米国の「電子タバコ」被害と日本の「加熱式タバコ」との関係を探る

(写真:アフロ)

 米国で電子タバコによる健康被害が社会問題化している。欧米では電子タバコが若い世代に人気だが、加熱式タバコが広がりつつある日本も同じような状況だ。加熱式タバコは電子タバコのように危険なのだろうか。

米国で電子タバコが蔓延した理由

 米国医師会(American Medical Association、AMA)は2019年11月19日、FDA(U.S. Food and Drug Administration、米国食品医薬品局)の承認を受けていない電子タバコの全面禁止を求める声明を出した。これは全米で2000人以上の患者と40人以上の死者を出している電子タバコ使用に対し、医療従事者がかなり強い危機感を抱いている現れだ。

 ニコチンを加えたリキッド(溶液)を加熱し、蒸気にして喫煙者に吸い込ませるという現在のスタイルの電子タバコが米国に登場したのは2003年のことだ。それからの十数年で電子タバコ市場は米国では4000億円以上になるまで成長した。

 なぜ米国でこれほどまで電子タバコが蔓延してしまったのだろうか。

 米国で電子タバコが流行した背景には、若い世代の既存の紙巻きタバコ離れがある。また、日本と異なり多くの国でニコチンを添加することが合法のため、ほとんどの電子タバコでニコチン添加リキッドが使われている。そのため喫煙者がニコチン依存症になってしまい、電子タバコを止めにくくなった(※1)。

 日本では大麻などの違法薬物がSNSなどで入手でき、若い世代に大麻が広がる原因になっているが、欧米でニコチン添加リキッドや電子タバコ本体の入手がインターネット経由で可能だったことも大きい(※2)。これにより中高生なども気軽に電子タバコを吸い始めるようになってしまった。

 電子タバコの多くがリキッドを使っているが、このリキッドにニコチンを含む様々な物質を添加することが可能なため、米国で続出している電子タバコによって病気になった患者の原因究明に時間がかかっている。添加物質にはニコチンの他、大麻の成分(テトラヒドロカンビノール=Tetrahydrocannabinol、THC)、ビタミンEアセテート(トコフェロール・コハク酸エステルとも)、グリセロール(Glycerol)、プロピレングリコール(Propyleneglycol)などがある。

 THC添加は以前から健康への悪影響が指摘され(※3)、ビタミンEアセテートにはその肺毒性の報告(※4)がある。また、グリセロールやプロピレングリコールが加熱されることで、発がん性のあるホルムアルデヒド(Formaldehyde)やアセトアルデヒド(Acetaldehyde)、アクロレイン(Acrolein)といった物質に変化することが知られている(※5)。

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基本的な電子タバコ。左の透明部分にリキッドが入っていて大麻成分であるTHCも添加できる。右のほうに充電バッテリーが入っていて、喫煙者は電気的に加熱されたリキッドが蒸発した蒸気を吸い込む。Via:Christian Giroud, et al., "E-Cigarettes: A Review of New Trends in Cannabis Use." International Journal of Environmental Research and Public Health, 2015

同じニコチン供給デバイスだ

 一方、日本の場合、ニコチンの取扱いが法律で厳しく規制されているため、ニコチンが添加された電子タバコ用のリキッドを個人輸入(一定量)以外で販売することはできない。日本でニコチンを摂取する場合、既存の紙巻きタバコなどに頼るしかなかったが、2010年代の半ば頃からアイコス(IQOS)に代表される加熱式タバコが市場に投入されるようになる。

 喫煙者にニコチンを供給するため、加熱式タバコが日本で最初に発売されたのは2013年12月だ。JT(日本たばこ産業)が電気式加熱式タバコ初代プルーム(Ploom)のネットのオンライン販売を始めたのだが、初代プルームは米国の電子タバコJUULを作り出した人間が開発した。

 実は、現在の電子タバコの登場より以前に、すでにニコチンを電気的供給するシステムはタバコ産業によって研究開発されていた。PMI(フィリップ・モリス・インターナショナル)は1990年代から電子タバコを売り出そうとし、この技術が1990年代の終わり頃からアイコスに受け継がれて研究開発が始められている。

 つまり、欧米の電子タバコは日本の加熱式タバコとは親子のような関係になるわけだが、両者の共通項の中ではタバコ産業にとって特に喫煙者をニコチン依存症にするための研究が重要になる。

 例えば、JTはプルームを使い、既存の紙巻きタバコとニコチン摂取量を比べる実験をし、ほぼ匹敵する結果を得ている(※6)。

 また、PMIはアイコスと既存の紙巻きタバコのニコチン血中濃度の上昇の様子を調べ、どちらも喫煙後に急速にニコチンが摂取されることを確認している(※7)。ニコチンは、呼吸器から血液中に入り、脳に作用する速度が速ければ速いほど依存性が増すからだ。

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アイコス(青線)と紙巻きタバコ(赤線)の血中ニコチン濃度の変化。下のグラフは24時間のスパンでみた場合、右上のグラフは70分のスパンでみた場合。Via:Patrick Picavet, et al., "2016 Picavet Comparison of the Pharmacokinetics of Nicotine Following Single and Ad Libitum Use of a Tobacco Heating System or Combustible Cigarettes." Nicotine & Tobacco Research, 2016

 タバコ製品に共通する特徴は、依存性の強いニコチンが入っていることだ。そのため、数年から何十年という長期にわたって朝起きてから寝るまで断続的に喫煙するようになる。

 各種リキッドのニコチン濃度は製品によって0.27~2.91mg/15puffs(ミリグラム/パフ)と幅があるが(※8)、電子タバコで使用されるリキッドのほとんどにニコチンが添加されていることがわかっている(※9)。その一方、米国の電子タバコ・ユーザーに対する調査では、約20%が電子タバコのリキッドにニコチンが添加されていることを知らなかったか、それについてあいまいな知識しか持っていなかった(※10)。

 どんなタバコ製品もニコチンを摂取させるために有害物質を入れざるを得ない。これは加熱式タバコも電子タバコも同じだ。こうして有害物質が少しずつ蓄積し、喫煙者の健康を確実に蝕んでいく。

健康への悪影響が減るわけではない

 実際、WHO(世界保健機関)は2019年7月26日、タバコ問題に関するグローバル・レポートの7回目の改定を行っている。この中では、加熱式タバコや電子タバコを含む新型タバコについての懸念が表明され、これらは登場してから時間が経っていないため、健康への影響に関するエビデンスはまだ少ないとした。

 また、新型タバコに関する科学的な研究の多くは、当事者であるタバコ産業側から出てきている。WHOは、我田引水的にもこうした研究にエビデンスがあるのかどうか疑問が残ると指摘している。例えば、ある研究によると、2009年12月から2017年11月6日までに出版された加熱式タバコに関する研究論文31のうち、20にタバコ産業の関与があったという(※11)。

 WHOのレポートでは、電子的にニコチンを供給するシステム(Electronic Nicotine Delivery systems、ENDs)は間違いなく健康に有害と断定し、従来の紙巻きタバコに比べて害が少ない証拠はないとした。

 紙巻きタバコの有害性はかなり強く、環境汚染物質の基準と比べても数10倍~100倍以上有害だ。もし仮にタバコ会社が主張するように、加熱式タバコの有害物質が1/10~1/100になっているとしても、環境基準を安全にクリアできるレベルにさえなっていない。

 実際、紙巻きタバコを1日20本吸う喫煙者がそれを1日5本の1/4の量に減らしても、リスクはごくわずかしか減らないのだ(※12)。タバコ煙には、これくらいなら大丈夫という閾値はない。たとえ1本でも健康へ悪影響を及ぼす。加熱式タバコの有害物質が少なくなっていても、健康へのリスクが下がるわけではないのだ。

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Aはタバコを吸う本数と虚血性心疾患の危険性との間の関係、Bは能動喫煙と受動喫煙のタバコ煙曝露に関する複数の大規模疫学調査をメタ解析した結果をまとめたもの。縦軸がリスク、横軸が本数。上下のグラフのどちらも少ない本数からリスクが急激に立ち上がり、喫煙に容量的なリスク低減効果のないことがわかる。Via:Malcolm R. Law, Nicholas J. Wald, "Environmental Tobacco Smoke and Ischemic Heart Disease." Progress in Cardiovascular Diseases, 2003

 電子タバコで死者が出ている米国と同様、日本でも加熱式タバコで重篤な呼吸器障害を引き起こし、一時は生命の危機に陥った患者の症例報告が出ている(※13)。これはアイコスを吸った後、急性好酸球性肺炎になった患者だ。

 好酸球は白血球の一種でアレルギー反応を制御する。この症例報告では、アイコスに含まれる物質が劇症のアレルギー反応と好酸球の活性化を引き起こしたのではないかと考えている。

意図的に情報を出さないタバコ会社

 アイコスを製造販売しているPMIは、米国FDAにアイコスから出る物質の資料を提出している。だが、FDAが定める有害物質(Harmful and Potentially Harmful Constituents、HPHCs)の全ての調査結果を意図的に出さず、また未知の有害物質が多く検出されていた(※14)。

 未知というのは、FDAが定めるHPHCsリスト以外という意味だが、タバコ製品から出る物質は7000種類以上であり、その全てについて分析と健康影響が明らかにされているわけではない。FDAが策定したHPHCsリストは、発がん性など特に悪影響が出ることがわかっているものだが、PMIはリストにある93物質のうち53物質の結果を報告していなかった。

 この53物質のうち50物質は、呼吸器や粘膜に対して毒性を持つエチルベンゼン(Ethylbenzene)、呼吸器や神経への悪影響と発がん性の疑いがあるフラン(Furan)、急性毒性と発がん性、環境への悪影響のある2,6-ジメチルアニリン(2,6-Dimethylaniline)が含まれ、FDAに報告されなかったHPHCs以外の56物質は、従来の紙巻きタバコよりアイコスから多く出ていたという。

 報告されなかった56物質には、生体への影響が不明のシクロアルケン(Cycloalkene)類、急性毒性と皮膚刺激性がある無水性リナロールオキシド(Dehydro Linalool Oxide)、皮膚炎や神経障害を引き起こす危険性があるシクロヘキサン(Cyclohexane)、DNA損傷を引き起こすことが疑われる2(5H)フラノン(2(5H)-Furanone)、皮膚や喉など粘膜へ刺激を与え、神経系に影響を及ぼす2-フランメタノール(2-Furanmethanol)などが含まれていた。

 こうした物質の中には、試験管レベル(in vitro)で細胞への悪影響や腫瘍の発生が確認されている物質も多く、これらの物質を加熱式タバコによって肺の奥深くまで吸い込んだ場合の呼吸器への毒性について詳しいことはわかっていない。

 そして、物質が相互に作用し合った複合的な有害性も未知だし、その組み合わせ全てを検証することは実質的に不可能だろう。さらに、タバコ葉の加熱温度によって発生する物質が変化することも問題になる。

 まとめると、米国で問題になっている電子タバコには多種多様な添加物が含まれていた。健康影響の原因物質はまだはっきりわかっていないが、依存性薬物であるニコチンによる常習性はタバコ製品に共通するものだ。

 日本では電子タバコの代わりに加熱式タバコが広まっているが、加熱式タバコにもニコチンと有害物質が含まれ、ニコチンを供給するデバイスとしては米国の電子タバコと同じ構造になっている。ニコチン供給デバイスの問題点は、仮に有害物質が少なくなっていても恒常的断続的に長期間、喫煙習慣がついてしまうことだ。

 米国で現在の形式の電子タバコが登場して十数年が経つ。日本で加熱式タバコが登場してまだ5年ほどだ。10年後に日本で加熱式タバコによる健康被害が顕在化し、社会問題化しないと考えるのは非現実的だろう。

※1-1:L Dawkins, et al., "‘Vaping’ profiles and preferences: An online survey of electronic cigarette users. Addiction, Vol.108(6), 1115-1125, 2013

※1-2:K L, Marynak, et al., "Sales of nicotine-containing electronic cigarette products: United states, 2015." American Journal of Public Health, Vol.107(5), 702-705, 2017

※2:Greta Hsu, et al., "Evolution of Electronic Cigarette Brands From 2013-2014 to 2016-2017: Analysis of Brand Websites." Journal of Medical Internet research, Vol.30(3), 2018

※3:Christian Giroud, et al., "E-Cigarettes: A Review of New Trends in Cannabis Use." International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.12, Issue8, 2015

※4-1:Dan Wu, Donal F. O'Shea, "Potential for Release of Pulmonary Toxic Ketene from Vaping Pyrolysis of Vitamin E Acetate." ChemRxiv, 2019

※4-2:John R. Balmes, "Vaping-Induced Acute Lung Injury: An Epidemic That Could Have Been Prevented." AJRCCM Articles in Press ,2019

※5:Leon Kosmider, et al., "Carbonyl Compounds in Electronic Cigarette Vapors: Effects of Nicotine Solvent and Battery Output Voltage." Nicotine & Tobacco Research, Vol.16(10), 1319-1326, 2014

※6:T Suzuki, et al., "The retention of nicotine from new type of heated tobacco product in human respiratory tracts." JT Science, 2016

※7:Patrick Picavet, et al., "Comparison of the Pharmacokinetics of Nicotine Following Single and Ad Libitum Use of a Tobacco Heating System or Combustible Cigarettes." Nicotine & Tobacco Research, Vol.18, Issue5, 557-563, 2016

※8:A El-Hellani, et al. "Nicotine and carbonyl emissions from popular electronic cigarette products: Correlation to liquid composition and design characteristics." Nicotine & Tobacco Research, Vol.20(2), 215-223, 2018

※9-1:L Dawkins, et al., "‘Vaping’ profiles and preferences: An online survey of electronic cigarette users. Addiction, Vol.108(6), 1115-1125, 2013

※9-2:K L, Marynak, et al., "Sales of nicotine-containing electronic cigarette products: United states, 2015." American Journal of Public Health, Vol.107(5), 702-705, 2017

※9-3:Sakane Zare, et al., ""A systematic review of consumer preference for e-cigarette attributes: Flavor, nicotine strength, and type." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0194145, 2018

※10-1:J K, Pepper, et al., "Adolescents' interest in trying flavoured e-cigarettes." Tobacco Control, Vol.25(supp 2):ii62-ii6, 2016

※10-2:M E, Morean, et al., "Nicotine concentration of e-cigarettes used by adolescents." Drug and Alcohol Dependence, Vol.167, 224-227, 2016

※11:Erikas Simonavicius, et al., "Heat-not-burn tobacco products: a systematic literature review." Tobacco Control, doi: 10.1136/tobaccocontrol-2018-054419, 2018

※12-1:Malcolm R. Law, Nicholas J. Wald, "Environmental Tobacco Smoke and Ischemic Heart Disease." Progress in Cardiovascular Diseases, Vol.46, No.1, 31-38, 2003

※12-2:Terry F. Pechacek, et al., "How acute and reversible are the cardiovascular risks of secondhand smoke?" BMJ, Vol.328, 2004

※13-1:Takahiro Kamada, et al., "Acute eosinophilic pneumonia following heat‐not‐burn cigarette smoking." Respirology Case Reports, Vol.4, Issue6, 2016

※13-2:Toshiyuki Aokage, et al., "Heat-not-burn cigarettes induce fulminant acute eosinophilic pneumonia requiring extracorporeal membrane oxygenation." Respiratory Medicine Case Reports, Vol.26, 87-90, 2019

※14:Gideon St.Helen, et al., "IQOS: examination of Philip Morris International’s claim of reduced exposure." Tobacco Control, Vol.27, s30-s36, 2018