「若い連中を狙え」~タバコ産業の悪魔的戦術とは

(写真:ロイター/アフロ)

 タバコを吸い始める年齢は驚くほど早い。タバコに興味を示す子どもを減らすことは、すなわち喫煙者を減らすことでもある。だが、タバコ会社は未成年者の喫煙防止を訴えつつ、子どもを喫煙習慣に誘い込もうとしている。

未成年でタバコを吸い始める

 タバコ会社などのタバコ産業は、成人してからの喫煙者はほとんど相手にしていない。なぜなら、世界的にタバコを初めて吸う年齢は、成人前の未成年時からで、これについては日本国内を含めて多くの調査研究がある(※1)。

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初めてタバコを試した年齢と喫煙を日常的に開始した年齢を示すグラフ。米国で30代の喫煙者に対し、喫煙開始年齢を調べた1991年の調査より。Via:Gary A. Giovino, et al., "Epidemiology of Tobacco Use and Dependence." Epidemiologic Reviews, 1995

 また、日本の場合、25歳を過ぎてからタバコを吸い始め、止められなくなるような喫煙者はごく希だが、タバコを吸い始める年齢が早いほどニコチン依存症になりやすく、禁煙がしにくくなることが知られている。その後も吸い続ければ、当然だが喫煙本数が増え、その結果、全死因死亡、がん死亡、循環器疾患死亡、がんにかかるリスクの増加と十分な因果関係(レベル1)があるとされている(※2)。

 もちろん、日本では明治時代から未成年者の喫煙を禁じた法律(未成年者喫煙禁止法、1900年施行)があり、未成年者の喫煙を知りつつ止めなかった保護者や親権者、未成年者と知りつつタバコや喫煙具を販売した者などが科料や罰金に処せられることになっている。タバコを吸った未成年者は法的に罰せられないものの、警察による補導の対象になったり、校則などで停学などに処せられることもある。

 先進国では未成年者の喫煙は減りつつあるが、高校生など成人年齢に近づくほど喫煙率が上がるようだ。ただ、警察によって補導対象になった喫煙による不良行為少年の数は年々下がり続けている。

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喫煙によって補導された不良行為少年の数の推移。2009年に下がっているのはtaspo導入による効果と考えられている。また2011年からの下降は、成人の喫煙率低下とタバコ価格の上昇によるもののようだ。警察庁生活安全局少年課、「平成29年中における少年の補導及び保護の概況」より:グラフ作成筆者

 一方、米国や英国などではニコチンが添加された電子タバコが流行し、新たな教育問題、公衆衛生上の問題になっている。そして、電子タバコでニコチン依存症になった喫煙者が、よりニコチンの強い紙巻きタバコへ移行することもわかっており(※3)、アイコスなどの加熱式タバコが広がりつつある日本でも対岸の火事ではない。

タバコ産業の狡猾な広告宣伝

 子どもがタバコに興味を示す理由は、タバコ会社の広告宣伝、テレビや映画などでの喫煙シーン、保護者や友だちの喫煙、学業成績の低下、思春期特有の心理的不安定などが考えられている(※4)。喫煙者なら身に覚えがあると思うが、マスメディアでは盛んにタバコを吸う大人が出てきて、その魅力をアピールしている。

 背伸びしたがる子どもにとって、タバコを吸うことが大人への通過儀礼と勘違いすることは理解できるだろう。また、タバコ会社はこのことをよく知っている。「タバコは大人の嗜み」などと、あたかも喫煙と成熟さを紐づけるような表現するメディアがあったり、そう発言する大人がいるが、まさに無責任な言動と言わざるを得ない。

 同じ分脈に、タバコ会社による「喫煙のマナー」という広告宣伝がある。今でも「吸う人も吸わない人も」という枕詞がついて、こうした表現をあちこちで見聞きするはずだ。

 タバコを吸い始めるのが未成年者だとすれば、タバコ会社がターゲットにするのは成人する前の子どもということになる(※5)。マナー広告も狡猾にその効果を狙い、子どもをタバコへ惹きつけることを一つの目的として作られている。

 以前、日本たばこ産業が「大人たばこ養成講座」なる広告展開をしたことがあった。マナー広告という「隠れ蓑」をまとい、背伸びする子どもに向け、あるいはすでにタバコを吸っている男性に向け、喫煙行動へ惹きつけ、タバコに対する後ろめたさを解消、男性性の誇示(逆にいえば女性蔑視)をアピールする狙いがこの広告展開にあったという研究もある(※6)。

 先日、米国のフロリダ州で15歳の少女と両親が、ニコチン添加式電子タバコJUULを製造販売するJUUL Labs社と同社へ出資するタバコ会社(Altria Group社)を相手取った裁判を起こした(※7)。フルーツ味のフレーバーが気に入って気軽にJUUL吸い始めたが、中毒性のあるニコチンが入っていることを知らなかったという。

 日本でもコンビニエンスストアには、子どもが目にする場所にタバコそのものやタバコの宣伝広告が存在する。タバコ規制の厳しい国では、店頭でタバコ製品をさらしておくことのできない法律を作っている場合も多い。

 今もタバコ産業は加熱式タバコなどを市場に投入し、狡猾な戦術で子どもを狙っている。好奇心旺盛な子どもに対し、タバコに手を伸ばさないよう注意し続けなければならないのだ。

※1-1:Gary A. Giovino, et al., "Epidemiology of Tobacco Use and Dependence." Epidemiologic Reviews, Vol.17, No.1, 1995

※1-2:箕輪真澄、尾崎米厚、「若年における喫煙開始がもたらす悪影響」、保健医療科学、第54巻、第4号、2005

※1-3:US Department of Health and Human Services, "Preventing tobacco use among youth and young adults." Atlanta: US Department of Health and Human Services, CDC, 2012

※1-4:Centers for Disease Control and Prevention, "Tobacco product use among middle and high school students-United States, 2011 and 2012." MMWR, Vol.62(45), 893-897, 2013

※2:厚生労働省、喫煙の健康影響に関する検討会編、「喫煙と健康」、喫煙の健康影響に関する検討会報告書、2016

※3:Adam M. Leventhal, et al., "Association of Electronic Cigarette Use with Initiation of Combustible Tobacco Product Smoking in Early Adolescence." JAMA, Vol.314(7), 700-707, 2015

※4-1:Nicola Evans, et al., "Influence of Tobacco Marketing and Exposure to Smokers on Adolescent Susceptibility to Smoking." Journal of the National Cancer Institute, Vol.87, Issue20, 1538-1545, 1995

※4-2:Joseph R. DiFranza, et al., "Tobacco Promotion and the Initiation of Tobacco Use: Assessing the Evidence for Causality." Pediatrics, Vol.117, Issue6, 2006

※4-3:Rebecca J. Williams, et al., "Why Children Smoke in 2015 and Prospects for Stopping Them: a Review of Current Literature." Current Cardiovascular Risk Reports, 2015

※5:C Lovato, et al., "Impact of tobacco advertising and promotion on increasing adolescent smoking behaviours." Cochrane Systematic Review, Intervention Version published, 05 October, 2011

※6:村田陽平、「未成年者の喫煙対策と喫煙マナー広告─「大人たばこ養成講座」広告にみられる価値観の問題から─」、保健医療科学、第54巻、第4号、2005

※7:Jenna Rimensnyder, "Juul sued by Florida parents whose vaping teenager developed seizures." Orlando Weekly, 8 May, 2019(2019/05/09アクセス)

※2019/05/12:3:14:※5を追加した。