2022年10月までの5カ年間で紙巻きタバコは3段階、加熱式タバコは5段階のスライド式増税が課せられている。

 加熱式タバコの課税方式は、従来の重量と小売価格(紙巻きタバコ1本平均約20円を加熱式タバコ0.5本に換算=1本が約10円相当)を1:1の比率で紙巻きタバコに換算される方法を採り、これを5年間の経過措置を設けて1/5ずつ重量制から小売価格との併用制にシフトさせていく方法で増税する。わかりにくいことおびただしい。

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2018年の税制改正によるタバコ増税の仕組み。紙巻きタバコは3段階、2019年は消費増税の影響で据え置き、加熱式タバコは5段階で増税される。これにより紙巻きタバコと加熱式タバコの税額が接近し、各加熱式タバコの間の差も少なくなる。だが、JTのプルーム・テックが最も税率が低いのは、国内のタバコ産業の保護育成をうたう「たばこ事業法」のせいだろう。グラフ作成筆者

 ところで、JTには「わかば(20本450円)」「エコー(20本440円)」「ゴールデンバット(20本420円)」という安価な紙巻きタバコ製品があったが、3種類とも2019年10月以降の売り尽くしで販売を終了した。これに代わって登場したのが「わかば・シガー(20本360円)」「エコー・シガー(20本350円)」「ゴールデンバット・シガー(20本280円、北海道のみ)」「ゴールデンバット・シガー・メンソール(20本280円、北海道のみ)」だ。

 これらの「シガー」は、紙巻きタバコと見た目がほとんど変わらないリトルシガーと呼ばれる葉巻だ。たばこ税制で葉巻は課税方法が紙巻きタバコと異なり、タバコ葉1グラムを紙巻きタバコ1本に換算する。つまり、タバコ葉の重量を少なくすれば課税を下げられるというわけだ。

 さらにJTは、紙巻きタバコの「キャメル(400円、490円)」でもリトルシガーのラインナップ(20本360円)を売り出した。政府与党からは、これら紙巻きタバコに似せたリトルシガーを葉巻扱いにせず、税率を上げるべきという声が出てきているという。

 一方、2020年4月の改正健康増進法の全面施行を前に「シガーバー」に営業形態を変える飲食店も増えている。同法でシガーバーは喫煙目的施設になり、これまで通り店内で喫煙が可能だからだ。

 もちろん、リトルシガーにも健康への悪影響があり、特に呼吸器にダメージを与える(※1)。米国の調査によれば、タバコ増税によって安いリトルシガーへ消費がシフトし(※2)、特に若い世代での喫煙率が上がっているという(※3)。

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紙巻きタバコ(下)とそっくりなリトルシガー(上)。Via:Doris G. Gammon, et al., "Effect of price changes in little cigars and cigarettes on little cigar sales: USA, Q4 2011-Q4 2013." Tobacco Control, 2016

段階的なタバコ増税は悪手

 このようにタバコについては、タバコ会社は安いタバコの製品開発を行い、受動喫煙防止をうたった法の網の目をかいくぐろうとする試みも散見される。また、加熱式タバコの場合、タバコ部分のスティックは課税を免れないが、加熱デバイス本体の価格はタバコ会社が自由に決められる。

 消費者庁は、アイコスを国内販売するフィリップ・モリス・ジャパンに対し、アイコスの値引きキャンペーンの延長を不当として加熱式タバコでは初めて行政処分をしたが、競争が激しくなるとこのような不当なダンピングが行われるようになる。

 タバコ税を上げれば、タバコ会社はタバコの小売価格も上げる。このため、過去の研究などから、タバコの税率を上げれば、タバコ消費つまり喫煙率は減少し、同時にタバコ税収も確保できることが明らかになっている(※4)。0.3〜0.4とされるタバコの価格弾力性から考えれば、タバコの場合は値上げをしても売り上げは減らない。

 2010年にもタバコ増税にともなうタバコ小売り価格の値上げがあり、そのためタバコの販売量は下がった。一方、このときの価格弾力性は、2003、2006年の値上げ時と大きく変化しなかった(※5)。

 一方、2018年の税制改革のような段階的な増税方式を採ると、喫煙者が価格の安いタバコへシフトすることで喫煙率の減少や税収確保という効果は薄れるのだ(※6)。

 そもそも加熱式タバコに段階的な増税を実施した理由は、税制大綱に「その製品特性を踏まえた課税方式」と書かれているようにタバコ会社に対する配慮があったからだ。

 政府は、加熱式タバコについて「健康影響を意識したたばこ製品が開発されることは、個々の事業者の経営判断として考えられる」とし、加熱式タバコの課税方式についても「事業者の開発努力等に配慮する観点から、五回に分けて段階的に実施していく」と明言している。

 だが、加熱式タバコに課せられている5段階というスライド式増税は、タバコ会社に製品開発やマーケティング調査、若い世代の取り込みや拡販といった時間的猶予を与える。タバコ会社は今後もリトルシガーのような安いタバコ製品を市場へ投入し続けるだろう。

 日本のタバコ税や価格は世界的にまだまだ低い。タバコ税の伸びしろはたっぷりある。一気に値上げすれば喫煙率を押し下げ、かつ税収は減らないのだ。

※「たばこ事業法」「たばこ税」のみ「たばこ」と平仮名で表記した。

※1:Arunava Ghosh,et al., "Flavored little cigar smoke induces cytotoxicity and apoptosis in airway epithelia." nature, Cell Death Discovery, Vol.3, doi:10.1038/cddiscovery.2017.19, 2017

※2:Doris G. Gammon, et al., "Effect of price changes in little cigars and cigarettes on little cigar sales: USA, Q4 2011-Q4 2013." Tobacco Control, Vol.25(5), 538-544, 2016

※3:Brian A. King, et al., "Flavored-Little-Cigar and Flavored-Cigarette Use Among U.S. Middle and High School Students." Journal of Adolescent Health, Vol.54, 40-46, 2014

※4:Corne van Walbeek, et al., "Analysis of Article 6 (tax and price measures to reduce the demand for tobacco products) of the WHO’s Framework Convention on Tobacco Control." Tobacco Control, doi.org/10.1136/tobaccocontrol-2018-054462, 2018

※5:伊藤ゆり et al、「たばこ税・価格の引き上げによるたばこ販売実績への影響」、日本公衆衛生雑誌、第60巻、第9号、2013

※6-1:Rosemary Hiscock, et al., "Tobacco industry strategies undermine government tax policy: evidence from commercial data." Tobacco Control, doi.org/10.1136/tobaccocontrol-2017-053891, 2017

※6-2:Ce Shang, et al., "Association between tax structure and cigarette consumption: findings from the International Tobacco Control Policy Evaluation (ITC) Project." Tobacco Control, doi.org/10.1136/tobaccocontrol-2017-054160, 2018