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タバコを吸う人は「大麻」にも手を出しやすい?

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)

 薬物やギャンブルやゲームなどの依存症は、脳の構造や脳内物質を変化させ、人に依存的な行動をとるように仕向ける。最新の研究で、タバコに含まれるニコチンと大麻の使用の間につながりのあることが示唆された。

依存性薬物が蔓延しつつある

 薬物汚染が社会に広がっている。人気音楽ユニットのメンバーが麻薬及び向精神薬取締法のコカイン使用で、また芸能人のカップルが大麻取締法違反の容疑で逮捕されるなど、汚染の深刻さが垣間見られる状況にもなっている。

 大麻は世界で最も多く使用されている違法な依存性薬物といわれ、その使用によって脳障害、意識障害、幻覚、妄想、記憶力の低下、知的障害などを引き起こすとされる。依存性が低いというのは誤解で、常用すれば大麻に対して依存状態になるのは明らかだ。

 カナダや米国などを中心に大麻合法化の動きがあるが、依存状態になれば他の多くの依存性薬物や依存症と同じように、人とのコミュニケーションがおっくうになったり大麻以外の喜びを感じにくくなったりして正常な社会生活をおくることが難しくなる。

 タバコに含まれるニコチンもその依存性により、喫煙者の多くが喫煙以外の人生の喜びを感じにくくなることが知られている。大麻もニコチンも同じような作用があるということだ。

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大麻(Cannabis)、タバコ(Tobacco)、コカイン(Cocaine)、アルコール(Alcohol)などの薬物を依存性(Dependence)と身体的な有害性(Physical Harm)で比較したグラフ。大麻はタバコより依存性が弱いが身体的な有害性はほぼ同じ程度だ。一方、タバコの依存性はコカインよりやや弱い程度で高い依存性がある。Via:Nutt, et al., "Development of a rational scale to assess the harm of drugs of potential misuse." The LANCET, 2007

 薬物汚染の実態を理解する上で無視できない作用に、ゲートウェイ(入口)理論というものがある。例えば、喫煙や飲酒は違法薬物の使用への入口になるという仮説で、米国の若い世代を対象にした調査研究によれば、喫煙者はコカインやLSDなどに手を出しやすいことがわかっている(※1)。

 ゲートウェイから依存性薬物に入り、その後、より強い作用のある違法薬物にエスカレートしていくこともよく知られている。大麻もタバコと同じような存在で、覚醒剤やヘロイン、LSD、MDMAといった合成麻薬への入口になるようだ(※2)。

 タバコから大麻、そしてより依存性と強い身体的な悪影響を生じる違法薬物へつながる道筋がある。そして、これらは相互に作用し合っていると考えられているのだ。

大麻とタバコの関係とは

 デンマークのオーフス大学などの研究グループは、大麻の使用障害(Cannabis Use Disorder、CUD)について関係したCHRNA2という遺伝子を研究してきた。今回、英国の科学雑誌『nature』の「nature neuroscience」オンライン版に、多くの人の遺伝子を調べた研究の結果、大麻の使用障害に関する固有のDNA配列(遺伝子マーカー)がニコチンによる脳の受容体制御とつながりのあることが示唆されたと発表した(※3)。

 大麻の使用障害とは、脳障害、意識障害、幻覚、妄想、記憶力の低下、知的障害などを引き起こすことだが、この研究グループはデンマークで行われた全国規模のコホート(集団)調査を使い、2000人以上の大麻の使用障害患者のゲノムを、比較対象として選ばれた5万人近くのゲノムと比較解析したという。

 比較的高い頻度で見つかった遺伝的な多型と大麻の使用障害との関連を特定した結果、前述したCHRNA2という遺伝子の働きをコントロールする遺伝的な多型と、大麻の使用障害との間に関連性を見出した。このCHRNA2遺伝子は、脳の中で働くアセチルコリンという神経伝達物質を受け取る受容体に存在する。

 アセチルコリン受容体は本来ならアセチルコリンという物質を受け取るが、そこにニコチンがくっつく場合もあり、これをニコチン受容体(ニコチン性アセチルコリン受容体)という。アセチルコリン受容体の一種にニコチン受容体があるわけだが、そのため研究グループは大麻の使用障害とニコチンの間になんらかの関連性があると考えた。

 オーストラリアで大麻使用者と喫煙者を調べた研究(※4)によれば、大麻の使用者はタバコを吸うようになる、つまり大麻が喫煙のゲートウェイになるようだ。また、先に大麻を使用した場合、ニコチン依存になる危険率も高くなるという。

 このように大麻とタバコには密接なつながりがある。特に若い世代の喫煙率を下げ、タバコを吸わせないことは、彼らが違法薬物に手を伸ばすリスクを下げることにもなるというわけだ。

●薬物依存などに関する相談先

厚生労働省「薬物乱用防止相談窓口一覧

「全国精神保健福祉センター」一覧

特定非営利活動法人アスク「薬物問題の相談先」

NPO法人 全国薬物依存症者家族会連合会

※1:N Rigotti, et al., "US college students’ use of tobacco products: results of a national survey." JAMA, Vol.284, 699-705, 20000

※2:W D. Hall, M Lnskey, "Is cannabis a gateway drug? Testing hypotheses about the relationship between cannabis use and the use of other illicit drugs." Drug and Alcohol Review, Vol.24, 39-48, 2005

※3:Ditte Demontis, et al., "Genome-wide association study implicates CHRNA2 in cannabis use disorder." nature neuroscience, doi.org/10.1038/s41593-019-0416-1, 2019

※4:George C. Patton, et al., "Reverse gateways? Frequent cannabis use as a predictor of tobacco initiation and nicotine dependence."Addiction, Vol.100, Issue10, 1518-1525, 2005

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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