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福島第一原発の「デブリ」の正体とは

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
事故直後の福島第一原発、3号機(左)、4号機(提供:エアフォートサービス/アフロ)

 東日本大震災で事故を起こした福島第一原発では各原子炉の燃料棒が溶け落ち、圧力容器の底か、圧力容器を突き破ってさらに下の格納容器の底へいわゆる核燃料の「デブリ(Debris)」となって堆積していると考えられている。このデブリは高放射線を持つ塊りだが、日英共同の調査によりその正体が見えてきた。

佳境に入ったロードマップ第2期

 デブリとはフランス語で残骸とかゴミという意味の言葉で、宇宙開発で放棄されたロケットや衛星などの残骸をスペース・デブリと呼んだりする。原発事故では、高温で溶けた燃料棒を含む放射能を帯びた物質が冷やされ、散らばったり堆積し、デブリとなる。

 福島第一原発では、1〜4号機のそれぞれで水素爆発が起き、原子炉建屋が破壊され、それらの建材などが格納容器へ入るなどした形跡がある。炉心の溶融が起きた1〜3号機には、格納容器内の物質以外の建材やコンクリート、鉄材、モルタルなどが混ざった燃料デブリが存在する可能性が高い。

 ロボットなどを使った格納容器内の探索によると、1号機には格納容器の底に配管などの堆積物を確認、2号機と3号機には堆積物である燃料デブリの存在を確認している。長時間の炉心露出があった1号機では、燃料デブリが圧力容器を突き破って格納容器の底に落ちて堆積していると考えられ、炉心露出の時間の短かった2、3号機ではデブリは圧力容器から下へは落ちていないと考えられている。

 東京電力は、福島第一原発の廃炉措置に関する中長期ロードマップを頻繁に改訂しているが、現在は第2期とされ、どれかわからないが1〜3号機の最初の号機の燃料デブリの取り出しを開始すべき時期だ。2019年度内には取り出すための工法を確定し、2010年度内には最初の号機の取り出しを開始するとしている。

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福島第一原発の廃炉に向けた「中長期ロードマップ」。Via:福島県「廃炉措置に向けたロードマップ」(2019/03/12アクセス)

建屋由来の多孔質の粒子

 福島第一原発の廃炉措置に向け、原子炉建屋の解体と撤去を避けて通れず、そのためには使用済み核燃料と高放射線を持つデブリやデブリ様の溶解物を取り出す必要がある。そしてデブリを除去することはもちろん除去後にどんな方法で管理しなければならないかを知るために、デブリがどんな物質で構成され、放射線量はもちろんデブリの固さ、融解温度、熱膨張率など、どんな特性を持っているか調べなければならない。

 1979年に起きた米国スリーマイル島の原発事故では、2号機の炉心が溶解し、燃料デブリが生じた(※1)。その後の調査で採取されたデブリは、場所によって固さが異なっていたことがわかっている。

 そんな燃料デブリの特性を知るために日英の研究グループによって重要な調査が進められてきたが、今回、英国ブリストル大学と英国立ダイヤモンド・ライトソース研究所(Diamond Light Source)がリリースを出し、福島第一原発由来の放射性デブリの組成解析に初めて成功したと発表した(※2)。

 ダイヤモンド・ライトソース研究所は、低エネルギー放射、極紫外光、超紫外光などの大型放射光源を使ってシンクロトロン(円形加速器)で調査分析を行う施設だ。今回は、非破壊で多元素の同時分析が可能な放射光マイクロビーム蛍光X線(SR-μ-XRF)とマイクロ波トモグラフィ、回折電子顕微鏡で分析したという。

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放射性粒子の3D画像。Via:Diamond Light Source

 リリースによると、福島第一原発から得た放射性粒子(450μm×280μm×250μm)の内部構造と3次元の元素分布などを解析し、材料の組成や影響について解明した。

 この粒子の構造と組成から、主にシリコンベースの繊維質の建材、おそらく原子炉建屋からの物質であり、1号機の溶融により溶けて形成されたと推測される。また、粒子は火山岩のように多孔質で内部に細かな空洞があるため、風化によって細かく断片化し、放射性セシウムなどが環境中へ飛散する危険性があるという。

 研究グループは、さらに炉心に近いデブリを分析し、廃炉措置の工程進捗に貢献しようとしているが、最近の国内の報道をみるとデブリ除去の話題が多く、大量の汚染水をどうするのかがわからない。福島第一原発については多方面からの情報が必要だろう。

※1:D W. Akers et al., "TMI-2 examination results from the OECD-CSNI program.", IAEA, Committee on the Safety of Nuclear Installations, Organization for Economic Cooperation and Development, NEA-CSNI-R--91-9(Vol.1), 1992

※2:Diamond Light Source, "Diamond Light Source unveils first ever images of fuel debris fallout particles from Fukushima."(2019/03/12アクセス)

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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