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横浜に「カジノ」はいらないの声〜市民ら市役所を包囲

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
市役所を取り囲むために集まったカジノ反対を訴える市民ら:写真撮影筆者

 横浜市が誘致を表明したカジノを含むIR(統合型リゾート)に反対する市民らが、抗議のために市議会が開かれている横浜市役所を包囲するという行動を起こした。反対派の一部は林文子市長のリコールを訴え、これから問題はさらに大きくなっていく様相を呈している。

市役所を取り囲む反対市民

 IRについては、2019年9月17日に市議会の委員会で誘致に関する補正予算案が可決し、多数派を占める自公市議らによって20日の本会議で可決・成立する見込みだ。IR誘致に反対する市民らは、20日12時前、市役所に近いJR関内駅前に集結し、抗議の意志を市役所の周囲を包囲する人の輪で示そうとした。

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JR関内駅前に集結したIR誘致に反対する横浜市民ら。すぐ前には市議会が開かれる横浜市役所があり、カジノ反対の声を上げた。写真撮影筆者

 12時前にはちらほらとした集まりだったが、12時を過ぎる頃からJR関内駅前にやって来る市民らの姿が目立つようになった。平日の昼間ということで中高年が多い。

 12時15分頃には主催者が用意した300枚のビラをすでに配り終え、大至急、追加で印刷しているというアナウンスがあった。少なくとも300人以上の市民らが集まっているようだ。

 そうした中には、若い世代や子育て世代の参加者もいた。彼らに話をうかがってみた。

 2歳と1歳の2人のお子さんがいるという青葉区在住のお母さん(34歳)は、SNSで呼びかけを知り、下のお子さんを預けて上のお子さんを抱っこして駆けつけたという。

 ギャンブルに公的なお金を投入することに疑問を抱き、経済効果にも半信半疑だそうだ。おそらく政府の意向で決められているので、市長を代えてもカジノ誘致は進められるのではないかと首を傾げた。横浜市にはカジノ誘致のほかにもやることがあるはずだし、ギャンブル依存症の問題もあるなど、カジノには直感的な抵抗があるという。

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市役所を人の輪で包囲し、カジノ反対を訴えた横浜市民ら。通りすがりに「カジノ絶対賛成」と叫んでいく中年男性もいた。写真撮影筆者

誰でもギャンブル依存症になる危険が

 このお母さんが心配するように、ギャンブル依存症に関して2017年度に全国4685人(有効回答)を対象にして行われた対面式のアンケート調査によれば、ギャンブル依存症の疑いが過去12ヶ月以内にある人の割合は0.8%(0.5〜1.1%の幅、男性1.5%、女性0.1%)であり、一生涯の経験である場合は3.6%(3.1〜4.2%の幅、男性6.7%、女性0.6%)となっている(※1、追試あり)。

 最も多く金を使われたギャンブルはパチンコとパチスロだった。また、ギャンブル依存症が疑われる人の1年以内の掛け金は月平均約5.8万円だったという。

 日本のIRカジノは、米国型のスロットマシンで収益を上げるシステムが導入される危険性がある。スロットマシンは、パチンコに似たゲーム感覚で依存を亢進させるため、日本にはスロットマシン依存の予備軍が多く存在するということにもなる。

 さらに、日本人の場合、他国と比べると一生涯でギャンブル依存症が疑われる人の割合が高い。これは身近な場所にパチンコや公営ギャンブルが普通にある環境によるものと考えられるが、過去12ヶ月でみればそう高くもない。

 だが、病的ギャンブリングも依存症の一種であり、だとすれば過去に一度でもギャンブルにはまりかけた経験があれば、脳の報酬系に依存メカニズムができてしまっている危険性が高い(※2)。カジノができた拍子に気軽な気持ちでやってみて、以前の記憶がよみがえり病的ギャンブリング=ギャンブル依存症に陥ってしまうかもしれないのだ。

 ある研究によれば、ギャンブル依存症になりやすい特別な条件というのはない(※3)。つまり、誰でも病的ギャンブリングに陥ってしまうということになる。

若い世代にも強い抵抗感

 飲食店に勤めているという男性(21歳)は、横浜市民ではなく川崎市在住とのことだが、SNSで今日の抗議集会を知り、参加したという。こうした集まりに参加するのは初めてで緊張していると笑ったが、今ここで食い止めなければカジノは日本中にどんどん広がっていくという危機感があるそうだ。

 カジノができれば川崎の飲食店に好影響があるのではと聞くと、周囲にそうした意見は全くないという。最近、同じ世代の友人たちとバーベキューをする機会があり、カジノについてどう思うか聞いてみるとほとんどが否定的だったそうだ。

 カジノを含む横浜のIR誘致に関しては、計画そのものはもちろん、市民の声に耳を傾けない林市長の姿勢にも批判が集まっている。横浜市民の半数以上が否定的という調査もあり、20日の抗議活動の様子をみても問題は今後さらに大きくなっていくという印象を受けた。

※1:樋口進ら、「国内のギャンブル等依存に関する疫学調査(全国調査結果の中間とりまとめ)」、ギャンブル障害の疫学調査、生物学的評価、医療・福祉・社会的支援のありかたについての研究、障害者対策総合研究開発事業、2017

※2:Iris M. Balodis, et al., "Diminished Frontostriatal Activity During Processing of Monetary Rewards and Losses in Pathological Gambling." Biological Psychiatry, Vol.71, Issue8, 749-757, 2012

※3:Agneta Johansson, et al., "Risk Factors for Problematic Gambling: A Critical Literature Review." Journal of Gambling Studies, Vol.25, Issue1, 67-92, 2009

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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