その「害」は確実にある──「加熱式タバコ」を専門家に詳しく聞いてみた

アイコス3:写真撮影筆者

 アイコス(IQOS)などの加熱式タバコについて、「害がない」「禁煙に役立つ」といった情報を耳にするようになってきた。従来の紙巻きタバコからこれらの「新型タバコ」へ切り替えたり、併用したりする喫煙者も多い。実際のところ、加熱式タバコの影響はどんなところにどんなふうに出てくるのだろうか。新型タバコに関する著作(『新型タバコの本当のリスク』)もある専門家に聞いてみた。

いつの間にか広まりつつある加熱式

 国の法改正として改正健康増進法に受動喫煙防止が加えられ、東京都や大阪府、千葉市など各自治体でも国の規制より厳しい内容を盛り込んだ受動喫煙防止条例が施行されつつある。喫煙環境が狭められる中、加熱式タバコが話題になり、メディアなどでも多く取り上げられるようになってきた。

 タバコを吸わない人はあまり知らないかもしれないが、加熱式タバコは、電気で加熱するデバイス部分、そしてタバコ葉を巻いたり充填したりしてフィルターを付けるなどしたスティック部分に分かれる。デバイスは3社から9種類も出ていて、それらに使用する専用タバコ(タバコ葉を使ったスティック部分)は、それぞれ2~3ブランド、味付けなどでさらに数種類ずつが販売されている(2019年3月)。

 デバイスの中にはすでに流通から排除されて入手が難しいものもあるが、9種類のデバイスはどれも専用タバコを差し込めば今でも吸うことが可能だ。加熱式タバコにこれほど多くの種類が出ていることに驚かされるが、喫煙者にとっては多種多様な製品群の中から自由に選ぶことのできる環境が整い始めていることになる。

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フィリップ・モリス・インターナショナル、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、JT(日本たばこ産業)3社から発売されている加熱式タバコのデバイス(上段)と専用タバコのブランド名と価格。専用タバコには味付けごとにさらに数種類がある。表組み筆者作成(2019年3月)

 加熱式タバコは、確かに紙巻きタバコより煙も匂いも少ない。逆にいえば、それだけ「ステルス性」の高い製品ということで、気付かないうちに本来ならタバコを吸うことができない場所へ入り込んでいるのかもしれない。こんな状況について、いつの間にか地球外生物に侵略されていたというSFをイメージするのは筆者だけだろうか。

 新型のタバコについては、タバコ対策を研究している公衆衛生学の専門家の多くが危惧を抱いている。禁煙外来で治療をする医師も、患者から加熱式タバコについて質問され、明確に回答できないこともあるようだ。

加熱式タバコに受動喫煙の「害」はある

 タバコ問題や健康格差について多くの論文を国際的な医学雑誌に発表している田淵貴大医師は、タバコ対策の専門家として豊かな見識と深い洞察力を持っている研究者だ。

 最近、加熱式を含む新型タバコについて解説した「世界初」の一般書籍『新型タバコの本当のリスク』(内外出版社)を上梓したが、その中では、加熱式タバコがなぜ日本だけで広がったのか、その有害性や社会的影響、使っている人や使おうとしている人、周囲の人への対処法の指南まで明確に述べている。そんな田淵医師に加熱式を含む新型タバコについて聞いた。

──新型タバコ、特にアイコスのような加熱式タバコを吸う人を多く見かけるようになってきましたが、なぜこんなに広まったのでしょうか?

田淵「日本人のガジェット好きが原因の一つだと指摘されています。アイコスは2016年4月にテレビバラエティ番組の『アメトーーク!』で紹介されて、劇的に認知されるようになりました。私も『アメトーーク!』に影響されて電化製品や漫画本を買ったりしていますので、『アメトーーク!』の影響力はすごいと改めて実感しました。さらには、ニコチン入りのリキッドを使う電子タバコが法律で禁止されていることで、加熱式タバコの競合製品である電子タバコが日本では売られていないことも加熱式タバコが日本でブレークした一つの原因だと思います」

──日本の喫煙率はおおむね下がってきていますが、女性と20代男性、高齢者が引き下げていて中年男性の喫煙率はあまり下がってきていないようです。加熱式タバコはこの傾向にどのような影響を与えていると考えられますか?

田淵「加熱式タバコに手を出してしまうと、禁煙しにくくなってしまう可能性があるんです。インターネット調査プロジェクトJASTIS研究によると、今、タバコを吸っている人が禁煙したいと思ったときに、禁煙する方法で最も多かったのが『加熱式タバコに替える』というものでした。しかし、加熱式タバコに替えても、結局は紙巻タバコとの併用になってしまって止められないという人が多くいるようなんです。もちろん、詳しく調査して分析してみなければわかりませんが、加熱式タバコが日本人の喫煙率の動向に影響しているのは間違いないと思います」

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田淵医師は、アンケート調査などで「タバコを吸っていますか」と聞くだけでは実態が分からなくなったと指摘する。加熱式タバコはタバコではないと認識している人がいるからだ。喫煙率の低下傾向がある中、こうした喫煙者の認識や加熱式タバコの普及の影響、タバコを吸っているとは答えにくい状況などを全て考慮しないと喫煙率を正確に知ることができない。写真提供:田淵貴大

──加熱式タバコには受動喫煙の被害がないという誤った考え方が表れ始めているようですが、受動喫煙の害の危険性が極めて低ければ、受忍できるものでしょうか?

田淵「確かに、加熱式タバコからは副流煙(吸わない時もタバコの先端から出る煙)が出ませんから、受動喫煙の程度は低いかもしれません。ただし、これは紙巻タバコによる受動喫煙と比較した場合は、という“条件付き”です。加熱式タバコからも紙巻タバコと同様に多くの種類の有害物質が出ていますから、受動喫煙の害はあるかないかでいえば確実に“ある”です。今まで禁煙だったのに、加熱式タバコならOKとはできません。ただし、紙巻タバコの煙が充満していた環境が、いったん加熱式タバコに切り替わるのなら、経過措置としてはマシだと言えるかもしれません。いずれにせよ、ゆくゆくは加熱式タバコも屋内で使ってはダメですよとするべきですね。有害物質はソファーなどに付着して何年も蓄積するとわかっていますから」

──いわゆるハーム・リダクションに加熱式タバコを利用することに対し、お考えをお聞かせください。

田淵「ハーム・リダクションとは、簡単に言うと、大きな害のある行動をそれよりも小さな害の行動に置き換えることによって、害は完全にはなくせないが、害を少なくさせることです。タバコ問題の場合のハーム・リダクション戦略として、どうしてもタバコを止められない人に対して、タバコの代わりに害の少ないタバコを吸ってもらったら、有害物質への曝露を減らせるのではないか、というわけです。しかし私は、これまでの客観的・科学的な知見に基づき、加熱式タバコによる本人への健康被害は紙巻タバコとほとんど変わらないのではないかと予測しています。一方で、加熱式タバコでは吸引することとなる有害化学物質が紙巻タバコよりも少ない、という点に着目して、“ハーム・リダクション(害の低減)”として加熱式タバコが活用できるのではないかと訴えている医師もいます。ただ私は、このハーム・リダクション戦略がうまくいくとは考えていません。なぜなら、ハーム・リダクションとなるためのそもそもの前提事項である『加熱式タバコは紙巻タバコよりも害が少ない』ということが間違いではないかと考えているからです。米国の専門家の多くも、私と同じ意見のようです」

ラインナップはどんどん増えるだろう

──現在、加熱式タバコはタバコ3社から出ていますが、種類も増えてきているようです。今後、タバコ会社が進めていく戦略として、加熱式タバコのラインナップはどのようになっていくと考えられますか?

田淵「加熱式タバコだけでなく、電子タバコも含めた新型タバコのラインナップがどんどん増えていくものと予想されます。すでにフィリップモリス社は、“アイコス”ブランドから加熱式タバコだけでなく、電子タバコをリリースするとの情報が入ってきています。以前からタバコ会社は“タバコが何かわかりにくくする”という戦略をとってきており、“アイコス”とだけいっても、それはどのタバコなのかはっきりしなくなってしまうという未来が来ます。タバコや新型タバコの使用状況に関する実態把握が今後さらに困難になると考えられます」

──タバコ会社の中には紙巻きタバコの事業から将来的に撤退する、と明言しているところもありますが、世界的に喫煙率が下がり続け、健康への害も広く周知され、こうした状況でタバコ会社は遠い将来にはなくなるのでしょうか?

田淵「なくなって欲しいですね。本来なら、タバコ製品の有害性が実証され確認された1960年代の時点で、なくなるべきでした。タバコは紙巻タバコの大量生産技術の発展とともに1900年頃から広く普及しましたが、タバコの有害性が証明された1960年頃の時点で利権構造が巨大すぎて、タバコは有害だとわかったのに禁止できませんでした。それから50年以上たった今でも利権構造は維持され、残念ながら、すぐにはタバコを禁止できそうにありません。タバコの人への大きな害は十分に実証され、こんなに有害物質を含んでいると明らかになっているにもかかわらず、合法的に社会に出回っている唯一のものがタバコです。人を大切にする社会を作っていくために、その第一歩として、まずタバコのない社会を目指していきたいと思っています」

 田淵医師の発言をまとめれば以下のようになる。

  • アイコスが広まったのはテレビ番組「アメトーーク!」がきっかけだった
  • ニコチン入り電子タバコが規制されているから加熱式タバコの競合がなかった
  • 紙巻きタバコとの併用となることが多く、加熱式タバコでの禁煙は難しい
  • 喫煙率の調査が難しくなるなど、タバコ対策に影響が出ている
  • 受動喫煙の「害」は確実に「ある」ので、将来的に加熱式タバコも全面的に禁止すべき
  • 加熱式も紙巻きタバコも同じ危険性がある以上、ハーム・リダクションは認められない
  • タバコ会社はタバコの定義をわかりにくくし、実態把握をしにくくする戦略を採っている
  • タバコ利権は有害性がわかっても長く残存したが、今後はタバコのない社会を目指すべき

 ところで、総務省消防庁は火災予防の観点から、タバコ3社に対してオブザーバー参加を要請し、加熱式タバコによる発火試験などのデータを提供させている。筆者の意見としては、電気製品である加熱式タバコのデバイスに対し、消費者庁などの官庁が有害物質の発生機器として厳しく規制し、メーカーに対して専用タバコ部分から発生する物質の安全性の証明義務を負わせるべきだと思う。

 タバコ会社は加熱式タバコについて、従来の紙巻きタバコとは違うとPRしている。であれば、同じように、たばこ事業法と財務省の管轄とは違う解釈で加熱式タバコのデバイスを規制するべきではないだろうか。

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田淵貴大(たぶち・たかひろ)

医師・医学博士。専門は、公衆衛生学(社会医学)・タバコ対策。1976年生まれ。2001年3月、岡山大学医学部卒。血液内科臨床医として勤務の後、大阪大学大学院にて公衆衛生学を学ぶ(2011年、医学博士取得)。2011年4月から大阪国際がんセンターがん対策センター勤務。現在、同がん対策センター疫学統計部の副部長。大阪大学や大阪市立大学の招聘教員。著者としてタバコ問題に関する論文を多数出版。一般書籍として2019年3月に『新型タバコの本当のリスク』(内外出版社)を上梓。日本公衆衛生学会、日本癌学会など多くの学会で、タバコ対策専門員会の委員を務める。2016年、日本公衆衛生学会奨励賞受賞。2018年、後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞受賞。現在、主にタバコ対策および健康格差の研究に従事。写真提供:田淵貴大